昔ながらのトンカツをブラッシュアップして新たな味わいに
昭和11年(1936)創業の老舗店。現在は3代目の笹原詳司さんを中心に、父と母とともに店を切り盛りする。笹原さんはかつて、フランス料理とスペイン料理のミシュラン2ツ星店で修行を重ね、シェフになった人物だ。
「昔ながらでありながら、使用するパン粉や火の入れ方など、自分が習得した技術でブラッシュアップしたとんかつを作っています」と話してくれた。揚げ油には精製ラードと、軽く空気に触れさせながら肉の筋からも旨味を抽出させた自家製ラードを合わせている。そうすることによって揚げるときに風味と旨味が凝縮されるのだという。
「10~3月にはカキフライを提供するのですが、そのときは揚げ油にカキの風味が加わり、一層おいしくなります」と教えてくれてた。
とんかつに使用するのは岩手県産のSPF認証を受けた岩中豚。数ある銘柄豚の中から、きめが細かい肉質と脂の甘みなどがあることから決めたそうだ。小麦粉をハケで付けたり、包み込むように優しくパン粉を付けたりと丁寧な仕事ぶりがうかがえる。揚げ方にもこだわり、揚げた後にじっくりと余熱で火を通す。そうすることによって芯まで火が通り、やや白い衣に仕上がっている。
柔らかくてジューシーなヒレカツで、赤身本来のおいしさを実感
人気のヒレカツは、塊のまま揚げると衣が剥がれてしまったり、火が通りにくいので、あえて切って揚げている。そうすることによってヒレがパサつかないという。肉質の柔らかさと、赤身本来の味わいを感じることができる逸品だ。
脂と肉のおいしさを一緒に味わえる薄切りのロースカツ
もう一つの人気メニューはロースカツ定食。2度揚げすることによって、均一に火が通り肉がほんのりとピンク色になっている。一切れを薄く切っているのが特徴で、「一口で食べられるので、脂と肉のおいしさを一緒に食べられます」。
ソムリエ資格のある3代目が選んだトンカツに合うワイン
笹原さんの胸元を見るとソムリエバッジが付いている。「修業先でソムリエの資格を取りました。メニューには載せていませんが、とんかつに合うおいしいワインをそろえています」。ワインは2500円~で、5000~6000円ぐらいのものが中心。現代風とんかつとワインの組み合わせもぜひ試してみたい。
取材・文・撮影=速志淳