暮らしに寄り添う雑貨とお菓子『maika』/『 kb’s bake』
文具、キッチン用品、服などの日用品や遊び心あふれる雑貨のほか、北欧で買い付けてきた器も。店主の宮原剛さんいわく、「デザインや素材はもちろん、自分が実際に使ってお客さんにすすめたいものを選んでいます」。奥に併設された『kb’sbake』で妻の美由紀さんが作るのは、特別じゃなくて毎日食べても飽きないお菓子。
11:00~18:00、月休(祝の場合は営業、翌平日休)。
☎非公開
アートや書に囲まれたギャラリー茶房『頑亭文庫』
地域の人のためのくつろぎの場を目指し、彫刻家・關頑亭(せきがんてい)さんのアトリエを改装。約2.4mの弘法大師座像を作るために設計され、木の香りと高い天井が気持ちいい。頑亭先生が大切にしていた“本物”の作品が展示され、親交の深かった山口瞳氏の直筆原稿も。頑亭先生の書庫に並ぶ本を読んだり、ランチやお茶を楽しんだりといろんな過ごし方ができる。
11:00~18:00、月・火休。
☎042-577-0707
米のまわりに興味津々!『cometen 国立米店』
店主・加藤優さんの米好きが開店のきっかけに。自ら産地を訪ね、生産者の思いに共感した米のほか、ごはんのお供、米粉のお菓子、ごはんを炊く土鍋、取り扱う米の産地の文化など、米のまわりについて紹介。店内のカウンターでは土鍋で炊いたごはんや定食、おにぎり、日本酒も提供。米に関するワークショップも随時開催。
11:30~14:30・16:30〜20:00、月休(祝の場合は営業、翌平日休)。
☎非公開
からだにスーッとなじむやさしい焼き菓子『無添加焼菓子・lerisa』
「お菓子作りのなかで、添加物を使わず、丁寧に作ることがおいしさにつながると気づいて」とは、店主の田村智子さん。焼き菓子は素朴な味で、口中でほろっと崩れる軽い食べ心地に癒やされる。自宅用には好きな焼き菓子を、お土産にぴったりなクッキー缶も。土曜日は店内のカウンターで焼き菓子や季節のお菓子を楽しめる。
11:00~18:00(土は11:00~17:00)、日~木休。
☎042-510-9590
気軽に試して一生ものを探そう『KINBUNDO.(キンブンドー・ドット)』
手頃な1000円前後から憧れの一本まで、デザインや書き心地がさまざまな万年筆がずらり。ゆったりとしたスペースで自由に触ったり、試し書きができたり、リクエストがあれば手に届かないような高級品の書き心地も体験させてくれる。一人一人の書き癖や筆圧などに合わせた一本をおすすめしてくれるので、じっくり話を聞いて選びたい。
11:00~19:00、土・第1・3・5金・第2・4水休。
☎042-505-8815
古きよき時代に思いをはせて『カフェおきもと』
昭和8年(1933)に別荘として建てられ、持ち主が替わりながらも大切に受け継がれてきた洋館が2020年にカフェに。和洋の料理やスイーツを味わいながら、壁や床、窓枠、調度品まで建築当時の雰囲気に浸れる。2023年からは保存会が発足し、会員限定のイベントも。応援したい人はぜひ。
ビールを通して国立の歴史を知る『KUNITACHI BREWERY』
2020年から醸造開始。国立の通りや歴史から着想し、看板商品「1926」は国立の旧駅舎が建てられた年から命名。街並みのモデルになったドイツのケルシュスタイルですいすい進む。駅前に『SEKIYA TAP STAND』があるほか、2022年には醸造所隣に『麦酒堂KASUGAI』がオープン。「古いは新しい」をコンセプトに、欧州の一部ではかつて一般的だった煮沸せず低温殺菌するRaw Aleにも挑戦している。見学不可。
足を運んだあちこちで感じる、国立の人々の生活へのこだわり
南口の駅前からまっすぐ延びる大学通り。道幅が広く緑に包まれた並木道は、穏やかでゆったりとした空気が流れ、行き交う人からそこはかとなくゆとりと品が感じられる。
国立で約70年続く文具店『金文堂』の万年筆コーナーから派生した『KINBUNDO.』も、もっとゆっくりと対話をしながら選んでほしいという思いが開店のきっかけに。「筆記具に限らず、時計やカメラなどにも関心が高く、落ち着いてお話していただける方が多いです」とは、店長の尾川貴幸さん。都心以外で個人経営の万年筆店はあまり見かけないなと思ったけれど、話を聞いて国立にあるべき店だと確信した。
2025年2月、富士見通りで『cometen 国立米店』をはじめた店主・加藤優さんも、少し変わった米屋が受け入れてもらえるか不安もあったそう。「想像以上に米の産地や食文化にも興味を持って、生産者の思いも受け止めてくれます」と話す。
神楽坂から移転した『無添加焼菓子lerisa』は開店してまだ1年だが、早くも街になじんでいる。「おいしいものを探して無添加にたどり着いたのですが、同じような考えの方に来ていただけています。お客さまもせかせかしてないので、神楽坂よりお話する機会が増えました」とは、店主の田村智子さん。
北側の22番街商店会にある『maika / kb’s bake』も三鷹から移転してきた。「国立=丁寧な暮らしと言うイメージ通りでした。私たちが選ぶ、毎日ずっと使いたいものに共感してくれる人が多いですね」と言う店主・宮原剛さん。足を運んだあちこちで、国立の人々の生活へのこだわりが伝わってきた。
古きよき時代を敬う思いが人を惹(ひ)きつける
同じように、昔も町の心地よさに引き寄せられて来た人がいた。作家や芸術家など文化人が多く、その中心的人物が彫刻家の關頑亭先生だ。亡きあと、息子の純さんがアトリエの建物を改装し、2023年にカフェとしてオープンさせた。こだわったのは、頑亭先生が常々話していた“本物であること”。よく見るとびっくりするくらい貴重な品々がさりげなく棚に並んでいるのだ。
「父が好きだったこの街とアトリエの空間をつなぐことで、国立に咲いた文化の花を感じてもらえたら。心の宿る場所に自然と人は集まるんです」という言葉が心に染みた。頑亭先生の親戚にあたる酒店『関屋』初代の夢だったという、国立市唯一のビール醸造所『KUNITACHI BREWERY』も国立を表現したビールで街を盛り上げている。
そして今、国立でひときわ注目を集めているのが『カフェおきもと』。昭和初期に国分寺崖線(がいせん)の高台に建てられた別荘の一軒だ。所有者が亡くなり建て壊す話もあったが、縁あって隣に住んでいた久保家が貴重な建物を受け継ぎ、残すことを決めた。「カフェとして息を吹き返した家を地域の人たちと守っていけたらと思っています」とは、店長を務める久保愛美さん。竹林から洋風の庭園を抜けて現れる洋館はおとぎ話の世界! 細かい装飾も美しく、当時の優雅な情景が思い起こされる。
この街への慈しみの心が積み重なり、国立の上品で穏やかな空気感が守られているのだ。
取材・文=井島加恵 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2025年9月号より





