“新宿のなかの田舎”!?
大久保駅はJR中央・総武線各駅停車のみ停まる駅だ。山手線の新大久保駅は韓国料理目当てで利用することがあるけど、そういえば大久保駅で降りたことはこれまで一度もなかった。
大久保駅のホームに降りると見えるのは雑居ビルたち。多国籍でにぎやかな新大久保と似ているのだろうと予想した。実際、大久保駅を出るとすぐに韓国をはじめ中国、ネパールなどさまざまな国の料理店が並び、5分も歩けば新大久保駅があるという立地だ。
今日はにぎやかな新大久保駅方面を避け、また、新宿駅とは反対の方面(落合、高田馬場、東中野側)に向かってみることにした。
大久保駅から離れるにつれて中層マンションが増え、そのなかに「新宿区立百人町ふれあい公園」が現れた。公園が広いおかげで空は大きく圧迫感は感じない。
バスケを楽しむ若者たちや、ストレッチをする年配者、ベンチに座っておしゃべりするファミリーがいる。人の存在は確かにあるものの、鳥のさえずりと虫の鳴き声が響くような静かな公園だ。
そう、静か。予想していた「新大久保に似た雑多でにぎやかな街」とだいぶ違うぞ。
公園を歩いていると蝶々を追っかけている少年を発見。すでに虫かごにはモンシロチョウが2匹いる。新宿駅の隣でこんな光景に出くわすとは思わずほほえましかった。
生まれも育ちもこの辺りという超地元っ子のお母さんにお話を聞いたところ、「新宿のなかの田舎です」とキラーワードが飛び出した。
新宿に田舎なんてあったのか!
田舎といったってさすがの立地。大久保駅のほかに新大久保駅、東中野駅、落合駅、高田馬場駅が使えて、この公園はそれらの駅のちょうど真ん中くらいの位置にある。
車があまり通らず静かで、近くにはスーパーや青果店もあり、とても住みやすいとのことだ。
特徴的なのは、小学校の生徒の半分以上が外国人ということ。一棟丸々ネパール人が住んでいるマンションもあるそうで、普通のスーパーにドリアンが並んでいたりもするそうだ。
虫取り少年は、いろんな国のお友達ができて楽しいと教えてくれた。
「淀橋市場」で最高のお刺し身定食!
すぐ近くの東京中央卸売市場「淀橋市場」で食事ができると教わり行ってみることに。
淀橋市場は、関東大震災後の人口増加に対応するため昭和14年(1939)に開設。青果市場としては大田、豊洲に次ぐ取扱量だそうだ。新宿に卸売市場があるとはこれまた意外だった。でも飲食店が多いし需要はめちゃくちゃあるんだろうな。
守衛さんに敷地に入っていいのか恐る恐る聞くと、あっちだよと慣れたように教えてくれた。
タマネギなどが大量に積んであるあたりの一角に、昭和を感じさせるたたずまいの理髪店やラーメン店(この日は休み)、自販機コーナーなどが並ぶ。
今回入ることにした『伊勢屋食堂』はドラマ『孤独のグルメ』に登場したそうで、ひっきりなしに人が訪れていた。Uber Eatsの配達の方もいて、昭和の見た目とは反対にその辺はしっかり令和で頼もしい。
順番待ちの紙に名前を記入し、自販機コーナーでしばし待つと名前を呼ばれ、店に入る。
定食だけでなく、「あたま」などつまみもたくさんあるからお酒好きにもたまらないだろう。なお、営業時間は朝5時から14時までと早いので要注意だ。
市場が近いからか青果店が安い
カフェ『Alternative Coffee Works』は、この日メインで歩いた小滝橋通りの道の角っこにある。外に長椅子があり、犬連れでもコーヒーが楽しめるようになっていた。こちらも公園で会ったお母さんのおすすめだ。
外観も店内も大人好みに洒落(しゃれ)ていて、店員さんも笑顔で気さくに声をかけてくれるのですぐに気に入った。
お話を聞いたところ先ほどのお母さん同様、近くにスーパー(『いなげや』)や、『まいばすけっと』、百円ローソン(『ローソンストア100』)などもあり日々の買い物には困らないそう。
特に、卸売市場が近いためか青果店が安いという。
他にも小滝橋通りには群馬・埼玉県産を中心とした生産者さん直送の新鮮野菜を扱う「地産マルシェ」や、酒屋さん、お豆腐屋さん、パン屋さん、ドラッグストアもあり、日常の買い物は便利そうだ。
犬好きに朗報! 「落合水再生センター」の上にある無料ドッグラン
無料のドッグランが設けられた公園がある、と教わり向かうことに。そこは階段の上に緑が広がるちょっと変わった公園だった。
落合中央公園は、新宿区・中野区・杉並区の下水処理場として建設された「落合水再生センター」の屋上部分にできた公園だ。
屋上にも関わらず野球場・テニスコート・遊具のあるエリアがあり、これがなかなか広い。その一角にドッグランがあり、無料で自由に使えるのだという。いいなあ!
ご近所さん同士でドッグランに散歩しにきた方たちに声をかけ、犬をたくさん撫でさせてもらいながら話を聞く。なんと近くには屋上にドッグランがあるマンションがにあったり、犬OKでお酒が飲めるカフェ&バーもあるという。
ドッグフレンドリーな街、犬好きとしてはなんとも羨ましい。
縁側で老舗『寒天工房 讃岐屋』の和菓子をいただく
神田川沿いには、大正3年(1914)創業の『寒天工房 讃岐屋』さんがある。初代が香川県出身のため讃岐という店名がついているそうだ。
無添加の寒天製造にこだわり続けていて、あんみつやところてんが名物。ほかにわらび餅や求肥餅、お団子などもある。テイクアウトしていく人や店内で食べる順番待ちの人もいて人気ぶりがうかがえた。
私は地元の方のおすすめに倣って縁側でいただくことに。
ショーケースには定番とともに季節限定の商品も並ぶ。あんみつと迷ったのだが今日はたくさん歩いて汗もかいたことだしと、青梅の葛寄せを選んだ。
おいしい……。濃厚な甘酸っぱさにパワーが湧いてくる。青梅の果肉の舌触りも心地よく、勢いよく食べてしまいたい気持ちと、ちょっとずつしっかりと味わいたい気持ちがせめぎあい、結果普通くらいのスピードでいただいた。
この辺りに住んでいたら、手土産はこちらのお店を利用するだろうと確信。
こんな感じで大久保駅の散策は終了。
人が多く集まりにぎやかな新宿駅の隣の大久保駅は、意外や緑を楽しむ場所もあり、静かでおだやかに過ごせる街だった。
ただそのなかに、この街で暮らすいろいろな国の人たちの存在を感じたり、飼い主と一緒に過ごせてうれしそうな犬たちの笑顔が浮かび、なんだかそちらも別のにぎやかさがあるのだろうと、とても楽しそうだと思った。
また今回は駅の北側を歩いたが、いつか駅の西側エリア(新大久保駅と逆方面)も歩いてみたい。
さて、次はどの駅の「隣」に散歩しにいこうか。
取材・文=小堺丸子 撮影=小堺丸子、村田あやこ






