築96年の重厚な建物で味わうタイムスリップ甘味タイム『甘味とごはんや 八一(やいち)』
旧米問屋の母屋と内蔵を改装し、2025年3月にオープン。自慢のHACHIパフェ880円は、きな粉グラノーラとほうじ茶ゼリーの上にミルク&ほうじ茶アイス、『平野製餡所』のあんこと和の素材を贅沢(ぜいたく)に使用。隠し味のゆずソースがまたいい。かつて帳場だった6畳の小上がりは、宿場町の風情を感じられる特等席だ。
11:00~21:00(ランチは~15:00、17:00〜は貸切営業のみ)、土・日休。
☎0466-90-3981
藤沢が誇る名物迷宮ビルを堪能するなら今!「フジサワ名店ビル」
1965年、藤沢駅南口初のデパートとして開業。のちに隣接する2棟とフロアごとにつながり、境目不詳の不思議空間に進化した。現在は鮮魚や青果、総菜、書店、洋品店がぎゅっと詰まったビル型商店街として親しまれている。上りは専用エスカレーターで、下りは昭和感あふれる階段で。老朽化により2027年冬に営業終了予定。
10:00~20:00(店舗により異なる)、不定休。
☎0466-23-0111
リクエストと探究心で新作フレーバーが続々誕生『平野製餡所(せいあんじょ)』
マンション1階の奥にひっそりとたたずむ藤沢唯一のあんこ販売店。二木基臣さんが腕によりをかけて作るのは、こし・つぶの定番からフランボワーズ、ゆずなどの変わり種まで多彩。300gから量り売りOKで100gあたり96円~。人気の食べ方は「そのままパクッ」だと妻の利恵さん。食べ歩き用のプラスチックスプーンあり。
7:30~16:30、木・日休。
☎0466-26-2231
コーヒーもお酒も飲める街の“止まり木”『CCC』
生豆を自然乾燥させたエイジングビーンズ使用のコーヒーが気軽に楽しめるコーヒースタンド。オーナー沢口浩二さんの出身地である青森の名物、南部せんべいにあんこを挟んだどらべい230円との相性もバッチリ。カフェストロベリーミルク770円はアポロチョコのような味わいでハマる人続出。
12:00~22:00(土は10:00~22:00、日は10:00~19:00)、月休(不定休あり)。
☎0466-52-7796
大正時代の部材が残る古民家で心がほどけるランチタイムを『蔵まえ34(サーティーフォー)』
以前ギャラリーをともに運営していた女性4人が移転を機に飲食の世界へ。日替わりランチ1000円〜は各自の得意料理を提供。この日は佐野晴美さんのゴマだれ冷やし中華と揚げ餃子のセット。「山ガールの佐野さんはパパッと調理する名人」と話すのはカレー担当の田口淳子さん。どのメニューも野菜たっぷりでやさしい味わい。
11:30~17:00(ランチは~13:30)、水・木・日休。
☎070-6647-0034
泊まれるカフェ&バーで旅の余韻にゆっくり浸る『COFFEE HOTEL Soundwave』 / 『Soundwave COFFEE ROASTERS』
宿場情緒を楽しむなら、藤沢に一泊するのもおすすめ。自家焙煎カフェに隣接する4室限定のアパートメント型ホテルは「旅人と地元客が自然に交わる場を作りたかった」と話すオーナーの夏目勇三さんの理想形。宿泊者にはドリンクチケットをサービス。
チェックインは15:00~21:00、チェックアウトは~11:00、『Soundwave Coffee Roasters』は10:00~18:00、無休。
☎0466-90-4030
時代が令和に変わっても宿場町の趣を感じる瞬間がある
大名行列だけでなく、庶民の旅も盛んになった江戸時代。東海道を行き交う人々が立ち寄った藤沢宿には、旅籠(はたご)や茶屋が軒を連ね、旅人たちがつかの間の休息を楽しんでいた。おしゃべりに花が咲き、情報が行き交い、活気あふれる雰囲気に満ちた場所——。それは、今も昔も変わらない。まずは、宿場町の日常を追体験できそうな場所へ行ってみようか。
『甘味とごはんや 八一』は、東海道から分岐した旧江の島道沿いに残る米問屋の木造家屋と蔵をリノベーションして誕生。建物自体は関東大震災後の昭和初期に建てられたが、かつてこの辺りは「蔵前」という地名で、年貢米を収める蔵が立ち並んでいたという。
「もともと米蔵だったので、ケーキといった甘味メニューには米粉を使っているんです」と話すのは、代表の吉田亘良さん。当時の旅人たちも、こんな感じでほっとひと息ついていたのだろうか。
腹ペコの旅人をやさしく迎えてくれるのが、同じ通り沿いにある『蔵まえ34』。のれんをくぐると、田舎のおばあちゃんの家に帰ってきたような、不思議なノスタルジーに包まれる。実はこの建物、長らく空き家だったもの。アートと作家支援に取り組み、自身もアーティストとして活動する佐野晴美さんが、新たな拠点を求めて持ち主を探し出し、貸してもらえるよう交渉したそうだ。
「生活に根ざしたアートを発信するため、食を通してたくさんの人に来てもらいたい」と真っ直ぐな眼差しで語る佐野さん。その言葉は、かつての宿場町が単なる通過点ではなく、人と人が出会い、つながる場場だったことをあらためて思い出させてくれる。
藤沢ならではの昭和の名スポットもお忘れなく
せっかくなら、真っ赤な遊行寺橋を渡って遊行寺でお参りを。このあたりは中世、門前町としてにぎわっていた場所。そんな歴史に思いをはせながら歩いていると、ふと小腹が空いてきた。そんな時にぴったりなのが『平野製餡所』のあんこ。冷蔵で販売されている300g入りの“ほぼ食べきり”サイズはおやつにちょうどいい。
「遊行寺の境内で、袋からそのまま食べたってお客さんもいるんですよ」と二木利恵さんがこっそり教えてくれた。ひんやりした喉ごしと甘さのハーモニーは、さぞおいしかっただろう。
時の流れを感じる貴重なスポットといえば「フジサワ名店ビル」。昭和の面影を色濃く残すこの商業ビルはリアルなレトロ感が人気だが、残念ながら2027年に解体予定だ。「耐震補強の案もありましたが、建て替え以外の選択肢は難しくて」と事務長の井下清さん。その近くにある『CCC』も見逃せない。かつての江ノ電の定期券売り場を大胆にリノベーションした超コンパクトな店舗で、店長のアニーさんがにこやかにコーヒーを淹(い)れる姿に元気をもらえる。
旅を深めるなら、藤沢に一泊するのはどうだろう。『COFFEEHOTEL Soundwave』は、夜になると立ち飲みバーに変わり、旅人と地元民が自然と交わる場になる。藤沢宿を歩く旅は、いわば今と昔が溶け合う時間のさんぽ道。帰る頃には、きっともっと藤沢が好きになる。
取材・文=林 加奈子 撮影=原 幹和
『散歩の達人』2025年7月号より





