友達の本棚を見せてもらうようなわくわくと親近感
「昔ここで、母方の祖父が印刷所を営んでいました」と『COYAMA』の店主・奥真理子さん。「『小山印刷所』といいました。今でもときどき、床板の隙き間から活字の型が出てくるんですよ」。
最も目を引くのは壁一面の本棚。このコーナーにあるのは、奥さんが読み終えた古本や、気になって購入したがまだ読んでいない積読本も混ざっている。「個人の感覚」で緩く並べているため、デザイン資料の近くに新書があったり、その隣に文芸書があったり、脈絡がないようで、なんとなくある感じ。遊びに行った友達の家で本棚を見せてもらうようなわくわくする気持ちと、親近感が湧く。
そこはかとなく漂う生活感も、気の合う友達の家のよう。いつのまにかくつろいだ気分になってしまう。併設のギャラリーは、押し入れを利用した展示棚が印象的。
「ギャラリーは、元々住居スペースでした。祖父母、母たち3姉妹の5人家族が暮らしていました」
建物はしばらく空き家になっていたが、奥さんが「住んでみたい」と思い立ち、1年かけてセルフリノベーション。やがて「ここを人が集まるブックカフェにしたい」と考え始め、現在は本業である空間デザインの業務を行う傍(かたわ)ら、週3日『COYAMA』として開店している。
土曜はカフェ担当のスタッフも入り、平日より少しにぎやか。本を読みながら、コーヒーやスイーツを楽しむことができる(新刊は購入済みのみ。古本は閲覧自由)。かつて5人家族が使っていた5脚の椅子を、座面を張り替えてカフェで使っている。ゆったりできる「おうち」と、さまざまな人が集まるパブリックスペースの境界線が曖昧になったような、不思議な居心地のよさに和まされるのだ。
取材・文=信藤舞子 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2025年4月号より