人間と同じくらいの大きさがリアリティをもたらす

「善重寺」(茨城県)の聖徳太子像が展覧会出展のため運送業者に運ばれる様子。
「善重寺」(茨城県)の聖徳太子像が展覧会出展のため運送業者に運ばれる様子。

仏像の基準サイズを考えるにあたっては、その成り立ちを知る必要があります。現代では、大きさも姿もさまざまなものが作られていますが、元々は仏教の祖であるお釈迦さまの姿を像にしたものだけが仏像だとされていました。つまり、お釈迦さまの等身大が、仏像のサイズの基準ということになります。

現代日本人の平均身長は、男性で170㎝を超えるほど。お釈迦様が生きた約2500年前のインドの平均はわかりませんでしたが、4000年ほど前の中国での平均身長も170㎝ほどだったことがわかっています。そこから考えると、お釈迦さまの身長も今の日本人男性と同じくらいだと推察するのが自然ですよね。

確かに、160~180cmほどの仏像も日本全国に点在し、その大きさからも人間に近いリアリティを感じられます。「善重寺」(茨城県)の聖徳太子像は、少年期の聖徳太子をモデルにしている130cmほどの像で、まさに「今にも動き出しそう」なほど生命感があります。そのリアルさの秘密は、彫刻の技量だけでなく、サイズにもあるのです。

ギネス記録を圧倒的に上回った!?お釈迦さまの身長とは?

「応仁寺」(愛知県)の苦行釈迦像は、修行時代のお釈迦さまを表現した像。
「応仁寺」(愛知県)の苦行釈迦像は、修行時代のお釈迦さまを表現した像。

しかし、仏像の基準サイズはそんな小さなものではありません。お釈迦さまは、今から約2500年前にインドに実在したゴータマ・シッダールタという人物です。

宗教の偉人になると、後年になってさまざまな伝説で身を纏うことになります。お釈迦さまにもさまざまな伝説がありますが、筆者は身長もその一種だと考えています。

なぜなら、お釈迦さまの身長は一丈六尺(約4.8m)だとされているからです!

ギネス世界記録として認定されている史上最も背が高い人間は、アメリカ人のロバート・ワドローさん(1940年没)で、272cm。ここからも、お釈迦さまの一丈六尺が、いかに伝説的であるかおわかりいただけるでしょう。

「妙法寺」(福岡県)の「仏舎利塔」。
「妙法寺」(福岡県)の「仏舎利塔」。

日本各地で見かける「仏舎利塔」には、お釈迦さまの遺骨の一部が祀られているとされています。日本だけではなく世界中にも、この「仏舎利塔」はたくさん存在します。その点も、普通の人間の骨の量であれば分配し切れないものを、一丈六尺あったと考えることで可能にできるのです。

ただ、これを単なる嘘だと切り捨てようとは思いません。そこに遺骨があると考えることは、信者の心の拠り所にもなりますし、仏教が日本や世界に今も広がっている背景にも、こうした伝説に支えられた部分があるはずです。

仏像サイズの基準は「一丈六尺」

「極楽寺」(大分県)の弥勒如来像は丈六仏。
「極楽寺」(大分県)の弥勒如来像は丈六仏。

というわけで、仏像の基準サイズは「一丈六尺(約4.8m)」です!

しかし、基準サイズのものだけではなく仏像にはさまざまなサイズが存在します。例えば、戦国武将が戦いの間も懐に入れていたような「念持仏」は小さいものでしたし、国威を示す役割もあった奈良の大仏などはご存じのとおり、かなり大きいもの。

その中でも、一丈六尺の仏像は「丈六仏(じょうろくぶつ)」と言われ大変な人気を呼び、立像で4.8m前後、坐像でその半分のほどの仏像は今でも全国各地に残っています。有名な像では、みなさんの財布にも入っている10円玉のデザインでもおなじみの、「平等院鳳凰堂」(京都府)の本尊・阿弥陀如来坐像は約2.8mで丈六サイズです。他にも、神仏習合の中心であった「宇佐神宮」内に祀られていた弥勒仏(みろくぶつ)(現在は、「宇佐神宮」横の「極楽寺」に安置)も、約2.7mの丈六仏です。

しかし、これほど大きな仏像を造るにはたくさんのお金もかかります。また、それを祀るお堂もそれなりに大きくないといけず、どんなお寺でも丈六仏が造れたわけではありません。

そうした背景もあって、「半丈六」と言われる、立像で約2.4m前後、坐像で1.2m前後の仏像も数多く造られています。少しでもお釈迦さまにゆかりを持ちたいという思いが伝わってきますね。

東京近郊の丈六仏たち

「安養寺」(東京都)に安置される、丈六の薬師如来像。
「安養寺」(東京都)に安置される、丈六の薬師如来像。

こうした丈六仏は、都のあった奈良や京都に多く残されています。しかし、東京やその周辺にも素晴らしい丈六仏がいますので(仏像好きは、仏像を「ある」ではなく「いる」と言います)、ご紹介しましょう。

まずは、落ち着いた喫茶店や飲み屋の並ぶオトナの街・神楽坂。あまり知られていませんが、ここに鎮座する丈六仏が「安養寺」の薬師如来坐像です。小さめのお堂に祀られる薬師如来は、お堂にギュッと詰まった感じから、丈六以上の堂々たる迫力を感じられます。

「東昌寺」(神奈川県)の阿弥陀如来像も丈六仏。
「東昌寺」(神奈川県)の阿弥陀如来像も丈六仏。

続いてご紹介するのは、神奈川県逗子市の「東昌寺」にいる阿弥陀如来坐像。2.6mの大きさは圧巻の一言で、手を合わせたまましばらく見上げてしまいます。関東大震災で落下したという頭部に損壊が見られますが、それもまた無頼で力強い生命感を生んでいます。鎌倉幕府三代将軍であった源実朝が若くして非業の死を遂げたことを悲しんだ、母・北条政子が実朝の弔いのために作らせたそう。

 

仏像の基準である一丈六尺。「どうせ嘘の身長じゃん」なんて思わず、丈六仏の目の前に立つと、その大きさからくる迫力と魅力に、きっとハマるはずです! 是非、注目してみてください!

写真・文=Mr.tsubaking