よりどりみどりのメニューに驚かされる
洗練されたシンプルな外観に、すっきりとした店内。その雰囲気からコーヒースタンドのようなお店なのかな?と思いきや、ショーケースには何種類ものスイーツがずらり。メニューに目を通せば、タコライス、カレー、オムライス……とランチもよりどりみどりで、棚にはお酒の瓶も並び、多岐にわたるメニューに驚かされる。
「同じことひとつだけをずっとやることができなくて」と笑うのは、店主の安宅(あたく)智彦さん。「お客さんに、何食べたい? って聞いてそれに応えていたら、だんだん増えてきました」。
そのスタイルに表れているように、安宅さんはこれまで飲食業界で幅広く経験を積んできた。日本料理からスタートし、パティシエ、バリスタ、店舗の立ち上げや運営を担っていたこともあるという。
「いずれ自分のお店をやりたいと思っていたので、知識や技術は一通り学びました」と安宅さん。直感的にいいなと思ったという御茶ノ水付近で物件を探しはじめ、2019年から神保町の居酒屋『蔵や』で間借りしてランチをメインに提供。2023年7月に、いよいよ自身の店をオープンした。
ここでしか味わえないランチやスイーツ
この店で提供するコーヒーは竹炭焙煎のもの。竹炭の熱で煎ることでムラが少なくなるそうで、コクがありつつもすっきりとして食事にもスイーツにも合わせやすい。紅茶は南インド・ニルギリの茶葉を使っており、こちらも幅広いメニューにうまく寄り添ってくれる味わいだ。
スイーツのラインアップは入れ替わりも多く、この日は5、6種類あるパウンドケーキに、プリン、パイ、トライフル、ロールケーキが並んでいた。
いちごロールケーキは、きめの細かいみっちりした弾力のある生地で、しっかりと厚みもあって大満足。やさしい甘さの生クリームに包まれた、ゴロンと大きなイチゴの酸味もたまらない。
食事メニューは、散々迷った末に「驚かれることが多い」というグリーンサラダボウルを注文。大きな平皿にこれでもかというほど野菜が盛られた一品で、思わず歓声を上げてしまうほどの山盛り具合だ。
「葉っぱが大好きで、いつもサラダを食べながらお酒を飲むんです。スーパーのドレッシング売り場を見ている時が一番楽しいと思うくらい」と笑う安宅さん。
さすが“葉っぱ好き”がつくるサラダボウルとあって、瑞々しさを際立たせるドレッシングにスモークチキンやグリル野菜の塩気もよく合う。野菜のおいしさをしみじみと感じられるし、ビタミンもたっぷり摂取できて体にいいことをしている気分。たまごスープと小皿も2品ついてきて、この日はコールスローサラダとケーキ。夢中で頬張っていたら、山と積まれていた野菜をぺろりと平らげてしまった。
奇をてらっているわけではないのに驚きや意外性があり、サラダをこんなに楽しめるとあらば、次は他のメニューも試してみなければ! という好奇心と使命感が湧いてくる。
探究心に満ちた店主による創作の場
夜はアルコール類の提供もあり、予約すれば普段の閉店時間19時以降も対応可能。朝から晩まで、とにかく使い勝手がいい店なのだ。
また、オーダーケーキも受け付けていて、ジャンルと予算を伝えて注文できる。
「見たことのないようなレモンタルトが食べたい」「今はなくなってしまった、あの店のあのケーキを作ってほしい」というようなリクエストもあるらしく、そういう難しい注文であればあるほど気合いが入るという。「オーダーを受けるというよりはカウンセリングみたいです」と簡単そうに話すけれど、多方面を網羅する技術と経験があってこそなせる技だ。
ランチもコンセプトをかっちり決め込むことはなく、お客さんのニーズに合わせて柔軟に対応するスタイル。探究心に満ちていて、知らない料理があると挑戦してみたくなるという。「この店ではこれを出すぞ!みたいなメニューはあまりないんです。お客さんには、自分の創作に付き合ってもらっている感覚です」。
気軽に普段使いしてほしい、と話す安宅さん。迷ったときはこの店に来ればおいしいスイーツもランチもいただけるという安心感がある。そして、通えば通うほど新たな美味に出合えそうでわくわくする。
ランチにスイーツもいただいて大満足のくせに、「次はタコライスとプリンだな……」なんて食いしん坊なことを考えながら、店を後にした。
取材・文・撮影=中村こより