『散歩の達人』2020年7月号で紹介した88個のキーワード(7月号目次より)

上京した際に住み着いて以来、その居心地のよさからなかなか離れられず、駅の北側(武蔵野市)にも南側(三鷹市)にも住んだことがある三鷹人とは私のこと。

「東京さんぽ図鑑」の目次を眺めながら三鷹の街を思い浮かべて脳裏に浮かんだのは、自家焙煎のコーヒーがおいしいカフェ、いつも誘惑に負けてたいやきを買ってしまう和菓子屋、優しい味が染みる定食屋……。いやいや、決めてかかってはおもしろくない。一応お腹を空かせ、見当はつけずに歩き出した。

【橋】 むらさき橋・三鷹橋

三鷹をあてもなく散歩するときは、とりあえず玉川上水に沿って歩くに限る。羽村から多摩川の水を引いて四谷まで続くこの上水路は、脇に緑道や雑木林が整備されていて散歩に最適だ。普段は花や野鳥を眺めて歩くのだけど、そういえば「橋」に注目したことがなかった。

旧三鷹橋の親柱と高欄。建造材の一部に鉄道のレールが使われていたらしい。

玉川上水にかかるのはどれも小さな「橋」。でも、それぞれ個性があって名前もついている。三鷹駅南口を出てすぐの「三鷹橋」は古い欄干の一部が残されていたり、「むらさき橋」の近くには太宰治の入水地として石碑もあったりと、歴史も垣間見える。

そういえば、小誌6月号では歌人・穂村弘さんがここを歩いて「橋」のことを詠んでいたな。

「近所を歩くと歌の入り口が見つかる」と、歌人の穂村弘さん。武蔵野の人気(ひとけ)のない道すがら、短歌の始め方や“素材”選びについて、初心者目線で根掘り葉掘り聞いてみた。散歩から生まれた穂村さんの連作とともに、肩の力を抜いて楽しんでみよう。

【暗渠】 三鷹駅

玉川上水に沿って歩くと、JR三鷹駅にぶつかる。さて、ここからは商店街を歩こうか、駅の反対側に出ようか……と考えていると、ホームの下に消えていく川が目に入った。これ、一種の「暗渠」じゃないか!

ホームに沿う形で架かる「三鷹橋」。隙間を覗き込むと、水が流れているのが見える。

駅の下に潜った玉川上水は、何事もなかったかのように反対側からすぐ顔を出す。しかし、この駅のホームで電車を待つ人のうち一体何人が、自分の足元を川が流れていることを意識しているのだろう。

【人物のミュージアム】 太宰治文学サロン

三鷹の「人物のミュージアム」といえば、ここと『山本有三記念館』だ。

太宰治の短編小説『十二月八日』にちらりと登場する「伊勢元酒店」は、三鷹に実在した酒屋。現在、その跡地にあるのが「太宰治文学サロン」だ。作品資料や写真が展示され、週末はボランティア団体「みたか観光ガイド協会」の方が三鷹のスポットを案内してくれるガイドもある(2020年7月現在、コロナ感染拡大防止のため休止中)。

【古書店】 book&café* Phosphorescence

そうそう、太宰といえば、ぜひとも寄りたい場所がある。太宰ファンの店主が営む古本カフェ『book&café* Phosphorescence(フォスフォレッセンス)』。「古書店」のキーワードが、こちらから探さずとも名乗り出てきたぞ。

太宰ラテ600円。店内は古本の他にも写真や資料が所狭しと並ぶ。

太宰作品の初版本(非売品)や関連書籍が揃っていて、太宰ラテなるメニューも楽しめるというファン垂涎ものの店だ。

【富士見】 三鷹跨線橋

さて、散歩も終盤に差し掛かる。これも一種の「橋」よね、なんて思いながらJR中央線にかかる跨線橋にのぼってぼんやり夕日を眺めていると、遠くに富士山のシルエットが浮かび上がっていて思わず二度見。そういえばここ、「富士見」スポットだった!

休日は電車好きのちびっ子でにぎわう鉄道スポットでもある。

ちなみにこの跨線橋は、太宰のお気に入りの場所だったことで有名。当時は富士山も今よりずっときれいに見えたことだろう。

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食道楽さんぽになると思いきや、図らずも太宰ゆかりの地めぐりと相成った。図鑑のキーワードを意識したことで、歴史や地理に注目できたということだろうか。

でもやっぱりお腹は減った。『定食あさひ』でごはんを食べてから帰ろう。

住所:東京都三鷹市下連雀2-23-15/営業時間:12:00~14:00LO・18:00~22:00LO/定休日:火・水/アクセス:JR中央線三鷹駅から徒歩12分

文・撮影=中村こより(編集部)