気まぐれなのに、圧倒的存在感『cafe bar fulari』

野方文化マーケットの2階。『cafe bar fulari』店主のななさん。
野方文化マーケットの2階。『cafe bar fulari』店主のななさん。

急な階段の先は、別世界。レトロな店構えと店主・ななさんの気風(きっぷ)のいい「いらっしゃい」に出迎えられる。メシがあるかどうかさえ、店が開くまで分からない。今日はカレー1100円があるらしい。スパイス香る季節野菜のキーマの辛さを、たっぷりの焼酎500円~で流し込む。次から次へと訪れる常連衆との会話も心地よい。もしや、俺ってこの街の住民か? そんな錯覚にすら陥る。営業日時はInstagram(cafebarfulari)で。

植物と鉢の敏腕コーディネーター『植物とインテリア雑貨の店 apricot』

シックな色合いの壁に映える吊り照明。そこに所狭しと並ぶ観葉植物を目の当たりにすれば、心が落ち着いていく。「大切にしているのは、植物と鉢とのコーディネートです」とは、店主の川岸渉さん。どのようにすれば植物が「育てるオブジェ」として、部屋で映えるか客に提案。植え替えや世話の仕方まで教えてくれて、頼もしいことこの上ない。

11:00~19:00(金は12:00~20:00)、火・隔週木休。
☎03-4400-7081

スペシャルティの味わいを手軽に『MARUTAKE COFFEE BEANS』

使用するのは、カーボンニュートラルの焙煎機。透明な菅の中では生豆が徐々に色づく様子が見え、さながらラボのよう。「電動で、失敗がないんですよ」と、店主の中田武司さんはほほえむ。豆はスペシャルティを揃えるが、真骨頂は野方あじわいブレンド。ひと口すすれば軽い飲み口と鼻腔を抜ける芳香にうっとりする。ハンドドリップコーヒー450円~。

11:00~18:00、月・火休。
☎03-5327-8153

優しくて素朴。だからこそハマる味『Patisserie Sappuyer(パティスリー サピュイエ)』

ショーケースに並ぶケーキは、ほとんどがカップ入り。「食べやすくしたくて。フィルムはがすのとか、地味に大変じゃないですか」と、シェフの鈴木美里さん。確かに! 看板のイチゴショートを口中に含めば、スポンジとクリームが舌の上でほろりと溶け、頬がゆるむ。軽やかな食べ口と控えめな甘みで次のひと口が止まらない。これ食べ過ぎちゃうやつじゃね?

13:00~19:00、月・火休。
☎070-9184-3918

魂の手打ちうどんをすすりつくせ!『うどん酒場 つくつくぼうし』

ここへ来たならば、店主の田中奨さんが打つコシの強い手打ち麺を。麺がゆで上がるまでのお供は、鶏タタキ780円だ。噛めば滋味深さがあふれ出し、日本酒500円~が進む。お待ちかねのとり天かけうどん(手打ち麺)1100円は、とり天のドでかさに驚き。かぶりつけばザクっと音を立て、柔らかい鶏肉の食感が口中に広がる。麺はツルシコで、喉越しが抜群に心地よい。

12:00~23:00、日・祝休。
☎なし

生まれ変わりし地域の浴場『たからゆ』

2023年にリニューアルを終え、リスタート。「毎日2時間かけて掃除してる」と、マネジャーの町田博さん(上写真の左)は胸を張る。通常より濃い炭酸泉やメンソール入りの水風呂なども魅力だが人気はサウナ。この日は名物熱波師のいずちゃんが登場。小気味よいトークとともに浴びせられる熱波は……激熱! Tシャツ3000円やサンダル3500円などオリジナルグッズの販売も。

13:00~24:00、月休。
☎03-3330-4126

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貼り紙から見える街の大らかさ

商店街は人通りが絶えない。
商店街は人通りが絶えない。

商店街を歩いていたら『うどん酒場 つくつくぼうし』の貼り紙が目に留まる。「娘、体調不良のため一旦閉店します」。これがアリって時点で、街の大らかさが見えるのよ。「うどん屋さんの貼り紙。微笑ましいよね」とは、『MARUTAKE COFFEE BEANS』の中田さん。まったくもって、同意っすわ。

客に納得してもらうため『うどん酒場 つくつくぼうし』は休業の理由を必ず貼り紙で説明する。
客に納得してもらうため『うどん酒場 つくつくぼうし』は休業の理由を必ず貼り紙で説明する。

そんな中田さんの店の観葉植物は、向かいの『植物とインテリア雑貨の店 apricot』のもの。その店主の川岸さんは「鉢の植え替えに時間がかかる時にはマルタケさんを紹介してます。なかには、コーヒーオタクになって戻ってくる方もいて」。植え換えの待ち時間に、何があった。

そういえば『Patisserie Sappuyer』にもマルタケさんのショップカードがあったな。「お世話になっておりますよ〜」と、鈴木美里さん。「新参者ながら、店同士の仲の良さは感じます」。程良いキョリ、いいね。

店のつながりといえば『たからゆ』も語らねばなるまい。2023年のリニューアル以降、マネジャーを務めるのは、銭湯と目と鼻の先にある『町田理髪店』の町田さんだ。引き受けた理由は「たからゆ愛」と、潔い。

「50歳を過ぎて新しいことに挑戦できて、楽しいよ」。最高じゃないですか。カッコイイ。

駅前のモニュメント。街灯は旧駅舎のレールを使っている。
駅前のモニュメント。街灯は旧駅舎のレールを使っている。

干渉をしすぎない絶妙なバランスのローカル

そうこうしているうちに『つくつくぼうし』が営業を再開していた。

「野方は僕の地元の深川に似てる」と、田中さん。すると妻の尚子さんは「娘をお使いに出したら、抱えきれないほどお菓子をもらってきたことがあったんです」と、目を細める。なるほど、近所のおっちゃん、おばちゃんが子供に構ってくれる感じ、深川の下町人情っぽい。

『cafe bar fulari』の入り口は緑のテントの下。初見じゃ分からん。
『cafe bar fulari』の入り口は緑のテントの下。初見じゃ分からん。

「『cafe bar fulari』って、知ってます?」とは人気の焼き鳥屋『一心鳥』の八嶋美樹さん。軽く飲める店を聞いたら、その名が出てきた。辿(たど)り着くは野方文化マーケットの2階。入るや「いらっしゃい〜。ごめんねえ〜」と、店主のななさんに突然謝罪される。聞けば、今日はフードがなく、酒しか出せないらしい。「カフェバーって言葉、便利だわ」。それ、あんたが言っちゃうのかよ。あ、このいい加減さは、中央線沿線っぽいな。

全体的にピースフル。そこに潜むカオス。でも、人のつながりは温かい。こんなん居心地いいに決まってる。故に、うっかり終電を逃した俺を、誰が責められるというのだろう。

取材・文=どてらい堂 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2024年12月号より