【コース紹介】

御茶ノ水駅聖橋口→聖橋→淡路坂→昌平橋→松住町架道橋→外堀通り→聖橋→お茶の水橋→皀角坂→水道橋→外堀通り→飯田橋歩道橋→外堀通り→市ヶ谷橋→市ケ谷駅

「御茶ノ水といえば」の名風景は夜もいい

長らく工事が続いている御茶ノ水駅。2023年12月に使用が開始された新しい聖橋口駅舎と改札口は、以前のように茗渓通りではなく聖橋側を向いている。
長らく工事が続いている御茶ノ水駅。2023年12月に使用が開始された新しい聖橋口駅舎と改札口は、以前のように茗渓通りではなく聖橋側を向いている。

御茶ノ水駅のいいところは、なんといっても駅の出口に橋の名前がついているところ。東口・西口ではなく、聖橋口・お茶の水橋口。なんてわかりやすく素敵なんだろう。

聖橋といえば、橋の上から見えるJR中央線・総武線、地下鉄丸ノ内線の立体交差の風景があまりにも有名だ。鉄道ファンだけでなく海外からの観光客にも知られているようで、昼間に通りかかると誰かしらがスマホや立派な望遠レンズ付きのカメラで撮影している。あるいは佇み、ただただこの光景に見入っている。

 

もちろん、夜も最高なのだ。

JR御茶ノ水駅ホームのいちばん神田川寄りは、東京方面行きの中央線だ。ちょうどその電車が出発したかと思えば、内側にいた秋葉原方面行きの総武線の電車も出発。黄色いラインの電車は少しずつ高度を上げ橋梁を渡り、中央線はその下をくぐり交差する。

その様子に見とれていると、眼下のトンネルからヘッドライトの明かりが橋に届いた。

(電車が来る!)

橋上に丸ノ内線の赤い車両。この瞬間、夜は一層心が躍る。

 

なんて素晴らしい散歩の幕開け。永遠に見ていられそうな風景だが、これはまだ“鉄道夜景”なのだ。

いよいよ銀河鉄道を探しに、淡路坂を下る。

淡路坂上の木に、総武線延伸工事のため移転した太田姫稲荷神社がかつてここにあったことを示す木札が下がっている。
淡路坂上の木に、総武線延伸工事のため移転した太田姫稲荷神社がかつてここにあったことを示す木札が下がっている。

見下ろしていた列車はしだいに目線の高さになり、坂を下りきる頃には頭上に走行音が聞こえるようになる。この高低差もしっかり堪能したい。

遠くの景色がよく見える。
遠くの景色がよく見える。
中央線車窓の気になる存在『淡路亭』も対岸に見える。
中央線車窓の気になる存在『淡路亭』も対岸に見える。

下から見るか、横から見るか、それとも?

淡路坂の下で左に曲がり昌平橋ガードにさしかかると、道の先に右から左へ動く光の帯が見えた。

 

銀河鉄道だ。

初めてここでそれを見た日と同じように、ガード下を走り抜け、昌平橋の上から列車の行く先を見届けた。神田川を渡ると線路は御茶ノ水駅にかけてカーブして下がるため、列車はぐんと角度を変えて姿を消す。

昌平橋の先に見えた鉄道橋は松住橋架道橋といい、関東大震災の復興事業の一環で昭和7年(1932)、総武線の御茶ノ水延伸にともない架けられた歴史のある橋だ。連続して神田川を渡る神田川橋梁があり、頭上を走りぬける車両のガタンゴトンガタンゴトンという迫力のある音に圧倒されてしまう。

 

列車が去り暗さが戻った川面を眺めていると、遠く聖橋の手前にきらりと明かりが見えた。

右側の「明日もお元気で!」看板が夜はひときわしみる。
右側の「明日もお元気で!」看板が夜はひときわしみる。

御茶ノ水駅を出た丸ノ内線の車両が、ゆっくりと川を渡っていく。

これもまた、小さな銀河鉄道。

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松住橋架道橋をくぐり、外堀通りを御茶ノ水駅方面へ。ゆるやかな上りの道を、飲み会帰りの学生たちと思しきグループが同じ方向に歩いていく。

夜の散歩で重要なポイントは、そこそこの人通り・車通りのある、明るい道を選ぶこと。特に一人で歩くときは注意したい。

これが中央線車窓の気になる存在『淡路亭』の入り口。案内が親切だ。
これが中央線車窓の気になる存在『淡路亭』の入り口。案内が親切だ。

この道にも見どころがたくさんある。丸ノ内線の車両がトンネルを出入りする様子を聖橋の上よりも近くで見られることはもちろん、JR線のホームに停車する列車を見上げるのもいい。

ホームに停車する銀河鉄道を見た。周囲の光が少なくなると、とたんに姿を現す。
ホームに停車する銀河鉄道を見た。周囲の光が少なくなると、とたんに姿を現す。

聖橋は上からの眺めもいいが、くぐるとまた違う魅力が感じられる。

聖橋やお茶の水橋も、震災復興橋梁として架けられた橋だ。
聖橋やお茶の水橋も、震災復興橋梁として架けられた橋だ。
昭和2年(1927)完成の聖橋は、近年の長寿命化工事を経てきれいになった。
昭和2年(1927)完成の聖橋は、近年の長寿命化工事を経てきれいになった。

上りきったところにあるのが地下鉄丸ノ内線の御茶ノ水駅、その先に架かるのがお茶の水橋。まずはそのまま直進し横断歩道を渡る。

聖橋に負けず劣らず、お茶の水橋からの風景も素敵だ。駿河台と湯島台の間を神田川が流れ、茗渓(めいけい)の雅称でも親しまれたこの場所は江戸時代、台地を開削して生まれたいわば人工の渓谷。

 

ここでは、谷とカーブが生み出す暗がりを行き来する銀河鉄道に出合うことができる。

カーブする列車と神田川に映る光が美しい。
カーブする列車と神田川に映る光が美しい。

列車の乗客、それはいったい誰なのだろう

御茶ノ水橋を渡り、かえで通りを歩いて皀角坂(さいかちざか)を水道橋駅方面に下っていく。この下り坂も淡路坂と同様、眼下に見えていた列車が真横を通り過ぎたかと思えば、やがて頭上を走り抜けるという変化が楽しい。

この坂で好きなのは、高架の広い壁に植物の影が映るこの風景。

雑草も影と重なり、増殖したように見える。

 

壁からすこし離れてみると、銀河鉄道はすぐにやってきた。

銀河鉄道には乗客がいるようだが、壁に映る植物の影と社内の人影があまりに似ている。

列車に乗っているのは本当に“人”なのだろうか。

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坂を下りきると、白山通りを挟み水道橋駅の改札が見える。東京ドームが近いこともあり、水道橋駅周辺はいつもどこかにぎやかさを感じる。

ガードをくぐって振り返り駅のホームを見上げると、ちょうど御茶ノ水駅方面の電車が出るところだった。その名も「水道橋」という橋の上で、轟音を立て架道橋を渡っていく電車を目で追う。

 

すると、神田川沿いに銀河鉄道が姿を現した。

水面に光をチラチラと映しながら、やがて闇に吸い込まれるように小さく見えなくなった。

ここはこんなに明るい駅前なのに、列車が向かう先はなぜあんなにもしんとして暗いのか。

 

水道橋駅に人が吸い込まれていくのを横目に、横断歩道を渡りふたたび外堀通りを歩きだす。東京ドームシティの周辺を抜けるまではどこかざわついた様子が続くが、頭上に首都高が現れるあたりで、道はまたひっそりとした印象になる。

水道橋駅東口から飯田橋駅東口までは、外堀通り経由で歩いておよそ15分ほど。

やがて目白通り、大久保通りとの巨大な交差点に差し掛かる。このまま外堀通りを進みたいので、歩道橋を渡ることにする。

この飯田橋歩道橋もなかなかの見ごたえ、渡りごたえがある。

内側の景色につい気を取られてしまうが、探すのは銀河鉄道。飯田橋駅のほうを見ると、ちょうど列車がホームに入るところだった。しかし、どことなく違和感がある。

目をこらすとガードの上の旧ホームに、「いいだばし」と記された駅名標やベンチがまだ残されていた。

2020年に移設工事が完了し、ホームが200mほど西側に移動した飯田橋駅。このホームに明かりが灯り、列車を待つ人がいた時代はたしかにあったはずなのに、今となっては幻のようだ。

銀河鉄道ならばここに停車するかもしれないと考える。乗るのは誰だろう。
銀河鉄道ならばここに停車するかもしれないと考える。乗るのは誰だろう。

ふと歩道橋の下をのぞくと、橋が2つかかっていることがわかる。

左が船河原橋、右が飯田橋。

不思議な構造だが、ここが神田川と外濠の合流点なのだ。

飯田橋歩道橋を船河原橋側から上り、飯田橋側に下りる。
飯田橋歩道橋を船河原橋側から上り、飯田橋側に下りる。

銀河ステーション、銀河ステーション

ラストスパートは、外堀通り沿いを市ケ谷駅に向かってひたすらまっすぐ進む。

明るい時間や夜も花見客がいる春なら列車を見下ろす外濠公園を歩くのもおすすめだが、今回は交通量の多い道を歩く。

神楽坂下交差点を過ぎ対岸に法政大学が見えるくらいまでは、高い建物もあるからかあまり暗闇は感じられない。途中の新見附橋から外濠沿いを電車が行き交う風景を楽しむのもいいが、この散歩コースではまっすぐ進んでいく。

新見附橋を過ぎたあたりから、辺りにほの暗さが感じられるようになる。

出合える予感がする。そう思ったとき、新見附橋の下をくぐりぬけた列車が対岸を駆けてゆくのが見えた。春は桜が美しい道だが、青々と茂る葉が目隠しになりよく見えない。枝が途切れる場所を探して先を急ぐ。

 

市ケ谷駅の手前までやってきた。

あまりにも銀河鉄道。

そして、

あまりにも銀河ステーションだった。

駅に到着する列車はまるでカーテンを引くように、水面にゆれる光をひととき遮る。

列車が発車すると、こんどは幕が開いたように明かりがよみがえる。
列車が発車すると、こんどは幕が開いたように明かりがよみがえる。

最後は市ヶ谷橋の上で、四ツ谷駅方面の闇に消えていく銀河鉄道を見送った。

 

さっき眺めた銀河ステーションから、こんどは自分が乗る番なのだ。

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こんなふうに銀河鉄道は、みなさんの職場や学校、家の近くでも見つかるはず。

素敵な風景を見つけたら、ぜひ教えてください!

取材・文・撮影=渡邉 恵(さんたつ編集部)

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