女性も入りやすい明るい中国料理店を
店に入る前から、ガラス越しにちらっと中の様子がうかがえて安心感がある。木とガラスのドアに手をかけて店に入ると、チリンチリンっと清々しいベルの音色と、落ち着いたBGMも聞こえてくる。居心地よくゆっくり食事ができそうな雰囲気は、外観のイメージともぴったり合う。
オーナーシェフの小山晴信(はるのぶ)さんが妻と2人で切り盛りするこの店は、2017年にオープンした。当時、この辺りには女性客が1人でも入りやすいような個人店はそれほど多くなかったそう。
「近くの会社に勤める女性たちにもランチを食べにきてほしいと思って、外からも様子がわかるようにしたんですよ」と小山さん。
体にやさしい中国料理を謳う『楓凛』は、野菜を使った料理が得意で国分寺産も含めて農家や直売所などから新鮮なものを仕入れている。料理に欠かせない調味料も、塩は瀬戸内の花藻塩、醤油は茨城の柴沼醤油など、丁寧に作られたものを厳選しているのもこだわりだ。
修業先の名物担々麺をまろやかにアレンジ
定番メニューのひとつとして人気があるのが楓凛こだわりの担々麺だ。担々麺は、小山さんが最初に勤務した老舗中国料理店の名物メニューがベースになっている。
まずは、とスープをひと口いただくと、練りごま由来の深みのあるコクにラー油の辛さがふわり。でも、今まで食べた担々麺となにかが違う。その正体を自分の舌では解明できず、小山さんに何が入っているのかと質問すると、「米酢を少し多めに入れています」との答え。その点が『楓凛』独自のアレンジになっているそうだ。
トッピングされている細かい豚ひき肉は甘みのある中国の味噌、甜麺醤とともに炒められていて、辛味と酸味が主体のスープとのコントラストが際立つ。彩り豊かなチンゲン菜は湯通しされていて、シャキシャキした歯触りが食感のアクセントだ。
スープがしっかり絡んだ麺をあらかた食べ終えると、穴の開いたレンゲで残りの具を全部すくって食べたくなる。それが終わっても、あと1杯だけとスープをすくうその手が止まらない。
スープを何度かすくっては口に入れていると「ご飯、ありますよ」と声をかけられた。ご飯はランチタイムなら1杯までご飯は無料というから、ありがたい。お酢がしっかり入ったこの担々麺なら、残ったスープをご飯にかけて食べる背徳感も少なめというものだ。
夜には和やかな宴会も。街に溶け込んだ“少しいいご飯が食べられる店”
メニューを見ていると、担々麺には唐辛子マークが3つ付いている。『楓凛』では、麻婆豆腐などと並んで、いちばん辛いレベルという意味だ。
辛さの元であるラー油は自家製。鍋にごま油ではなく植物油と一味唐辛子を入れ、高い温度で唐辛子の味と風味を油に移す。使っているのはその上澄みだ。澄んだ赤い油に顔を近づけてみると、唐辛子の香りというより、香ばしさがいちばんに感じられる。
担々麺には、このラー油がレードルに約1杯分入っており、スープ全体に赤みがあるが、むしろ存在感があるのは辛さよりもお酢が押し広げたまろやかさの方だった。ラー油とお酢、練りごまなどが合わさって、お店の雰囲気に合った上品な味わいに仕上がっている。
2024年現在、オープンしてから8年になる店内には、近隣のオフィスに勤める人たちがランチや宴会に利用したり、落ち着いた年代の夫婦が食事にやってきたりと、大人が過ごしやすい店としてすっかり街になじんでいる。
常連客の中には、やっぱり中国料理には紹興酒だとボトルキープをしている人もいる。手始めに担々麺を試して気に入ったら、ヘルシーな野菜料理や麻婆豆腐と一緒に、ビールや中国酒を楽しんでみたい。
取材・撮影・文=野崎さおり