稲荷神社にはなぜ「狐」がいるの?

神奈川県「京浜伏見稲荷神社」にはたくさんの狐。
神奈川県「京浜伏見稲荷神社」にはたくさんの狐。

全国に8万8千ある神社のうち3万社にものぼり、全国的に広く信仰されている稲荷神社。

朱塗りの鳥居とともに、稲荷神社の代名詞とも言える動物が「狐」です。

稲荷神社の主祭神は「宇迦之御魂神(ウカノミタマノカミ)」という農業を司る神様で「食べ物」に直結する願い事をする対象でした。

「いなり」は「稲が成る」という言葉につながり五穀豊穣の願いも。
「いなり」は「稲が成る」という言葉につながり五穀豊穣の願いも。

キツネという言葉は、古い日本語では「ケ=食べ物」「ツ=助詞の『の』」「ネ=根っこ」を表します。そうしたことから、宇迦之御魂神の使いとして最適だったのです。

また、キツネの巣は斜面に横穴を掘って作られます。

古墳(墳墓など)やその近くに横穴を掘って作られたものもあり、古墳の中と外を出入りしているように見えたため、昔の人々が「神聖な場所と俗世を行き来する存在」と認識し、神の使いになったのではないかと考える研究者もいます。

奈良公園や宮島で見られる「鹿」はどんな存在?

福岡県「太宰府天満宮」の鹿
福岡県「太宰府天満宮」の鹿

近鉄奈良駅から、東大寺や興福寺を抜け、春日大社に抜ける一帯に「鹿」がたくさん生息しています。

観光の目玉として、日本人はもとよりインバウンドの観光客にも鹿への餌やりが人気ですが、神社仏閣が密集するこの神域に鹿がいるのには、意味があります。

春日大社の祭神は「武甕槌命(タケミカヅチノミコト)」という神様で、茨城県の鹿島神宮から春日大社にやってきたとされていて、その時に乗っていたのが「鹿」だったのです。

また、古くから鹿のツノは易(占い)や祈祷にも使われたことから魔除けの意味を持っていたり、ツノが一気に伸びて生え変わることから、五穀豊穣の御利益があると考えられています。

そのため、春日大社に限らず多くの神社で鹿の像が見られるのです。

広島県の「厳島神社」(宮島)にも多くの鹿が生息しています。

こちらは、御祭神との関連性を文献で確認することはできませんが、戦後に一時絶滅し、春日大社から鹿が譲渡されたという記録があるようです。

木魚は本当に「魚」にゆかりがあった

福岡県「安国禅寺」の巨大な木魚。
福岡県「安国禅寺」の巨大な木魚。

お葬式などで見かけることがある「木魚」。お寺でも仏像の前に、他の仏具とともに並んでいることもしばしば。

そんな木魚の姿は魚には見えません。

ではなぜ「魚」の文字が入っているのでしょうか?

 

実は、木魚の元になっているのは「魚板(ぎょばん)」と言われるものなのです。

京都府「萬福寺」の魚板。
京都府「萬福寺」の魚板。

これは、禅宗のお寺でよく見られますが、魚板を叩いて修行僧たちに食事や掃除、起床の時間などを知らせる、いわばチャイムのような役割をしています。

では、なぜ「魚」である必要があるのか。

禅宗、特に曹洞宗では食事も睡眠も含めて、24時間の生活全てが修行であると考えられています。

魚は目を開けたまま眠るため、かつては眠らないと思われていました。

そこから、「魚のように昼夜問わず修行に励む」という意味で魚が用いられたのです。

「うさぎ」は日本神話にも登場する重要な動物

福岡県「現人神社」に奉納されるうさぎ。
福岡県「現人神社」に奉納されるうさぎ。

現代ではペットとしても人気の「うさぎ」も神社仏閣でよく見かける動物です。その由来は、現存する日本最古の書物『古事記』の中に出てくる物語「因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)」にあります。

隠岐の島に住んでいた白兎は、因幡国(現在の島根県)を見て、小さい島よりもあの大陸に行きたいと願っていました。そんなある日、白兎は海のサメを騙してその背中を渡り、大陸に渡りますが、騙されたとわかったサメは怒り、白兎の皮を剥いでしまいます。

そこに通りかかったのは、因幡国に住む女神に結婚を申し込みに行く途中だったたくさんの神様。神様たちは白兎の姿を見て、「海水につけて風に当たれば良くなるよ」と、いじわるな嘘を教えました。

白兎が言う通りにすると、もちろん痛みは増すばかり。

そこに、他に神様の分も荷物を持たされた神様が一人、遅れてやって来ました。心優しいこの神様は、本当に痛みが治まって毛皮が元どおりになる方法を教えてくれました。

白兎がその通りにすると、本当に元通り。

白兎は「女神様は、他の意地悪な神様ではなく、心優しいあなたと結婚するでしょう」と言いました。

そして、その神様は女神と結婚して「大国主神(おおくにぬしのかみ)」と呼ばれ、出雲大社のご祭神になり、白兎は大国主神の使いになったのです。

そして、白兎は「うさぎがみ」と呼ばれるようになったのです。

「猿」も神様の使い!庚申信仰とのつながりも

福岡県「清水日吉神社」の猿。
福岡県「清水日吉神社」の猿。

「猿」もまた、神の使いとして祀られる動物です。

特に、「日吉神社(日枝神社)」では、ご祭神「大山咋神(おおやまくいのかみ)」の使いになっているため、必ずと言っていいほど猿の像を見かけます。

この猿を「神猿」と書いて「まさる」と読むことから、「魔が去る」に転じて魔除けの御利益がある存在だと考えられているのです。

東京都杉並区「高円寺」の三猿。
東京都杉並区「高円寺」の三猿。

また、日光東照宮などでは「三猿(見ざる・言わざる・聞かざる)」が有名ですが、こちらは中国から伝来した庚申信仰に基づいたもの。

庚申信仰では、60日に一度の「庚申(かのえさる)」の日は徹夜で起きていないと、体の中の虫が、天の神様にここ60日の悪事をチクってしまうと考えられていました。

チクられないために「無礼な言葉を、見たり言ったり聞いたりするなかれ」という教えから三猿になったのです。

これが中国から、天台宗の僧侶を通じて日本に広まったのですが、天台宗の本山が比叡山(ひえいざん)にあることと、猿が神の使いになっているのが「日枝(ひえ)神社」である、音の符号からも、深い繋がりを感じますね。

菅原道真と「牛」の深いつながり

福岡県「太宰府天満宮」の牛。
福岡県「太宰府天満宮」の牛。

各地の天満宮に行くと、「牛」の像をよく見かけます。天満宮=天神なので「◯◯天神」と呼ばれる神社でも牛を見つけることができます。

天満宮のご祭神は、学問の神様として有名な「菅原道真」ですが、牛とはどんな関係があるのでしょうか?

まず、道真は承和12年(846)の丑年生まれで、亡くなったのが延喜3年(903)2月25日の丑の日です。

また、亡くなった道真を牛が曳く車に乗せて運んでいたところ、ある場所で牛が座り込んで動かなくなりました。

そこで、その場所(現在の太宰府天満宮)を道真の墓にしたという説話も残っています。

天満宮で見かける牛が、どれも伏せているのはそのためです。

東京都立川市「阿豆佐味天神社」。
東京都立川市「阿豆佐味天神社」。

さらに、道真は亡くなった後に「天満大自在天神(てんまんだいじざいてんじん)」という神様としての名前になりますが、「大自在天」とは仏教において白い牛にまたがった姿で表されます。

牛は道真にとって、これだけ深いつながりのある動物なのですね。

 

神社仏閣で見かける動物たちは、あくまで神の使いで脇役ではありますが、それぞれの背景を知ると、これまで以上に神社仏閣へのお出かけが楽しくなること請け合いです!

次回は【幻獣編】と題して、獅子や龍などの実在しない動物たちについてご紹介。

お楽しみに!

写真・文=Mr.tsubaking