頭上におじいさんをのせた美女!?
美しい女性が楽器の琵琶を持った姿で表される「弁財天」。
技芸上達や金運アップの御利益があるとされ、もともとは、ヒンドゥー教の「サラスヴァティー」という芸術と学問の神様だったことに由来します。
また、川の神様でもあることから、江の島の銭洗弁天「銭洗白龍王」や、琵琶湖に浮かぶ竹生島(ちくぶじま)に建つ「宝厳寺」の弁財天など、日本でも水辺に祀られることの多い仏様です。
一方で、神道の中に、五穀豊穣の御利益があるとされる「宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)」という神様がいます。
中世以降には、それを元にした「宇賀神」という神様が信仰されるようになりました。
「蛇の体に翁(おじいさん)の顔」という、かなりアバンギャルドな姿で多くの像が作られています。
そんな弁財天と宇賀神が合体(「習合」といいます)し、日本オリジナルの存在として「宇賀弁財天」という仏様が完成。
その容貌は、手が8本あり頭上に鳥居がのっています。
仏様なのに、神社の鳥居がのっているなんて、まさに「神仏習合」そのものです。
そして宇賀神はというと、鳥居の奥から顔を出しています。
まさに、単体でチームとなった仏の代表格とも言えるのが、宇賀弁財天なのです!
お前の心に仏はあるのか!?
自分の胸を手で広げ、そこから仏がニュッと顔を出しているという、ちょっとびっくりするような像。
お釈迦さまの直接の弟子として、仏教の始まりの頃に活躍した「十大弟子」のうちの一人、「羅睺羅尊者(らごらそんじゃ)」という人物です。
実はこの羅睺羅尊者、お釈迦さまの息子。
しかし、端正でいわゆるイケメンだったお釈迦様とは顔が似ていなかったため、周囲から「お前みたいな不細工が、お釈迦さまの子供なわけないだろ」とまで言われていたそう。
そんな言葉を耳にした羅睺羅尊者は、「ほら、心の中に仏(お釈迦さま)が宿ってますよ」と、胸を開いて見せたといいます。
衝撃的なビジュアルの背景には、そんな逸話があったのです。
閻魔様の監視カメラは街のいたるところに!?
私たちが死んだ後、地獄に行くのか極楽に行くのかを裁く、あの世の裁判長として知られる「閻魔大王」。
子供の頃にも、「悪いことをしていると閻魔様に知られて地獄に落ちるよ!」なんて怒られた経験がある方もいるのではないでしょうか?
ではなぜ、閻魔様は私たちの悪行や善行を見ることができているのでしょうか?
お寺にわざわざ行かなくても、道端などでみかける「お地蔵さま」。私たちにとって、もっとも身近な存在の仏像と言っても過言ではありません。
街のそこここにいるお地蔵さまが、実は閻魔大王と同一であるとされているのです!
もちろん諸説ありですが、私たちのそばにいるお地蔵さんは、閻魔大王の目となって、私たちを見ている存在だとも言われているのです。
一見、単独に見える閻魔大王も、その内側に地蔵菩薩を抱えているという、見えないチーム制を敷く仏像です。
みんな大好き「フュージョン」の世界
私たちはいつでも「合体」に胸がトキメキます!
筆者世代であれば漫画・アニメ『ドラゴンボール』のシリーズにおける「フュージョン」ですね。最近の仮面ライダーシリーズでは『仮面ライダーガッチャード』にも合体のワクワクがたくさん盛り込まれています。
そんな心の動きは昔から変わらないようで、七福神の一人としておなじみの「大黒天」も“合体”をします。
単体で祀られる場合は、小槌をもって俵にのる姿が一般的。
合体をした像も、一見すると似たようなフォルムに見えますが、単体の大黒天にはないものが両脇に!
右側は弁財天で左が毘沙門天です。
上の写真の像は、あの空海作だと伝えられる貴重な「三面大黒天」。
もちろんパワーも3人分となり、大黒天の御利益である商売繁盛だけでなく、勝運や出世の御利益もあると言われています。
あの仏とはオーナーと店長の関係!?
観音菩薩がさまざまな姿に返信するということは、この連載の以前の記事でご紹介しました。
そんな観音菩薩の中に、頭上に阿弥陀如来を配する像例が多く見られます。
観音菩薩と阿弥陀如来といえば、この連載の【チームで祀られる仏像・前編】でも書いた通り、阿弥陀如来が三尊形式で祀られる場合に、脇に控えるうちの一尊が観音菩薩でしたね。
阿弥陀如来は、極楽浄土のオーナーのような存在(「教主」と言います)ですが、観音菩薩は阿弥陀如来というオーナーの元で働く店長のようなポジションといえるでしょう。
極楽浄土にやってきた人間たちに、オーナーである阿弥陀如来の言葉を伝えたり、時にはこの世に降りてきて、罪を犯したり迷ったりしている人間に、正しい極楽への道を示したりしているのです。
そんな関係性から、観音菩薩には阿弥陀如来が配置され、単体でチームとしての仏像が完成しています。
仏像にはパッと見ただけではわからない彫刻が施されているものも多くあります。その中には、今回ご紹介したような合体してチームを組む存在がいるかもしれません。
この記事を読んで、お寺や博物館で仏像を拝観した時に、細部にもより興味を持って楽しんでいただけるようになれば幸いです。
写真・文=Mr.tsubaking