仏像は単体で祀られることもありますが、経典にはそれぞれのバックボーンや歴史が語られているため、関連する仏とともに「チーム」で祀られる例も多く見られます。今回は、どんなチームがどんなメンバーで構成されているのかを解説していきます。好きな仏像を単体で愛でるのも楽しいですが、この記事を読んで“ハコ推し”してみてはいかがですか?
仏像は単体で祀られることもありますが、経典にはそれぞれのバックボーンや歴史が語られているため、関連する仏とともに「チーム」で祀られる例も多く見られます。【前編】では、阿弥陀如来や薬師如来などと三尊で祀られるパターンを中心にご紹介しましたが、今回は仏像が乗っているものにスポットを当ててみましょう!乗っている者と乗られている者、一見、優劣があるようにも見えますが、それだけではない関係性も!?

頭上におじいさんをのせた美女!?

美しい女性が楽器の琵琶を持った姿で表される「弁財天」。

技芸上達や金運アップの御利益があるとされ、もともとは、ヒンドゥー教の「サラスヴァティー」という芸術と学問の神様だったことに由来します。

また、川の神様でもあることから、江の島の銭洗弁天「銭洗白龍王」や、琵琶湖に浮かぶ竹生島(ちくぶじま)に建つ「宝厳寺」の弁財天など、日本でも水辺に祀られることの多い仏様です。

富山県「新湊弁財天」。
富山県「新湊弁財天」。

一方で、神道の中に、五穀豊穣の御利益があるとされる「宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)」という神様がいます。

中世以降には、それを元にした「宇賀神」という神様が信仰されるようになりました。

「蛇の体に翁(おじいさん)の顔」という、かなりアバンギャルドな姿で多くの像が作られています。

江東区「江島杉山神社」の宇賀神。
江東区「江島杉山神社」の宇賀神。

そんな弁財天と宇賀神が合体(「習合」といいます)し、日本オリジナルの存在として「宇賀弁財天」という仏様が完成。

栃木県「長蓮寺」の宇賀弁財天。
栃木県「長蓮寺」の宇賀弁財天。

その容貌は、手が8本あり頭上に鳥居がのっています。

仏様なのに、神社の鳥居がのっているなんて、まさに「神仏習合」そのものです。

頭上から宇賀神がのぞく。
頭上から宇賀神がのぞく。

そして宇賀神はというと、鳥居の奥から顔を出しています。

まさに、単体でチームとなった仏の代表格とも言えるのが、宇賀弁財天なのです!

お前の心に仏はあるのか!?

熊本県「大慈禅寺」の羅睺羅尊者。
熊本県「大慈禅寺」の羅睺羅尊者。

自分の胸を手で広げ、そこから仏がニュッと顔を出しているという、ちょっとびっくりするような像。

お釈迦さまの直接の弟子として、仏教の始まりの頃に活躍した「十大弟子」のうちの一人、「羅睺羅尊者(らごらそんじゃ)」という人物です。

実はこの羅睺羅尊者、お釈迦さまの息子。

しかし、端正でいわゆるイケメンだったお釈迦様とは顔が似ていなかったため、周囲から「お前みたいな不細工が、お釈迦さまの子供なわけないだろ」とまで言われていたそう。

富山県『ふれあい石像の里』の羅睺羅尊者。
富山県『ふれあい石像の里』の羅睺羅尊者。

そんな言葉を耳にした羅睺羅尊者は、「ほら、心の中に仏(お釈迦さま)が宿ってますよ」と、胸を開いて見せたといいます。

衝撃的なビジュアルの背景には、そんな逸話があったのです。

閻魔様の監視カメラは街のいたるところに!?

福島県「ひばり温泉」の閻魔大王。
福島県「ひばり温泉」の閻魔大王。

私たちが死んだ後、地獄に行くのか極楽に行くのかを裁く、あの世の裁判長として知られる「閻魔大王」。

子供の頃にも、「悪いことをしていると閻魔様に知られて地獄に落ちるよ!」なんて怒られた経験がある方もいるのではないでしょうか?

ではなぜ、閻魔様は私たちの悪行や善行を見ることができているのでしょうか?

お寺にわざわざ行かなくても、道端などでみかける「お地蔵さま」。私たちにとって、もっとも身近な存在の仏像と言っても過言ではありません。

街のそこここにいるお地蔵さまが、実は閻魔大王と同一であるとされているのです!

東京都「目黒不動尊」には、地蔵菩薩と閻魔大王が一緒に安置される。
東京都「目黒不動尊」には、地蔵菩薩と閻魔大王が一緒に安置される。

もちろん諸説ありですが、私たちのそばにいるお地蔵さんは、閻魔大王の目となって、私たちを見ている存在だとも言われているのです。

一見、単独に見える閻魔大王も、その内側に地蔵菩薩を抱えているという、見えないチーム制を敷く仏像です。

みんな大好き「フュージョン」の世界

東京都「大悲願寺」の大黒天。
東京都「大悲願寺」の大黒天。

私たちはいつでも「合体」に胸がトキメキます!

筆者世代であれば漫画・アニメ『ドラゴンボール』のシリーズにおける「フュージョン」ですね。最近の仮面ライダーシリーズでは『仮面ライダーガッチャード』にも合体のワクワクがたくさん盛り込まれています。

そんな心の動きは昔から変わらないようで、七福神の一人としておなじみの「大黒天」も“合体”をします。

単体で祀られる場合は、小槌をもって俵にのる姿が一般的。

東京都「英信寺」の三面大黒天。
東京都「英信寺」の三面大黒天。

合体をした像も、一見すると似たようなフォルムに見えますが、単体の大黒天にはないものが両脇に!

右側は弁財天で左が毘沙門天です。

上の写真の像は、あの空海作だと伝えられる貴重な「三面大黒天」。

もちろんパワーも3人分となり、大黒天の御利益である商売繁盛だけでなく、勝運や出世の御利益もあると言われています。

あの仏とはオーナーと店長の関係!?

神奈川県「チューアベトナム」の観音菩薩はよくみると頭上に如来像が。
神奈川県「チューアベトナム」の観音菩薩はよくみると頭上に如来像が。

観音菩薩がさまざまな姿に返信するということは、この連載の以前の記事でご紹介しました。

そんな観音菩薩の中に、頭上に阿弥陀如来を配する像例が多く見られます。

観音菩薩と阿弥陀如来といえば、この連載の【チームで祀られる仏像・前編】でも書いた通り、阿弥陀如来が三尊形式で祀られる場合に、脇に控えるうちの一尊が観音菩薩でしたね。

日本人がもっとも親しんでいる仏像のひとつは観音菩薩と言って間違いはないでしょう。「観音山」や「観音岬」など地名にも多く使われていることからも、私たちは観音を身近に感じています。観音菩薩は、なぜ日本人に親しまれているのか、そして様々な観音菩薩の特徴はなにか、といった部分から、その魅力に迫っていきましょう。
埼玉県「百体観音堂」の千手観音は阿弥陀如来を掲げている。
埼玉県「百体観音堂」の千手観音は阿弥陀如来を掲げている。

阿弥陀如来は、極楽浄土のオーナーのような存在(「教主」と言います)ですが、観音菩薩は阿弥陀如来というオーナーの元で働く店長のようなポジションといえるでしょう。

極楽浄土にやってきた人間たちに、オーナーである阿弥陀如来の言葉を伝えたり、時にはこの世に降りてきて、罪を犯したり迷ったりしている人間に、正しい極楽への道を示したりしているのです。

そんな関係性から、観音菩薩には阿弥陀如来が配置され、単体でチームとしての仏像が完成しています。

 

仏像にはパッと見ただけではわからない彫刻が施されているものも多くあります。その中には、今回ご紹介したような合体してチームを組む存在がいるかもしれません。

この記事を読んで、お寺や博物館で仏像を拝観した時に、細部にもより興味を持って楽しんでいただけるようになれば幸いです。

写真・文=Mr.tsubaking