いろいろな仏像の持ち物として活躍する「剣」
剣を手にしている仏像を見たことがありますか?ポピュラーなところで言えば、不動明王が右手に剣を携えています。
これは「倶利伽羅剣(くりからけん)」という名前で、仏教の教えの中で私たちが無くすべき3つの心を打ち破るための武器。
その3つとは、「むさぼる心・人を憎む心・迷い的確な判断ができない心」です。
実際に彫刻されている例は多くありませんが、経典では剣に炎と龍が巻きついているとされます。
他に、弁財天も剣を持つ姿を取ることがあります。おなじみなのは、江ノ島の弁財天のように琵琶という楽器をもつ姿。
しかし、日本の古来の神様である宇賀神(うがじん、うかのかみ)という神様と合体した宇賀弁天は、手が8本あり、剣をはじめとした武器を持っています。
仏教を敵から守る戦いの仏としての特徴が表現されているのです。
さらに、文殊菩薩も剣を持つことがあります。こちらは、智慧を表し「智剣(ちけん)」と呼ばれます。
悟りへの正しい智慧を得て、煩悩や執着を「断ち切る」という意味が込められています。
仏像が持つ杖にはご利益だけでなく大切な役割も!
お地蔵さんや、僧侶の像が持っている杖のような棒。これを「錫杖(しゃくじょう)」と言います。
上部に金属でできた輪っかが数本ついていて、杖をつくたび凛々しい音がシャンシャンと鳴るのが特徴。
錫杖とその音は厄災や悪を払うと考えられているのに加え、歩く際に音を鳴らすことで、虫などを散らして、踏んでしまわないようにするためとも考えられています。
また、深い山を歩く修行をする修験道などでは、音のなる杖をついて歩くことで、熊などの野生動物に襲われにくくするという、実利的な役割も持っている大事な道具です。
薬師如来だけが持つ壺とは
仏像の中で「如来」と言えば、最高位に位置する仏です。パンチパーマのような髪型と大きな耳、ふっくらした肉体に簡素な服をまとっていることなどが特徴。
これらは、大日如来を除く多くの如来像に共通するものなので、仏像を見慣れないと見分けるのが難しいのですが、左手に「薬壺(やっこ)」を持っていたら、それは薬師如来で間違いありません!
懐かしの「フエキ糊」みたいな形の薬壺には、すべての病を治癒するという万能の薬が入っているとされています。
好きな人のハートを射抜く物といえば?
縁結びや良縁成就にご利益があるとされる、愛染明王。
6本の手がある仏像で、その手には弓と矢が握られています。
縁結びに弓矢と聞いて、思い出すことはありませんか?
西洋的な天使で「恋のキューピット」と言われると、弓矢を持った姿を想像しますよね。
欧米でも日本でも、「心を射止める」というイメージが共通しているのは面白いですね!
なお、愛染明王の6本のうち1本の手には何も持っていません。ここには、恋しい思いを成就させたい相手の名前を書いた紙や、今でいうところのラブレターを持たせて成就を祈願したと言われています。
たくさんの人を救う願いが込められた持ち物
冒頭でご紹介した通り、不動明王の右手には剣が握られています。一方で左手を見てみると、縄のようなものが。
これは「羂索(けんさく)」といって、鳥や獣を捕まえる時に使うもの。
仏像では縄として表されますが、網も含めた狩猟の道具です。
不動明王の他にも「不空羂索観音(ふくうけんさくかんのん)」という観音菩薩も、その名の通り羂索を手にしています。
もちろん、仏像たちが鳥獣を捕まえようとしているわけではありません。
不動明王や不空羂索観音はこの羂索で、迷える人間を救おうとしているのです。
見慣れない宝珠?いえ誰しもが見ているはず!
吉祥天をはじめ、弁財天やその他の仏像が持っている玉のようなものは「宝珠(ほうじゅ)」と言います。
これは、どんな願いでも叶えてくれるというもので、これを持つ仏のご利益や福徳を表現しています。
お寺や仏像になじみの薄い方にはなかなか見慣れないように感じるかもしれませんが、実は多くの人が同じものを目にしているはず!
お寺や神社などの橋の欄干に、宝珠と同じデザインのものがついているのを見かけたことがあるでしょう!
これは「擬宝珠(ぎぼし)」といいます。宝珠は龍神が生み出したとも考えられていますが、龍神は水を司る神様でもあるので、川にかかる橋に擬宝珠がつけられるのも自然ですね。
また、木で造られた橋に擬宝珠で金属の蓋をすることで、雨による腐食を防止する役目も担っています。
たくさんの手にたくさんの持ち物!
手が2本の仏は、持ち物も多くありませんが、手の数が増えれば、持ち物の種類も当然多くなります。手の多い仏像といえばやはり千手観音でしょう。
像にもよりますが、いくつもの持物を手にする千手観音もしばしば見られます。
お腹の病を治める意味を持つ、宝鉢(ほうはつ)という食器や、私たちにも身近な数珠。これまでにも出て来た錫杖や剣も持っています。
中でも目を引くのは、ドクロ。これは悪い者を操る力があると考えられているほか、仏教では「諸行無常」の象徴でもあります。
私たちには、誰にでも等しく死が訪れます。普段は忘れているその事実を見つめ、今を大切に生きようという教えがあるのです。
なんとなく「歴史を感じる」「落ち着く」と仏像を見るより、持ち物までじっくり観察することで、これまでより楽しみがもっと増えるはずです。
お寺にお出かけの際には、仏像の持物にも注目して見てください!
写真・文=Mr.tsubaking