戦後間もない1949年に日本橋で創業

2階から見た1階客席。吹き抜けの天井に古材の梁が吊るされている。
2階から見た1階客席。吹き抜けの天井に古材の梁が吊るされている。

『珈琲処ボナール』が開業したのは、戦後間もない1949年。日本橋高島屋の隣に店を開いた。

店名の「ボナール」は、フランスの画家ピエール・ボナールから付けたという。店長の栁沼正己(やぎぬままさみ)さんによると、開業当初はごく普通の喫茶店だったが、後に改装して高級志向のコーヒー専門店になったそう。

その後、2014年に日本橋高島屋が新館を増設するタイミングでこの場所に移転。天井の梁は、移転の際に旧店舗から移築したものだ。元々古民家で使用されていたもので、移転前を知る常連客にとっては懐かしい眺めになっている。店内にはクラシック音楽が流れ、ゆったりとした雰囲気を作っている。

カウンター席に座ると、ハンドドリップの様子を見ることができる。
カウンター席に座ると、ハンドドリップの様子を見ることができる。

流行を追わない昔ながらの苦味とコク

コーヒーは1杯ずつ、じっくりとペーパードリップする。
コーヒーは1杯ずつ、じっくりとペーパードリップする。

コーヒー豆は備長炭で焙煎し、注文が入るごとに1杯分ずつ挽いて新鮮な香りを引きだしている。挽き方にもこだわりがあり、それは超粗挽きにすること。絶妙な大きさの顆粒状にすることによってまろやかな味になる。

まずはブラックで、コーヒーそのものの味と香りを感じてほしいとの思いから、クリームは極力出していない。味の違いや香りなどコーヒーのあらゆる特徴を楽しめるという。

ハンドドリップで提供する濃厚ブレンド珈琲は1200円。
ハンドドリップで提供する濃厚ブレンド珈琲は1200円。

豆は最上のものを使用している。生産国において適正な環境で栽培され、品質管理も徹底されたスペシャルティコーヒーを仕入れているという。そんなコーヒー豆を顆粒状にし、通常より多めに使っている。

中でも濃厚ブレンド珈琲は、ノーマルブレンドの豆使用量に対し15g足してハンドドリップ。一口飲むと濃厚なコクと香りが口の中に広がる。流行しているフルーティーで酸味があるコーヒーとは一線を画す苦味とコクのある味だ。この界隈の客層が好む、昔ながらの懐かしいコーヒーの味を追求した結果だ。

アイスコーヒー「琥珀の女王」は1000円。
アイスコーヒー「琥珀の女王」は1000円。

アイスコーヒー「琥珀の女王」は酸味のある豆を濃く抽出し、砂糖で甘みをつけている。表面に生クリームを浮かせた2層仕立て。カクテルグラスで提供される見た目も涼やかな一品だ。まろやかなクリームの下から濃厚かつ甘いコーヒーが顔を出す、これ1杯で贅沢なデザートのようなコーヒー。夏のとびきり暑い日にもおすすめしたい。

コーヒーと楽しむスイーツ2選

濃厚なレアチーズケーキとドリンクのセットは1500円。
濃厚なレアチーズケーキとドリンクのセットは1500円。

濃厚なコーヒーは濃厚なチーズケーキとよく合う。『ボナール』のチーズケーキはクリームとサワークリームを合わせたコクのあるレアチーズケーキ。ブルーベリーソースと店頭のプランターに咲くマリーゴールドの花を添えて提供される。

和栗のモンブランとドリンクのセットも1500円。
和栗のモンブランとドリンクのセットも1500円。

セットのドリンクは900円の飲み物の中から選べる。モンブランのクリームもコーヒーの重厚感に合うようにしっかりと甘い。ケーキは、このほかにもミルクレープやリンゴと桃のケーキなどコーヒーに合うラインアップ。軽食はホットドックのみ。あくまでコーヒーが主役の店なのだ。

カップは全てウェッジウッド製

店頭にディスプレイされた美しい装飾のカップ。
店頭にディスプレイされた美しい装飾のカップ。

カップは全て英国のウェッジウッド社製で統一されている。店頭とカウンター奥には美しいカップがずらりと並ぶ。定番の柄から、アンティーク品、技巧を凝らした逸品まで色鮮やかなカップが揃い、見ているだけでも楽しい。この中から客に合わせた1つを選んで淹れてくれる。

ワインのようにコーヒーを味わってほしい

ぐっと落ち着いた雰囲気の2階の客席。プライベート感がある。
ぐっと落ち着いた雰囲気の2階の客席。プライベート感がある。

2階は今年(2024年)4月まで喫煙席だったが、5月からはここも禁煙席になった。タバコの匂いに邪魔されずにコーヒーの香りをより楽しんでほしいとの思いからだ。

店長の栁沼さんは「ワインのようにコーヒーを楽しんでほしいですね」と話す。ぶどうの産地や品種、収穫年によってさまざまな銘柄が作られているワイン。コーヒーも豆の種類や産地、栽培環境によって個性が出てくるので、その違いを味わってほしいとのこと。

栁沼さんのおすすめはエチオピアコーヒー。キリマンジャロやコロンビアなど産地別のコーヒーも味わってみたい。

1階と2階のほか、一段奥にも客席がある、三層構造になっている。
1階と2階のほか、一段奥にも客席がある、三層構造になっている。
住所:東京都台東区上野1-18-11/営業時間:11:00〜22:00(日・祝は~20:00)/定休日:無/アクセス:地下鉄銀座線上野広小路駅から徒歩3分

取材・⽂・撮影=新井鏡子 構成=アド・グリーン