店の運命が変わった日。転機は2021年9月26日
取材に応じてくれたのは『恋と、焼肉。』の店長・小林恵(こばやしめぐみ)さん。今でこそ各種メディアに引っ張りだこの人気焼き肉店だが、どうやら当初から順風満帆だったわけではなかったようだ。
「オープンは2021年5月。まさにコロナ禍真っ只中でした。当時はお客様が外食を楽しみにくい環境下で、さらに夜間営業もできず……。当然のことながら、月の売り上げも雀の涙ほどでした」
しかし、鳴かず飛ばずの苦しい営業をどうにか続ける中、2021年9月26日、この店の運命を変える大きな出来事が起こった。
200万人程のフォロワーを持つ人気グルメメディアが、『恋と、焼肉。』のハンバーグをSNSで紹介したのだ。この日を境に、これまで閑散としていたランチタイムは、常に若者客で大にぎわいする時間へと変貌した。
「SNSに掲載された翌日は、ランチのハンバーグは30人前くらい仕込んでおけば間に合うかな?と思ったんですが、全然足りず。オープン前から行列ができていて、12時過ぎにはあっという間に売り切れてしまいました。以来、肉の仕入れ量から見直さなければならないほど、うちの店のハンバーグは絶大な人気をキープし続けています」
何てドラマティックで、今どきなストーリーなのだろうか。
もちろん、ハンバーグが支持され続けるのは、人気メディアからのSNS紹介だけが理由ではない。お肉の質、そして提供の仕方にもとことん店のこだわりが反映されているからこそ、多くの若者の舌と心を魅了し続けているのだ。
ここからは、そんな噂のハンバーグの正体を丸裸にしていこう。
焼き加減はお好みで!6種の薬味で楽しむ和牛100%ハンバーグ
1つ50g程度のハンバーグを、最大6つまで頼めるというランチセット。途中追加もできるそうだが、今回は最初から6つオーダーすることに。注文後、机上に提供されたのは何と成形された生のハンバーグ!
「『恋と、焼肉。』のハンバーグは、お客様自身で鉄板で焼いていただきます。表1分、裏1分、表1分、裏1分の、計4分焼いてください。和牛100%にこだわっているので、レアでもおいしく召し上がれますよ。薬味は6種あるので、お好みでどうぞ!」
小林さんからの丁寧な説明を受けた後は、早速焼き肉スタイルで和牛ハンバーグを焼いていくことに!
焼き肉屋の鉄板でハンバーグを焼くのはもちろん初めての体験だが、このわずかな焼き時間が、何やら無性に楽しい。あっという間に4分を迎えた後は、熱々のハンバーグにどの薬味をつけるかでうむむと悩む。言わずもがな、この悩む時間までも楽しめるのが、このハンバーグの魅力なのだ。
焼きたてのハンバーグは、粗挽きの和牛のぷりぷり食感がたまらない。一口食べて、フレッシュな和牛の旨味が口いっぱいに広がってくる。
その肉の旨味を一層引き立てるのが、お店自慢の6種の薬味。それぞれが単体でもしっかりおいしくいただけるほど作り込まれているので、ハンバーグの味に飽きることがないのだ。
最初にいただいたコンフィーは、塩だけで仕込んでいるとは思えないほどの奥深い旨味が特徴。思わずビールが恋しくなる、お酒のアテにもぴったりな味わい。
女性人気が高いというポン酢と醤油ダレは、ハンバーグをあっさり風味で楽しみたい方におすすめ。洋風のハンバーグが和風テイストに整えられ、先ほどとは異なるハンバーグの旨味に出合える。
柑橘塩とラビゴットソースもしっかり堪能したところで、ラストはご飯の上にハンバーグをのせ、さらに上から卵黄ハンバーグソースをかけて完成する、“オリジナルハンバーグ丼”を楽しむことに!
夜のコースでも使っているというマンゴー入りの卵黄ハンバーグソースは、甘みも旨味も強く、何ともリッチな味わい。そこに卵黄のコクとまろやかさが加わることで、ハンバーグの肉々しさが程よくマイルドに味変され、何とも美味。
初見では正直「こんなにハンバーグを食べられるだろうか……」と少々不安に思った。しかし、つなぎを使っていない和牛100%ハンバーグは、鉄板で焼くと肉がキュッと引き締まり、丁度良い小ぶりサイズに縮んでくれる。
さらにバラエティ豊か過ぎる薬味のおかげで多様な味わいを楽しめるため、結局当初の懸念はどこへやら、余裕でぺろりと平らげてしまった。
ハンバーグの旨味だけではなく、“ハンバーグを焼く体験そのもの”をもしっかりと楽しめる、まさに“体験型絶品ハンバーグ”の魅力をたっぷりと堪能できた。これは新しいものに目がない若者たちがハマるのも納得。
映えるだけじゃない。料理も店の雰囲気も、丸ごと全部楽しめるお店
「『恋と、焼肉。』は、魅せる料理に重きを置いた、“映える店”だと自負しています。料理の味だけでなく、盛り付けや食器、内装にもしっかりこだわっているので、お客様には当店ならではの演出をとことん楽しんでもらいたいですね」
確かに、ガラス張りの内装にしろ、料理の盛り付けにしろ、この店は至るところに若者たちの心をくすぐる演出が散りばめられているのだ。
ただ“映え”を狙うだけでなく、料理の質にも抜かりがない点がこの店のすごいところ。
「ホルモンを仕入れるならここ、和牛ならここ、といった感じで、仕入れ先は各業者の強みに合わせて使い分けています。ハンバーグで提供した6種の薬味も、フランス料理店での修業経験がある腕利きシェフが作ったものなんですよ」
『恋と、焼肉。』は、確かに若者向けの“今どきの店”といえよう。しかし、“映え”だけを意識した飲食店の人気は、そう長くは続かない。新しい、うまい、楽しいを常に意識し、時代の流れに沿った柔軟な変化をし続けているからこそ、この店は長きに渡って若者たちからの絶大な指示を得ることができているのだ。
「うちのスタッフは皆、常に流行に高いアンテナを張っています。そんなスタッフの頑張りが、店のメニューにも内装にも、たくさん反映されているんですよ。オープン時の苦しい期間を知っているからこそ、来店してくれる大勢の女の子たちが楽しそうに自撮りしたり、料理の写真を撮ったりする姿を見ると、とってもうれしいです。スタッフの努力が報われた気がするんですよね」
ランチタイムはかなり混み合うそうなので、絶品ハンバーグを確実に楽しみたい方は、予約してからの来店がおすすめ。
かわいい空間で楽しむ絶品ハンバーグを前にすれば、きっとあなたもつい思い出に残る写真を撮りたくなってしまうはずだ。
取材・文・撮影=杉井亜希