仏教が日本にやってきた時代は笑顔の仏像
まずは、日本に仏教が伝来した飛鳥時代~白鳳時代の仏像です。
飛鳥時代の仏像は顔のパーツに特徴が出ています。
目は、上下まぶたが同じ曲線を描いており、その形から「杏仁形(アーモンドアイ)」と言われます。
また、口は端ををややあげて“真顔以上微笑み未満”のような表情をしており、「アルカイックスマイル」と言われます。
歴史の教科書にも登場した「鞍作止利(くらつくりのとり)」という仏師が活躍した時代。
現在でも、奈良の飛鳥寺で鞍作止利が作った「飛鳥大仏」が拝観できます。
なお、飛鳥大仏は日本最古の大仏でもあるため、必見です!
全体としては、私たちが仏像でイメージする丸みを帯びた柔らかなものではなく、直線的でゴツゴツした印象もこの時代の特徴です。
飛鳥後半の白鳳時代になると、やや丸みを帯びてきます。
実は、都心からアクセスの良い深大寺(調布市)の「釈迦如来像」は白鳳時代を代表する仏像の一つです。
柔らで滑らかな雰囲気は、飛鳥時代と対照的な印象を受けますね。
飛鳥〜白鳳時代の有名な仏像としては法隆寺(奈良県)の「釈迦三尊像」や、広隆寺(京都府)の「弥勒菩薩半跏像」などがあります。
絶妙すぎる表情は素材の変化がもたらした
それまで、銅などの金属を鋳造したり木から彫り出すのが中心だった仏像に、新たな素材が登場します。それが「粘土」と「漆」です。
彫ったら後戻りができない木彫や、型の決まっている金属の鋳造では叶わなかった、細かい表現が、粘土なら自由自在!
粘土で作った像に、薄い漆を何枚も貼り重ねて完成させていく技法が広まったのです。
その結果、それまではできなかった細かい表情や衣の柔らかさが表現できるようになりました。
有名な興福寺(奈良県)の阿修羅像などは、凛々しさの奥に悲しみを抱えたような絶妙な表情をしています。
こうした技法が広まった背景には、国が仏師を雇うようになり、仏像制作に多くの資金が投入されるようになったこともあります。
漆のような高級品を、何枚も貼り重ねる作り方は、国の経済力あってのものだったのです。
仏像の基本形を作ったスター仏師が登場
今、皆さんが「仏像」と聞いてイメージする姿、その形がはっきりと決まったのがこの時代です。
主役は「定朝(じょうちょう)」という仏師。
10円玉のデザインとしてもおなじみの、平等院鳳凰堂(京都府)にある阿弥陀如来像は、現存する定朝唯一の作品です。
それまで仏師は、お寺につかえながらそのお寺の仏像を作るのが常でした。
しかし定朝は、独立した工房を持ち100人以上の弟子(従業員)を抱えたのです。
そんな彼のやり方を、後押ししたのがこの頃に誕生した技法。
前の時代までの木彫仏は、基本的に1本の木から彫り出すように作っていました。しかし、パーツごとに別々に製作し、それをプラモデル的に組み合わせて作る「寄木造(よせぎづくり)」という技法です。
仏像は、一体を一人の仏師が作り上げるのが普通でしたが、定朝はこの寄木造を用いて分業制をはじめます。
ここから、仏像の大量生産が可能になりました。
たくさんの人で作っても完成した像が破綻しないよう、定朝は細かく決まりごとを作って、弟子たちに教えました。
この時に作られたルールを、後世の仏師も守り続け、なんと1000年以上経った現代でも、この定朝スタイルに従って仏像が作られているのです!
躍動する仏像はリアリティ満点!
鎌倉時代のキーワードは「リアリティ」と「パワー」です。
仏教に興味がない方でも一度は耳にしたとこがある有名仏師、「運慶」「快慶」の時代です。
東大寺の仁王像を作ったのが彼らだということを考えると、私が書くまでもなく「パワー」というキーワードは理解していただけると思います。
写真の仏像を製作したのは、運慶の流れを汲む仏師「湛康」。脈打つようなパワーのみなぎりが、まさに鎌倉時代の魅力バリバリです!
それと同時に、顔などをよく見てみると「リアリティ」をありありと感じることができます。
眉や顔の筋肉の隆起は、超人的で漫画チックなのですが不思議と、そこに実在する人間のような生命感が感じられます。
もちろん、仏師の技術の高さの賜物なのですが、この「リアリティ」の秘密がもうひとつ。「玉眼」です。
目の部分をくりぬいてそこに水晶を嵌め、内側から眼球を描いた和紙を貼ります。これによって、目に光が宿り、生命感が生まれるのです。
この玉眼という技法が広まったのも、鎌倉時代でした。
そして、鎌倉時代は「仏像彫刻の芸術性が完成した時代」とまで言われています!
12万体もの仏像を彫った超人が登場!
鎌倉時代の仏像の凄さはご紹介の通りですが、それを裏返して「仏像彫刻は鎌倉時代で終わった」とも言われます。
事実、国宝に指定されている最も新しい仏像も鎌倉時代であり、室町時代以降の仏像には国宝が一つもありません。
しかし、その後の時代にも私たちの心を揺さぶるような仏像はたくさん作られています。その中から、「円空」という人物をご紹介します。
円空は江戸時代のお坊さんで、全国を旅しながら修行を続けていました。その旅の中で彫った仏像の数は、なんと12万体とも言われています!(現存は約5000体)
その特徴は一目でわかる通り、簡素な彫り方と個性的な表情。
鎌倉時代までの仏師たちは、極限まで技術を高め続けましたが、その逆を行くような「へたうま」的な見た目です。
円空は修行の旅で全国をめぐる中で、お寺に厳かに祀られるためだけでない、民衆の身近に寄り添う仏像を作ったのです。
そうした意識もあって、円空は道端に落ちている木からも仏像を彫り、旅先の町々に残して生きました。
まさに、そばに居て欲しくなるような愛らしさと柔らかさがあふれ出ていますね。
年代ごとの仏像の特徴を知れば、旅先やおでかけ先で仏像を見た時にも、今までよりグッと引き込まれて、旅やお出かけに花を添えてくれるはず!
お寺を旅の目的地や寄り道にしてみてはいかがでしょう?
写真・文=Mr.tsubaking