充実した喫茶メニューでほっとできる空間
『市川ちもと』は、軽井沢『ちもと総本店』がのれん分けしたうちの一つで、箱根や、都立大学でも『ちもと』の味を楽しめるとのこと。
長くこの地で和菓子屋を営む『市川ちもと』。三代目として、和菓子屋の後を継ぐことをどう考えていたか問うと、
「自分は、高校を卒業してすぐにお菓子業界に入り、お店を継ぐことに抵抗や苦労はなかったよ」と清水さんは笑顔で答えてくれた。
気さくに話してくれる清水さんからは、和菓子とお店を愛してやまない人なのだと感じられる。
また、「ランチ後のデザートに」と立ち寄られたお客さんとはお知り合いのようで、清水さんがお客さんとの会話を楽しんでいる様子が微笑ましく、老舗ならではの親しみやすい空間を提供しているようだった。
清水さんこだわりの、お店で楽しめる喫茶メニューは季節で分かれており、冬メニューと夏メニューがある。冬メニューにはおしるこなどといった温かいもの、夏メニューにはかき氷など冷たいものが並ぶ。かき氷にはランダムに和菓子が埋め込まれていて、まるで宝探しをするかのように食べ進めることができる。おいしいだけではない遊び心がポイントだ。
今回は手児奈の里200円、クリームあんみつ990円と珈琲セット(お菓子付き)770円をいただいた。
お土産にも喜ばれる、名物・手児奈の里!
まず初めにいただくのは、『市川ちもと』の名物・手児奈の里だ。市川真間には“手児奈姫伝説”が言い伝えられており、この物語の主人公・手児奈姫の美しい白いもち肌をイメージして名づけられたそうだ。
目の前に手児奈の里が登場。白玉粉を原料としたふわふわの求肥の中には、所々ようかんが入っている。
驚いたのが、手児奈の里を手で持ちあげた時の、すべすべな手触りとフワトロ感である。まるでマシュマロを触っているようで、和菓子では体験したことのない感触だ。口の中に入れるとほんのりゆずの香りが広がり、甘すぎずふわっととろける。中のようかんがいいアクセントとなっていて、何個でも食べれてしまいそう。これは必食だ。
次に、通年出しているカフェメニューの中で一番のおすすめ、クリームあんみつをいただいた。
あんみつには、あんこ、バニラアイス、寒天、赤えんどう豆、あんず、パイナップル、みかん、求肥が入っている。注文の際に、あんこはこしあんか粒あんで選ぶことができる。
あんみつといえば、蜜をかけなくては始まらない。なんと『市川ちもと』ではこの蜜がかけ放題である。
清水さんは、
「普通のあんみつは、蜜が小さい器にしか入ってなくて、それだと足りないって思うでしょ。うちは昔からずっとこの形だよ」と笑いながら大きなあん蜜瓶を指し教えてくれた。
純粋に和菓子が好きで、お客さんにも喜んでほしいという気持ちが伝わってくる。もし、蜜がなくなってきても、つぎ足しできるので最後の最後まで楽しめる一品であった。
最後に珈琲セット(お菓子付き)をいただく。
メニューに“お菓子付き”とあるが、『市川ちもと』のお菓子から一つ好きなものを選ぶことができる。種類が豊富で、一つに決めるのはとても困難であったが、今回選んだのは、どらやき。『市川ちもと』の焼印入りで、あんこがたっぷりでとてもおいしい。
和菓子といえば、煎茶かもしれないが、今回はあえてコーヒーをいただくことにした。どらやきにもコーヒーはとても合うのだ。ちなみに、お団子だけは2本選べるので、次に来たときはぜひお団子をいただきたい。
地元客から愛されて70年以上続く和菓子屋
『市川ちもと』では毎月10日に通常120円のみたらし団子と、通常160円の草団子を100円で提供している。
清水さんは「年間を通して和菓子屋にはイベントがないと思っていたから、毎月10日を団子の日にしたんだ」と、得意げに教えてくれた。この日には100本の団子を買っていくお客さんまでいるそうだ。
以前は市川駅周辺にいくつかの老舗系和菓子屋さんがあったが、最近はどんどん数が減り、今では老舗のしっかりした和菓子屋さんも珍しくなりつつある。
清水さんは、「私は店を大きくしたいとは思っていない。品数を絞ってこじんまりとやっていきたい」と話したが、創業70年以上の味をこれから何十年何百年と続けてくれるとうれしい。また夏にかき氷を食べにこよう。
取材・文・撮影=関田 光