戦後すぐに創業。今も昔も働く人たちを支える魚自慢の大衆居酒屋

ヤエチカのメインアベニュー沿い案内所の隣に『やえす初藤』がある。
ヤエチカのメインアベニュー沿い案内所の隣に『やえす初藤』がある。

東京、大手町、日本橋、京橋と、JRや地下鉄の駅がひしめくこのエリアは、ハイスペックなレストランから親しみやすい店までが広範囲に渡っており、しかもジャンルの層が厚い、都内屈指の食のワンダーランドだ。

八重洲地下街(通称:ヤエチカ)は、東京駅に直結しているから発車時間にゆとりを持ってのんびり過ごせる味な店がぎっしり。そんななか、東京駅近辺で働く人々の朝食から晩酌までを支えているのが居酒屋の『やえす初藤』。忙しい人々にとっては頼れる存在だ。

入り口の横にずらりと並んだ7種ある朝食のサンプル。名付けて“初藤の朝食セブン”だ!
入り口の横にずらりと並んだ7種ある朝食のサンプル。名付けて“初藤の朝食セブン”だ!

店頭に並んでいる朝食のサンプルが実においしそう。さっそく店に入ってみた。

「現在の『やえす初藤』という店名になったのはこのヤエチカができた時からなんです」と話すのは出迎えてくれた店長の久保島亮さん。この店は、元は「大衆酒場 金楽」という店だったそう。メニューに挟んであるこの店の歴史が書かれた資料を見せてくれた。

親切に対応してくれた店長の久保島亮さん。
親切に対応してくれた店長の久保島亮さん。

現在の東京駅八重洲中央口あたりに「大衆酒場 金楽」が創業したのは昭和20年ごろ。食材を毎日、築地市場で仕入れて板前が調理し、飾らないが心のこもった旬の料理や定食を提供する店だったそうだ。地下施設建設に伴い、「金楽」は八重洲地下街に移転し『やえす初藤』として営業を始めた。

メニューファイルのトップページに添えられていた店の歴史。写真左の建物が「大衆酒場 金楽」だ。
メニューファイルのトップページに添えられていた店の歴史。写真左の建物が「大衆酒場 金楽」だ。

「店名が変わっても営業スタイルは同じですから、通算80年ほど営業していることになります。2代目の社長からよく聞くのは、大衆酒場でも小料理屋のように『できる範囲でお客さんの要望を叶える』ということ。店長としてもお客さんにやさしい店を目指しています」

木目が基調の店内。通路が広いのでキャリーバッグを持ったままでも邪魔になりにくい。
木目が基調の店内。通路が広いのでキャリーバッグを持ったままでも邪魔になりにくい。

営業時間はアイドルタイムがなく、いつでも食事ができるというのがうれしいところ。「週末は旅行や出張におでかけ、またはお帰りに寄られるお客様が多いんです。ただ、平日の朝食は近隣で働くサラリーマンの方と夜勤明けの方がメインで、週末になるにつれて旅行のキャリーバックを持ってる方が増えてくる印象ですね」と久保島さんは話す。

焼き方の好みもきいてくれる目玉焼き定食

『やえす初藤』の朝食メニューは全7種。久保島さんによれば、平日の朝食を食べに来るお客さんの3〜4割はほぼ毎日来られる常連だ。「常連さんのなかにはほとんど毎日同じ定食を食べる方がいるんです。それを従業員も把握してるので、姿が見えたらオーダーを聞かずに準備を始め、席に着いた時には料理を出しちゃうっていうこともありますね」。そこまできたらもう家族! 店がリビング状態になってますね。

大きめの豆腐と豚肉、玉ねぎがたっぷりの肉豆腐。前日から仕込んでいるからちょうど味がしみて食べ頃だ。
大きめの豆腐と豚肉、玉ねぎがたっぷりの肉豆腐。前日から仕込んでいるからちょうど味がしみて食べ頃だ。

1番人気は豚汁で次点は肉豆腐というが、入り口でサンプルを見たときから今日は目玉焼きでいくと決めていた。自宅でも作ることはあるが、好みの仕上がりに作れるのは10回中2回ほど。シンプルだけど奥が深い料理だけにプロが焼いてくれる目玉焼きに興味津々なのだ。しかも、たまご焼きと目玉焼きはオーダーが入ってから焼くというのも気に入った。厨房に入り、板前さんが作っているところを見せてもらった。

小さなフライパンに油を敷き、温まったらベーコンを2枚置く。
小さなフライパンに油を敷き、温まったらベーコンを2枚置く。
続いて卵を2個投入だ。
続いて卵を2個投入だ。

「最初は強火なんですけど、ちょっと白身のフチがフツフツとしてきたら火をごく弱火にします。1、2分焼いたら最後は火を止めてフタをして1分くらい蒸らします。これがベーシックな作り方なんですけども、お客さんによっては両面焼いてほしいとか、片目だけ固めに焼いてほしいなんてオーダーもあります。できる限り、ご要望に応じています」と、板前さんがポイントを教えてくれた。

火入れ2分、フタをして1分。調理時間はおよそ3分だが、仕上がりはどんな感じかな?
火入れ2分、フタをして1分。調理時間はおよそ3分だが、仕上がりはどんな感じかな?
自家ブレンドの塩コショウをまとった目玉焼き。かなり好みの仕上がりです!
自家ブレンドの塩コショウをまとった目玉焼き。かなり好みの仕上がりです!

朝食の忙しい時間帯でも、お客さんの好きな卵の焼き加減で仕上げてくれるなんて素晴らしい。久保島さんが配膳してくれた目玉焼き定食をいただきまーす。

目玉焼きとバッチリ目が合った。「いただきます!」とアイコンタクトをして味噌汁とご飯のふたを開けた。
目玉焼きとバッチリ目が合った。「いただきます!」とアイコンタクトをして味噌汁とご飯のふたを開けた。

目玉焼きには要望に応じてソースの用意もあるが、筆者は卓上の醤油をかけていただいた。味噌汁を一口飲んでから目玉焼きをパクリ。目玉焼きというけれど実はベーコンエッグなのがちょっとうれしい。黄身はねっとりとしたペースト状で、白身も焼きすぎずほどよくしっとりとしている。

うっすら焼き色がついたベーコン。こんなにキレイに焼き上がったのは蒸らし時間の妙。うむむ、お見事!
うっすら焼き色がついたベーコン。こんなにキレイに焼き上がったのは蒸らし時間の妙。うむむ、お見事!
黄身がペースト状になっていていちばん好きな固さの目玉焼き。ご飯は無料で大盛りにできる。
黄身がペースト状になっていていちばん好きな固さの目玉焼き。ご飯は無料で大盛りにできる。

なんとまあ、プロが焼いた目玉焼きがこんなにおいしいとは! 小さな幸せが身体中を駆け巡る。小鉢に入ったひじき煮、しば漬け、味のりも交互に食べ進めて完食。ごちそうさまでした。

昼と夜は豊洲で仕入れた魚料理と品川の朝じめモツを堪能

昼もお弁当や丼&うどんなどガッツリ食べられるメニュー構成で、新鮮な刺し身が付くメニューも用意。「昼と夜は豊洲市場で毎日仕入れる魚がメニューに登場します。モツ煮は品川の食肉市場から朝じめのホルモンを仕入れて煮込んでいるので新鮮です。人気もありますよ!」

刺し身、鰻、天ぷらを重箱に詰めたその名も大名御膳2300円が久保島さんおすすめの一品。
刺し身、鰻、天ぷらを重箱に詰めたその名も大名御膳2300円が久保島さんおすすめの一品。

夜はアラカルトが増えお酒に合うメニューが揃う。地酒や焼酎のラインナップが豊富で、しばしば希少な銘柄が入荷する。旬の料理は月に1度くらいを目安に変わっていくので、いつ来ても楽しめそうだ。

旬の料理や地酒は黒板に書かれている。
旬の料理や地酒は黒板に書かれている。

朝、昼、夜それぞれ違った顔をもつ『やえす初藤』。筆者は仕事柄、モーニングやランチタイムを逃し、お腹を鳴らしながら青ざめることがしばしばあるので、いつでも温かい食事が食べられるこんな店は貴重な存在だ。

住所:東京都中央区八重洲2-1 八重洲地下街北1号/営業時間:7:00〜11:00、11:00〜15:00、15:00〜22:00(金・祝前日は15:00〜22:30、土・日・祝1は5:00〜21:30)/定休日:無/アクセス:JR・地下鉄東京駅から直結

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢