3種類のスイーツが月替わり。毎月新しい味に出合えるカフェ
『SSYET』のスイーツメニューは、常時3種類。3種類は月替わりで、その月が終わるともう二度と同じものとは出合えない。3月にはさくらのスイーツ、秋にはモンブランといった、季節のスイーツが登場するが、毎年見た目も内容も異なる。そのひと月のメニューのためだけに、プリンの型を新調することまである。
取材に訪れた2026年7月は、桃を使った「季節のスープとフォンテーヌブロー」と、ティラミスとコーヒーゼリーとビスコッティを盛り合わせたドルチェプレート、そしてとうもろこしのチーズケーキ。それぞれドリンクとセットで提供している。
3種類あるメニューのうち1つはいつも「季節のスープとフォンテーヌブロー」だ。店主の金井さんは6年間、毎月異なるアレンジでこのメニューを作り続けてきた。これまで生み出してきたバリエーションは、実に70通りを超える。
知る人ぞ知る白いデザート、フォンテーヌブロー
フォンテーヌブローとは、フランスの同名の町で生まれた、フレッシュチーズを使ったデザートのこと。『SSYET』では、クリームチーズに水切りしたヨーグルト、生クリームと少しの砂糖を混ぜて作って、注文を受けてから組み立てている。
「最初のころは、ほとんど注文されなかったんですよ」と金井さん。日本ではまだなじみが薄く、金井さんが“映え”よりも素材の味を重視しているため、写真だけではおいしさが想像しづらかったのかもしれない。
それでも金井さんは、毎月アレンジを変えながら作り続けた。「ある種の執念だったんです」と、金井さんは冗談めかして振り返る。店を開いてしばらく経ったころ、リピーターによる口コミで魅力が伝わり、今では真っ先に品切れになる看板メニューとなった。金井さん自身も「フォンテーヌブローがこんなに続くとは思わなかった」そうだ。
季節のスープとフォンテーヌブローは、白いお皿に盛り付けられている。白いフォンテーヌブローに、桃のコンポートと桃のアイス、桃のシロップを加えた白ワインのスープが添えられている。
桃の香りのスープをひと匙すくうと桃の上品な甘さが口の中に行き渡る。フォンテーヌブローはふわふわと柔らかく、口の中で滑らかに広がっていく。アイスやコンポートで甘さを感じたあとにもう一度フォンテーヌブローを食べると、酸味が引き立つように感じられた。「全部混ぜて食べてもおいしいんですよ」と金井さんのいう通り、一体となった味も楽しい。「食べ終わってしまうのが惜しい」と思ったほど、時間をかけてゆっくり味わいたい一皿だ。
居心地のいい空間で、甘すぎないスイーツを
手間を惜しまずに毎月新しいスイーツを生み出すのは「いつ来ていただいても新鮮な気持ちで、楽しんでもらいたいから」。毎月最終週に翌月のスイーツ3種類を一気に考えて、ひらめきと、完成したときの高揚感を維持したまま1カ月スイーツを準備しているそう。
レストランやバーで食べた料理や、美術館で見たアートなどをスイーツに落とし込むにはどうしたらいいかと考えるのがすっかり癖になっていると教えてくれた。ただし、そのときにノートに書き留めるようなことはなく、翌月のスイーツを紙の上にスケッチしていく時間に、心の中にあるメモが役に立っているのだとか。
金井さんは、服飾を学んでいた学生時代に洋服の販売とスープの専門店『スープストックトーキョー』でアルバイトを経験。「どちらもやってみて、飲食店にはいろいろなデザインがあるし、接客方法も飲食店の方が好きでした」と、卒業後は飲食店で働くことを選択した。のちに働いたインテリア店併設の飲食店では、フリーランスという立場で働く人たちと出会って、自分も独立したいと考えるようになったのだとか。
カフェとして独立を果たすことになったのは、金井さん自身が持っていた小さな問題意識2つが発端だ。1つは、たとえ1人で訪れてものんびり過ごせる居心地のいいカフェがあまりないと感じていたこと。もう1つは、甘いものがそれほど好きではない金井さんが甘さ控えめのスイーツを作ったら、同じような人に喜ばれるものが作れるのではないかと考えたことだ。
確かに桃の「季節のスープとフォンテーヌブロー」は、甘さよりも素材の味を生かしている。桃の味を生かしたコンポートとそのシロップは果実の甘さがあるものの、全体としてはクリーミーさや柔らかな食感や冷たさの方が口の中に幸福感をもたらしてくれる。
『SSYET』は、1人か2人組だけが入店できることになっていて、男性客も少なくない。店内が落ち着いているときは、スイーツをお供に読書を楽しむ人もいる。
また、店でゆっくり過ごしてもらうためにと、偶数月の金土のみ19時30分から行われるバー営業もしている。オードブルとメイン、そしてスイーツが提供される2時間枠は人気で、毎回あっという間に予約が埋まってしまうそうだ。月ごとに変わる金井さんのひらめきが光る一皿。次に訪れたときにどんな味に出合えるか、楽しみにしたい。
取材・文・撮影=野崎さおり






