台湾フリークもうなる絶品料理と心温まるおもてなし
JR川崎駅を東口方面に出て徒歩10分ほど。稲毛神社の近くに店を構える『台湾家庭料理 茶思味』では、本場台湾の味を楽しむことができる。多くの客がこの店に足繁く通うワケは、おいしい料理だけが目当てではない。ママさんオーナーの張子樺(ちょうしか)さん、この人の存在が大きいだろう。
張さんは日本で台湾人のご主人と結婚し、2人の子どもを育てながら、2008年に横浜市の矢向で台湾料理店を始めた。昼はボリューム満点のお値打ちランチ、夜はラインナップ豊富な本格台湾料理で評判を呼び、2011年に現在の地に移転してからも変わらぬ人気ぶりで、ビジネスパーソンからファミリーまで今なおファンを増やし続けている。
席に着くと、すぐさまポット入りのお茶が運ばれてきた。あ、この香りはジャスミン茶だ。
「暑い季節は冷たいものを、寒い季節は温かいものをお出ししています。そうすると、お客さんが喜んでくれるから」と張さん。こうしたさり気ない気遣いはうれしいものだ。
お客さんのためならなんでもやってあげたくなってしまう性分の張さん。常連客には、リクエストに応えて特別にランチのご飯をおかゆにチェンジしてあげたりもする。
夜メニューの数がものすごいのも、あれやこれやと食べたい台湾フリークのお客さんの声で、いろいろつくっていたら増えてしまったのだそう。その数、50種類以上!
「でも、もうこれ以上は無理ーってなって、これでも数を減らしたんですよ」と笑う張さん。愛嬌たっぷりに話す張さんの笑顔を見ているだけで、心がほっこりしてくる。
町の人たちに頼られ愛されるママさんオーナー
川崎に移って以来、地域の人たちと交流を深めてきた張さん。子どもが小学生だった頃から、文化センターでさまざまな国の料理を紹介するイベントに参加したり、小学校で給食づくりを手伝ったりしていたという。
「小学校の先生に『張さん、手伝ってほしいことがあるの!』とお願いされて、つい最近まで日本語が通じない中国人の子どもたちのサポートをしていました。いっしょに授業に参加して、子どものとなりの席で通訳をしていたんです」。
朝8時から店の準備を始める11時まで、毎日のようにボランティアで子どもたちを支えてきた。子どもたちの母親も張さんを頼りにしているようだ。
「日本語がまったくわからない子には、教室の外でいっしょに遊びながら日本語を教えてあげていたの。その間、うちのことは上手に手抜きしていたね(笑)」と張さん。今でも月2回、“川崎市寺子屋事業”で子どもたちの日本語の勉強をみてあげているという。
そんな心優しい張さんの温もりは、店にもあふれている。忙しいなかでも気さくに話しかけてくれて、客を気遣ってくれる張さんのファンは後を絶たないだろう。
ボリューム満点でいろんな味を楽しめる豊かなランチ
さて、待望のランチをいただくとしよう。日替わりランチは2種類、定番ランチは3種類。すべて漬物&デザート付きで1000円以下。麻婆豆腐がセットになっているお得なメニューもある。
今回は、日替わりランチのエビチリをチョイス。ひと目でエビがゴロゴロ盛られているのがわかる。
まずは主役のエビチリをパクリ……うまッ! そのお味は、ご飯がパクパクすすむマイルドな濃厚さで辛味は控えめ。いくら食べてもまだまだエビがた~っぷり。なんと幸せなことでしょう♪
続いて麻婆豆腐は、準主役とは思えぬ存在感。こちらはしっかり辛めの四川風を思わせるお味で、山椒のしびれが効いていてめちゃ旨い。ああ~、もうご飯が止まらない!
付け合わせのサラダには、細かく砕かれたピーナッツがまぶしてある。これがまた香ばしくて食感のアクセントになっていて、甘酸っぱいドレッシングとの相性抜群。
「台湾人はピーナッツが好きで、わりとなんにでもピーナッツを使うんです。ご飯やおかゆにかけて食べたりもするんですよ」と張さん。
あまりのおいしさに「このピーナッツだけ食べたい!」というお客さんもいて、揚げ落花生480円がおつまみメニューに加わった。これで紹興酒を1杯やりた~い!
ウワサ通り、どれもこれもおいしくて大満足♪ 「これが台湾ならではのお味ですか?」とたずねると、「う~ん、コックさんの味かな」と張さん。厨房に立つ張さんのご主人ならではの味付けだという。
「よく『これぞ本場の味ですね』って言わるけど、自分が好きでおいしいと思える料理が私にとっての故郷の味、台湾料理なんです」。
台湾を訪れたことがない筆者は、『茶思味』の料理で“本場の味”を味わうことができて果報者だなあと、しみじみ思った。今度は夜メニューで張さんの“故郷の味”を紹興酒とともに楽しみたい。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=コバヤシヒロミ