鹿児島特有の麦味噌が香る甘めのとん汁
店主の丸山正一さんの故郷も鹿児島。店名に冠されたとん汁も、鹿児島特有の麦味噌だ。「生まれはどこですか? 東北の人には、この味噌汁は甘いみたいですよ」と丸山さん。なるほど甘めの白味噌だが、発酵食品特有の香りと旨みが口の中に広がり滋味深い。定食のとん汁には、素揚げしたピーマンとナス、かぼちゃの薄切りが乗り、まるでスープカレーのような見た目。全てのメニューには、お椀サイズのとん汁がつくが、とん汁(大)を注文すれば、この丼サイズのとん汁が楽しめる。揚げ野菜の下にも、にんじん、大根、ごぼうと具沢山。豚肉も甘味が強く、塩味は控えめ。軽めのランチなら、このとん汁とご飯、サラダだけでも十分満たされる。
とんかつの名店「とんかつ檍」の新業態店
丸山さんは、2010年に蒲田で「とんかつ檍」を立ち上げ、現在は全国で10数店舗を展開させるに至っている。蒲田でとんかつと言えば、必ず名前が上がる名店になった。味の決め手はなんといっても ブランド牛・林SPFポークの底力。脂身の甘みと肉の柔らかさが抜群で、とんかつでは、そのSPFポークの持ち味を最大限に生かした揚げ方をしているそう。『とん汁と玄米の店 檍食堂』のとん汁の肉もしょうが焼きも、このSPFポークだ。
この『檍食堂』は、2022年8月末に丸山さんが満を時してオープンさせた食堂だ。
「『とんかつ檍』では12年やっていました。林SPFポークは『とんかつ檍』開業当時、もう2010年頃に出合った豚で、本当に脂の甘みが強いんですよ。うちの豚肉は全て林SPFポークです。メンチカツも林SPFポークで、ひき肉から作っています。玄米を出したのは最近の健康志向から。女性客には好評ですよ(笑)」
カキフライの牡蠣は調理用牡蠣の最高峰、三陸赤崎産
カキフライの牡蠣も驚くほど肉厚で、ふっくらと柔らかい。特有の磯臭さも全くなく、牡蠣の概念をくつがえすようなおいしさだ。衣もサクサクで箸が止まらなくなる。
「生食でおいしい牡蠣は他にもありますが、牡蠣フライにするには三陸、赤崎産の牡蠣が一番」と丸山さん。他にもササミカツ定食の鶏肉は薩摩の純然鶏、とん汁は鹿児島産の無添加麦味噌を使っている。「鹿児島の生まれですからね、鹿児島の食材を使いたいんですよ」。
地元愛の強さにがぜん、檍(あおき)という場所が気になってくる……。
玄米は岩手県産の無添加玄米、白米は宮城県産のつや姫、玉子は茨城の奥久慈産と、とにかく日本各地から食材を厳選して使っている。つけわせのサラダまでが力強い。全てが主役級の食材ぞろいだ。米は一度に大量に炊くので、さらにおいしくいただける。
営業時間は15時まで。ランチで勝負をかける
店の営業時間は11時から15時までと、遅めのランチまで。夜は営業していない。ランチに特化した店なのだ。開店当時は目立たない路地にあることから知られていなかったが、今では行列のできる人気店になった。カウンター6席、テーブル席4席と小さい店は、すぐに満席になるが、その分回転も早い。入り口のドアや窓はガラス張りなので、中の様子もうかがえる。女性ひとりでも入りやすい店づくりだ。寒くなる季節には、とん汁と炊き立ての玄米で温まりたい。
取材・⽂・撮影=新井鏡子 構成=アド・グリーン