とんかつ激戦区・蒲田を代表する「とんかつの概念を変えるとんかつ」
「うちの社長の言葉を借りると『とんかつの概念を変えるとんかつを作る』というのがこの店のテーマだったんです」――『とんかつ檍(あおき)』の店長を務める元良勇太さんは胸を張ってこう答えてくれた。
今や「とんかつ激戦区」として知られる街になった蒲田。駅の周辺からとんかつ屋さんが多く軒を連ね、どこに入ろうかと目移りするほど。その中でも『とんかつ檍』は蒲田のとんかつ御三家と称されるほど。今では地元だけでなく、遠方からわざわざやってくるお客さんも多いのだとか。
蒲田駅から歩いて4分ほどのところにある『とんかつ檍』。区役所本通りから1本外れたところにある小路へ入っていったところにあり、初めてだと気付かないかもしれないが……この店自慢のロースかつを求めて、ランチタイムには行列ができるほどの盛況ぶりになるという。
「もともとは丸一さんというお店が蒲田のとんかつ屋では人気が高かったんですよ。うちも蒲田でお店を出すことになったんですが、最初はなかなかお客さんが来なかったりしましたけど、当時は休まずに営業していたこともあって、他のお店がお休みの時にうちに来てくれたお客さんがそのまま根付いてくれて、だんだん繁盛するようになったんです」
店のテーマとして掲げていた「とんかつの概念を変えるとんかつ」が、蒲田の人たちに受け入れられていったことで、『とんかつ檍』が蒲田のとんかつの名店となっていったのは間違いないだろう。
ブランド豚・林SPFを最大限に生かす工夫とは
今回オーダーしたのは「ほとんどのお客さんが注文する」という上ロースかつ定食1500円。注文すると奥から出てきたのは千葉が誇るブランド豚の林SPF。分厚く切られたロース肉に打ち粉と呼ばれる粉を振り、卵にくぐらせ、パン粉で覆っていく。その流れるような一連の作業は見ていてほれぼれとするくらいだ。
「林SPFというお肉は脂身の甘みと肉の柔らかさが抜群で、とんかつにするにはピッタリのお肉なんです。このお肉を生かすためにパン粉や打ち粉といったあらゆる食材を見直したんです」
例えばパン粉は通常よりも甘みのあるお店オリジナルの生パン粉を使用。実際に試食させてもらったが、通常の食パンよりもふんわりと甘い味わいが口に残った。そして揚げる工程でも一工夫があった。
「だいたい中温の油で揚げるんですが、時間としては10分ほど費やしてじっくりと揚げて余熱で火を入れています。通常は『きつね色』って言いますけど、うちのロースかつは社長から『たぬき色に揚げて』ということでたぬき色に仕上げています」
とんかつと言えばソース……ということで、お店の特製ソースをかけようかと思ったが、ここで元良さんからおすすめの食べ方を教えてもらった。
「ソースもおいしいですが、できれば最初は塩で食べてもらえると、肉の甘みが堪能できると思います」
元良さんのお話を受けて、3種類の塩をそれぞれ小皿に出して、ロースかつを食べたが……脂身の甘みと肉の柔らかさがシンプルな塩味によって引き立ち、思わず笑みがこぼれるほど。ひと口食べれば、林SPFがとんかつにピッタリ合う豚肉だということがよくわかることだろう。
『とんかつ檍』のロースかつでとんかつのイメージが180度変わる!?
ブランド豚である林SPFを最大限に生かすためにパン粉などの素材をすべて見直し、さらにとんかつには欠かせないご飯も味噌汁もとんかつに最も合うものをセレクトしたという『とんかつ檍』の上ロースかつ定食。この味を求めて、毎週のようにやってくる常連客はもちろん、中には週5でやってくるというヘビーユーザーもいるほどだ。
「『とんかつの概念を変えるとんかつ』というのがテーマでやってきましたが、それがこの街のお客さんたちに受け入れられたのが何よりうれしいです。他のお店ではなかなか食べられないとんかつだと思うので、蒲田に来られた時はぜひうちのお店に来てもらえると嬉しいです」
細部にまでこだわり抜いたことで生まれる『とんかつ檍』の上ロースかつ定食。一度食べればとんかつのイメージが変わるのは間違いないだろう。
構成=フリート 取材・文・撮影=福嶌 弘