巨匠・前川國男設計の建物
『東京都美術館』は大正15年(1926)に開館した日本初の公立美術館で、JR上野駅公園改札から徒歩7分の距離にある。日本のモダニズム建築の巨匠・前川國男による設計。2012年に、前川が設計した建物の躯体をほぼ残しつつ、ユニバーサルデザインを採り入れ、レストランやショップなども充実させる大規模改修を実施しリニューアルオープンした。
建物は中庭を囲むように、東側に企画棟、西側に公募棟、北側に中央棟が立っている。すべての人に開かれた「アートへの入口」となることを目指しており、国内外の名作を紹介する特別展や多彩な企画展、美術団体による公募展など、年間を通して多彩な展覧会を開催。敷地内には彫刻等の立体作品が展示されている。
レストランは美術館の中でも景観の良い場所に
今回紹介する『RESTAURANT MUSE』は中央棟2階に位置する。建築家・前川國男は「美術館に来ておいしいものが食べられないなんてあり得ない」と話すほどの美食家で、レストランは景観の良い場所が選ばれた。平成のリニューアルオープンでもその意志は継承されたようで、中央棟1階から2階へ場所を移し、北側と南側の壁は全面ガラス張りになっている。北側は上野公園の樹木が、南側は美術館のエスプラナード(中央広場・連絡通路など)が眺められる。
『東京都美術館』には『cafe Art』『RESTAURANT MUSE』『RESTAURANT salon(レストラン サロン)』と合計3店舗のカフェ、レストランがあり、それぞれ西洋料理の老舗『上野精養軒』が運営している。
「『cafe Art』はセルフサービス式の気軽なカフェ、『RESTAURANT MUSE』 はカジュアルなレストラン、『RESTAURANT salon』は本格フレンチダイニングと趣向を替えています。『RESTAURANT MUSE』は家族でも楽しめるように、多彩なメニューを揃えているのが特徴です」とは統括支配人の佐藤英幸さん。メニューを見れば一目瞭然で、ハンバーグ、ビーフステーキ、ポークヒレカツ、シーフードグラタンなどの洋食から、紅鮭海苔弁当、海老天重などの和食、天ぷらそばやナポリタンなどの麺類、キッズメニューまで揃えている。
おうっ! と歓声がもれた大人のお子様ランチ
どの料理もおいしそうで迷ってしまうが、そんな時はミューズプレートがおすすめだ。キャッチフレーズは“大人のお子様ランチ風”とあり、看板料理が一堂に会している。
右側のオムライスはハム、野菜と一緒に炒めたケチャップライスに、オムレツをのせてある。ソースのビーフシチューは店内の厨房で牛バラ肉を4〜5時間じっくり煮込んだもの。スッと噛み切れる大きな牛肉に丁寧な仕事ぶりが感じられた。
左側にはグラタンとフライ。グラタンのホワイトソースも厨房で作り、具材にチキンとマカロニを使っていた。フライは海老フライとヒレかつの2種類で、それぞれ生パン粉を使うため、サクッとした衣の食感も楽しめた。
定番メニューに加えて、特別展コラボメニューもある。こちらは料理長の鈴木宙生(みちお)さんが特別展のタイトルや内容、メインの展示作品などから、アイデアを膨らませてメニューを作り込んでいく。
「2022年に開催された『ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』では、2021年に修復が完了したフェルメールの《窓辺で手紙を読む女》が展示されました。女性の背後の壁面にキューピッドの画中画が塗り潰されていたことが判明して話題になった作品です。特別展コラボメニューではメイン料理のソースに手紙の文字を、キューピッドをイメージしたハートを2尾の海老で表現したことを覚えています」
機会があれば、特別展コラボメニューを味わい、料理長のメッセージを読み解くのもおもしろいかもしれない。
人気パフェにのったシュークリームの意味は……
料理長・鈴木さんのユーモアはデザートにも生かされている。人気のミューズパフェを見ると、一番上には丸いシュークリームが2個のっている。まさか……。「はい、『東京都美術館』の正門を入ると、ひときわ目を引く球体の作品をイメージしました」と鈴木さんは大笑い。
パフェグラスの中は、一番下からゼリー、ベリーソース、生クリーム、フルーツカクテル(数種類のカットフルーツをシロップに浸けたもの)を重ねてある。さらにカシスシャーベット、バニラアイス、季節のフルーツ(メロン、オレンジ、イチゴなど)、シュークリームがのっている。フルーツが多く、甘党でなくてもペロリと完食できそうだ。
チーズケーキ、キャラメルナッツケーキ、抹茶のモンブランなどはアイスが添えてあり、すべてのデザートはドリンクセット(ワンドリンク150円引き)にできる。
大人のお子様ランチであるミューズプレートを味わい、フルーツたっぷりのミューズパフェで最後を飾る。プチパーティーのようで愉快な気分になれるひとときだった。
取材・文・撮影=内田 晃 構成=アド・グリーン