そんな私たちも、加入してからなんともう4年の月日が経っていました……!
いや、詳しく言うと、3助さんが年会費を滞納して出られなかった8ヶ月があるので正確な活動期間はもっと短いのですが、でもそれくらい漫才協会にいてみて、私なりに素敵だなと思うことがたくさんあります。

今回はそんな私視点の漫才協会のオススメポイントと、漫才を楽しんだ後にぜひ行ってほしいスポットをご紹介したいと思います。おー! そんなことをして、本当に足を運んでもらえたらすごくうれしいですし、漫才協会からお礼のインセンティブとかもらいたいですね!

浅草寺に……人力車に……お団子にお芋スイーツ……。
強者揃いの大観光エリア浅草で、漫才協会という選択肢がデッドヒートするようがんばって書きますので、なぜかみなさんもがんばって読んでください! なぜか! よろしくお願いします!

浅草『東洋館』。漫才協会の人間味が、人生を楽観的にしてくれる

「漫才協会って、つまり何をしているの?」

私は気が利くので、そう思う人がいると先読みして説明しておきます。漫才協会は、浅草にある劇場『東洋館』で芸人が一日中ネタをする「漫才大行進」と銘打った興行をするなどの活動をしています。

お客さんは、老若男女……その世代は多岐に渡っているので、あなたも、あなたの甥も、あなたの知り合いの嫁でも誰でも入りやすい劇場です。「そんなにお笑いに詳しくないよ……」という方も大丈夫です。今突然ネタのことをジャガイモ料理で例えますが、『東洋館』では、ジャガイモに花を刺して油を垂らした前衛じゃがバタみたいな難しい料理はほとんど出てきません。フライドポテトとかカレーになって出てきます。家族の話から、結婚に離婚、ケンカに金……どのお客さんも食べられる話題が多いイメージです。
私の憧れであるビートたけしさんもかつてここ(その時は「フランス座」という名前でした)で下積みをしたと言われていますが、当時を振り返った自伝で「漫才では飯や家族の話をした」と書いていました。ここに立っていると、改めて演芸はお客さんの共感の上に成り立っているんだと原点を感じます。

そうして、そんなネタをシンプルに楽しんでもらいたいと思うと共に、お客さんにもっと楽観的に、いや、もっと大きく見てもらうのも楽しいのではないかと思うのです。

この前、私たちの出番が終わり袖にはけると、いつものように次の出番の出囃子が流れました。しかし、次の春風ふくた師匠は全く舞台に出て行こうとしません。「出番ですよ」と声を掛けると「いや、もう少し……もう少し粘ろう……」と、尺を1秒でも削ろうとしていました。この芸歴の師匠でもそういう気持ちってあるんだ……とその人間らしさが「良いなあ……」と染みました。師匠たちは、それが日常だと言わんばかりに毎日のように舞台に立って、良い日もあればいろんな日があって、結婚してもネタにして、離婚してもネタにして、もうこれって人生そのものを見させていただいてるんじゃないかと思ったりします。

他にも、出番尺が10分のところを2分で帰ってきた師匠に「何してるんですか!」と言いながら、みんなが自分のネタ時間を少しずつ増やしてタイムスケジュールを元に戻す日もあったりします。みんな人間すぎて、それも面白いと思うのです。

なので「なんかちょっと出囃子が長いな」と思ったら、袖で師匠が出るのを渋ってるんだなと思ってみたり……「あの師匠、ネタ短すぎないか?」と思ったらそのあとの芸人の慌てようを楽しんでみたり……。それも含めて漫才協会の良さだと包んでほしいのです。

ちょっと大きくというか、お客さんに委ねすぎた楽しみ方だったかもしれません。でもいろんなエンタメがあふれている中で、漫才協会の人間味が、少し人生を楽観的にしてくれたり、笑顔にしてくれることだってあると思うのです。

師匠方が長年通う定食屋さんと、レトロな喫茶店

じゃあ、ご飯の話をします。

漫才協会の芸人に「なんか漫才協会だなあってご飯屋さんありますか?」という、大きくてぼんやりとした球を投げたとき、必ずと言っていいほど返ってくるのが『水口食堂』です。ある芸人からは「浅草もオシャレな店が増えたから、逆に言えば、師匠方はもうそこしか入れる店がない」と極論まで言っていました。確かにそういう師匠が長年通っていそうな「ザ」と冠詞につけたい佇まいの定食屋です。

ここは「いり豚」がオススメとよく聞きます。いり豚は、豚と玉ねぎをカレー風味に炒めたものです。これもめちゃくちゃおいしいのですが、以前食べたとき「ということは、ここの生姜焼きとんでもなくおいしいのでは……?」という思考回路になりました。サッカー部の足が速い子を陸上部にも誘いたくなる気持ちです。なので今回はそんな念願の生姜焼きを食べてみます。

ジャーン! こちらが生姜焼き定食です。

こうして、メインのお総菜にご飯、味噌汁、漬物とついた一汁何菜みたいな定食と向き合うと、自分の体が良い方向へと向かっていくような正しいことをしている気分になりますよね。

生姜焼きは、もう……狙い通りすぎました……!
自分が世俗を捨てていたら、立ち上がり天を仰いでアッハッハッハ!と高笑いしているところでした。すごくおいしかったと同時に、自分がまだこの世界を諦めていないことも知れました。『水口食堂』の生姜焼きは、おいしさがデカイ!という感じです。生姜焼きのストロングポイントである豚の脂身のうまさ……! タレの濃さ…! おいしい部分が強くてご飯が進みます。

そして、私が『水口食堂』の「夢みたいだ……!」と思うポイントがほぼ全てのメニューに「単品料金」と「定食料金」が書かれているところです。それってつまり、単品で頼んで、お酒なんかも頼んじゃったら、このうまい生姜焼きをつまみに宴を開かせていただけるってことなのです。ミックスフライやナポリタンも頼もうかな……。まだしたことがないのですが、そんな宴会が開けたら粋すぎます。なんか「ここの和紙が良い」とか「もう来年の書き初めで書くことを決めてる」とか……。ちょっとすみません。それが私の思うMAXの粋な話なんですけど、ここで飲むならそういう話ができるようになっていたいです。

 

浅草の喫茶店も気になる……!という方には、『ローヤル珈琲店』もオススメです。

私はここの店内の雰囲気がすごく好きです。昭和の頃に憧れたモダンという感じで、ガラスケースにしまっておきたいほどで「ここで食事させていただいて大丈夫なんですか……?」と思ってしまいます。シャンデリアの白い電球が奥一面の鏡に反射してすごく明るいんですけど、でもその明るさで背筋がシャンとするいうか……! 今とにかく店内がすごく良いということを伝えている時間です!

そして、ここのコンビーフチーズのホットサンドは、もうカリカリカリカリです……!
カリカリすぎます……! おいしすぎます……! なんかこれをホットにサンドしてる道具、たぶん電化製品ではないと踏んでいます。すごくドッシリとした重さのある鉄の板でサンドされてると思います。「だてに挟んでないぜ……」と、なぜかやれやれという気分になってしまうほどです。

サンドされてる側も、もちろん最高です。
コンビーフの肉肉しさとしょっぱさ、チーズは今日本の景気ってめちゃくちゃ良かったんだと思う量入っていて、さらにアスパラまでいてくれてるんですが、このシャキシャキさの食感と全ての具材の味のバランスが良すぎて「この店に……ホットサンドに人生を賭けた人がいたんだ……」と感動するほどです。あの、本当にいたかどうかは知らないんですが、私は勝手にそうジーンとくるほどおいしかったです。

浅草駅から徒歩約5分。観光客の溢れる仲見世商店街やオレンジ通りを横切ると、居酒屋が連なるホッピー通りの手前に、昔懐かしい店構えの『ローヤル珈琲店』が見えてくる。年中無休で朝8時から開いているとあって、店内は午前中からモーニング目当ての常連さんでにぎわっている。

師匠方が入れないだろう、新しくておしゃれなお店もあります

浅草には、そんな昔ながらの素敵なお店がたくさんあります。
でも先述のように本当に師匠方には入れないだろうな……という新しくておしゃれなお店もたくさんあります。

そして最近『ペチカスケマサコーヒー』というお店のアップルボムというケーキを食べたとき「え……? 漫才協会ってそういうことだったのか……!」となぜか気付きを得ました。アップルボムの、リンゴのソースは甘く香りも良くて、口に運ぶと名前のボムの如く弾けて広がります。その甘さをハモリでバランスを取るかのようにキャラメルのほろ苦さが完璧に支えます。上に乗ったパイ生地もサクサクとしていて……えっ……?

「これ……アップルパイを再構築しているのか……⁉」

なんということでしょう……。
このケーキ、アップルパイの要素である、りんごのおいしさとパイのサクサクさを今までと違ったアプローチで組み合わせることによって、新しいアップルパイとして再構築していたのです……! たぶん……!

そういうことか……。そういうことだったんです……。
漫才協会には、80歳になっても現役で漫才をする師匠などその道を守り続けている芸人がたくさんいます。そこへ最近、漫才協会と名につく舞台で漫才をせずに縄跳びをする私や、大道芸、手品、コウメ太夫さんなど、新参者がたくさんやってきました。

きっと、大きな変化ではあります。でも、漫才協会ことアップルパイの持っていた素敵な要素さえずっとあれば……それを私たちも持って舞台に立っていれば……! そうすれば時代が変わっても、形が変わっても、お客さんにずっと喜んでもらえるはずです。なぜかアップルボムが漫才協会にそんなメッセージを発信してくれていました……。なんでそこまで肩入れしてくれているのかは分からないのですが、受信できて良かったです……!

どうでしょうか……! 漫才協会から、粋な定食屋さんにおしゃれなカフェ……!
これを読んでくれた方の心の中に「こんな一日を過ごしてみるのも楽しいかも!」という気持ちが芽生えたら、そのつぼみが枯れないうちにぜひジョウロ片手に漫才協会まで足を運んでみてください!

そして! 漫才協会はなんと、2024年の春にナイツ・塙さんの初監督で「漫才協会 THE MOVIE」と映画にもなります! すごいですよね!

さらに! うれしいお知らせなのですが!
なんとこのエッセイも全4回のはずが、8回に伸び……今回がその8回目で思い残さぬようにと漫才協会のことを書いたのですが、なんと12回まで延長になりました! 12回まで延長って野球だったら何とも言えませんが、エッセイの連載なのでうれしいです! 読んでくださった方ありがとうございます! それでは名誉な9回目、または漫才協会でお会いましょう!

文=アンゴラ村長(にゃんこスター)

高校時代にコンビを結成。ともに桜美林大学に進学し、13年間、町田で暮らしたU字工事。街工場のアルバイトに草野球、漫才も恋も育んだホームタウンが町田だ。今回は、この街らしく古着屋でU字工事の衣装風にスタイリング。町田を代表するジャズ喫茶を訪れた後、思い出の場所を巡ってもらった。※『散歩の達人』2020年12月号掲載のインタビューに、載せきれなかったエピソードと写真を追加しました!
芸人と俳優業で今、また新たなファンを獲得している奇才、コウメ太夫。「丸だと思って見ていたら三角でした」など“哲学的”チクショー芸が生まれたのも、ここ荻窪なのだ。その知られざる幼少期から、現在も母と子と暮らす日々を語る。
古き良き街並みが残る浅草は、下町グルメの激戦区。新旧店舗がひしめくこのエリアでは和洋中からファストフードまでよりどりみどりだが、とっておきの一品をたのしむなら、リピーターの多い人気店がおすすめだ。浅草で長い間愛されてきたグルメから新鋭のハンバーガー店までおすすめの16店を紹介します!