池上線 - 西島三重子
鉄道関連の昭和の名曲といえば『私鉄沿線』(野口五郎)かこの曲だろうか。切ない恋の舞台になった、昭和の鉄道や街のうら寂しさが心に染みる楽曲で、「古い電車」「すきま風に震えて」などの歌詞が原因で、発売当時は東急にプロモーション協力を断られた……という逸話も納得。なお舞台となった駅は池上駅で、歌詞に出てくるフルーツショップは現在はケンタッキー・フライド・チキンになっているそう。
路面電車 - クレイジーケンバンド
この曲の舞台となるのは、かつて市電が走り、「電車通り」とも呼ばれた横浜の本牧通り。青い海の底に眠る線路を、米軍基地の街を、天の川も三途の川も越えて、ガタンゴトン ガタンゴトンと進む路面電車……。本牧育ち・本牧在住の剣さんならではのノスタルジックでお茶目でお洒落な鉄道ソングだ。
雨のステイション - 松任谷由実
ユーミンが深夜までディスコで踊り、朝4時頃に帰宅するような「ヒップしていた頃」を歌った曲で、当時の西立川駅がモデル。霧雨に濡れるアスファルト。雨を照らす信号の光で、町は赤に染まり、青に染まる……というグルーミーな情景が沁みる曲だ。なお現在は西立川駅の駅メロになっており、駅前には歌碑もある。
春の電車 - 曽我部恵一
2011年に急逝したフォークシンガー・加地等のカバー。うららかな陽気につつまれた春の電車。まばらに座った乗客は、みんなどこか楽しそう……というの描写が、電車で出かけた休日の楽しい記憶を呼び起こす。そんな情景に「差別なんて誰もしない 戦争なんて起こりはしない」という言葉も差し挟まれて、のどかな日々を送るには強い信念や努力も必要なんだな……とも感じたり。なお舞台は江ノ電のようだが、筆者は都電荒川線の情景を思い浮かべながら聞いている。
地下鉄の駅へと急ぐ夏 - 遠藤賢司
駅へと急ぐ自分の横を、手をつないだ母親と子供が通り過ぎる。子供が発した真っ直ぐな愛の言葉や、入道雲が浮かぶ夏の日の情景が、優しい眼差しを通して歌われる。満員電車の通勤はストレスでも、通勤途中に見かける景色や、人と人との些細なやりとりに、自分達が日々癒やされていたことを実感できる曲。
地下鉄にのって - 猫
1972年にリリースされたフォークグループ・猫の楽曲。舞台は新宿方面に向かう丸ノ内線。近くで話す「きみ」の声も聞こえないほど、当時の地下鉄は騒音がひどかったようだ。電車が四ツ谷駅で地上へと出た、その静けさのなかで話そうかと考えるも、大したことを話せず終わる。再び電車が地下へと入ると、2人の会話は車輪の悲鳴にかき消されてしまう……という、丸ノ内線という舞台装置を生かした名曲だ。
小田急 - yojikとwanda
一聴したときは曲のよさに聞き惚れる一方で、「この曲のどこが小田急なんだ?」と感じるかもしれない。が、よくよく聞き返すと、「幾多の困難」が「生田」、「向こうの丘まで」が「向ヶ丘遊園」、「沢山の喜びが見える場所」が「喜多見」と、歌詞の中に小田急線の駅名が潜んでいた……! と気づかされるすごい曲。沿線住民の方ほど気づくのが早いかも。
山手線 – NORIKIYO
相模原出身のラッパー・NORIKIYOの2018年の楽曲。人生経験を重ねたラッパーならではの視点から、「皆の傷の分の痛みを乗せて 過積載でも走る」「行き場を無くしたこんな愛と 優しさにも似た痛みも 全部乗せ回る」といった歌詞で山手線が描かれる。辛い通勤と満員電車の象徴のように扱われる路線にも、自らの立場を重ね合わせて、想像力を巡らせる。こんな姿勢で今の世の中を走る鉄道のことも見られたら……と感じる曲。
ホームタウン急行 - サーカス
テレビ朝日系ドラマ『鉄道公安官』(1979~80年)のオープニング、エンディングテーマに使われたことで、鉄道ソングの代名詞として長く親しまれてきた曲。サーカスらしいウキウキ感に溢れたコーラスと、「めざめれば ふるさとの町」「めざめれば 彼の腕の中」という昭和を感じるメロドラマに明るい気持ちになるはずだ。
汽車が田舎を通るそのとき - 高田渡
高田渡が20歳の時にリリースした初の単独アルバムの表題曲。10年ぶりに走る汽車。「八つという切符」を買ったのはずいぶん昔で、いま買ったのは「二十歳という切符」。日常の情景を歌うようなのどかさと温かさで、内面世界のふるさとが、人生が歌われる。「電車に乗って田舎に帰るときって、こんな気分になるよな……」としみじみ。GWにオンライン帰省もできない方は、この曲で心だけでも田舎へ帰りましょう。
散歩気分を味わいたいときは……
文=古澤誠一郎