革小物製品製造メーカーがカフェを始めたワケ
『axisss tokyo』を運営する会社は、もともと他社ブランドの革小物製品を製造するメーカー企業だったが、コロナ禍をきっかけに自社ブランドの立ち上げに踏み切った。自社ブランド製品を取扱う店舗を構えるにあたり「あらゆる世代の方に革小物を身近に感じてもらい、気軽に足を運んでもらえるように」という思いから、カフェを併設するに至ったのだそう。
会社のある押上からほど近く、そしてエリアの特性上皮革製品を取扱う店やそれらを製造するための材料問屋も多く立ち並んでいることから、会社にとって蔵前は以前からなじみ深い街だったという。
そこにもともとは民家だった物件を見つけ、リノベーションし現在の店の形になった。開放感がありおしゃれながらもユーモアの感じられるインテリアがセンスよく飾られている店内には、ついつい長居してしまいそうな居心地の良さがある。
スペシャルなドーナツに止まらない舌鼓
席で待っていると、ドーナツたちがカゴに入って運ばれてきた。ピクニックのようでとてもかわいらしい。食べる前からワクワクする。
この日はソルトバターと10月のマンスリードーナツであるパンプキン480円をいただいた。
ひと口目から、口の中が感動に包まれた。こんなドーナツを食べたことがない。見た目がかわいらしいのもあってか甘味の強いドーナツを勝手に想像してしまっていたが、素材が持つそのままの純粋な甘味だけが舌に伝わってきて、心と身体がじんわりほぐれていく。
ジェラートは鎌倉『SANTi』のもの。堀さんが自ら店舗まで試食に出向き審美眼にかなったものを直接仕入れている。
店にはバリスタが常駐しており、本格的なコーヒーも楽しめる。
「僕自身がドーナツを『1個食べ切れるかな……』という年齢になってきたので、砂糖はきび砂糖を使ったり、揚げ油は米油にしたりと、添加物を使わずに素材そのままのおいしさを最後まで味わえるよう工夫を凝らしています。」と店長の堀さんが笑いを交えながら教えてくれた。
本当にその通りで、2個食べた後も胃に全くもたれず、むしろドーナツを食べたことで清々しい活力を得られた気分だった。
『axisss tokyo』のドーナツは、高品質で洗練されている。しかしそこには、どこか心がほっこりするような親しみやすさも隠れている。その唯一無二の味わいには製品づくりと長年向き合ってきた真摯な姿勢が表れていた。
世代も性別も人種も関係なく、すべての人に開かれた空間を
『axisss tokyo』の魅力は、ドーナツだけには留まらず、その入りやすさにもある。
店の目の前が保育園とあって、ベビーカーの子連れ客が多く来店する。キッズドリンクメニューもあるのがうれしい。ガレージ席ではワンちゃん連れも気軽に入店できる。
「私たちは1997年の創業から25年以上B to Bを中心に仕事を行ってきたので、『axisss tokyo』を開業したことにより一般消費者の方と直接コミュニケーションを取れるようになり、喜びを感じています。ぜひお店に来たそれぞれのお客様にも、人対人の出会いの喜びを感じて欲しい。ここを軸につながりの輪が広がっていくような場所づくりをしたいという思いが『axisss tokyo』という店名の由来でもあります。これからも、世代、性別、人種関係なく、みんなが楽しめるお店でありたいですね」と堀さんは語る。
こんな風に誰のことも置いてけぼりにしないお店がこれからもたくさん増えればいいな。
ぜひとも次の休日には、『axisss tokyo』に足を運んでみてほしい。
取材・文・撮影=北口美愛