お話を聞いたのは……
左……ライスセンター金子 代表の金子宏さん
右……米農家の江島守さん
河越米に捧ぐマイライフ。逆境ほど頭(こうべ)を垂れない米屋魂
ずっしりと重い。撮影のため河越米30㎏の米袋を移動させようとしても、なかなか持ち上げられないのだ。
「手伝いで、少年時代から親父と一緒にお米を集めに行っていたけど、昔の農家さんは一袋・二袋、平気で持ち上げていましたよ」とは、1959年創業のライスセンター金子の2代目・金子宏さん。自身も、昔空手で鍛えた体は筋骨隆々だ。しかし米農家は高齢化が進み、そんな腕力を持つ人は減ってしまった。跡継ぎ問題も目の当たりにした金子さんが、なんとか現状打破を、と打った第一手が『小江戸市場カネヒロ』の開店だ。
「開店は2008年。ここ古谷地区は川越で一番水田が多く、大量に買い付けするのにもってこいの場所なのです。ここで精米したてのものを売れば、お客さんへ川越のお米のうまさを直接伝えられるし、農家さんとも密に連絡がとれますから」
いつか川越から海越えの夢が実る日も
地元米の消費を活発化させたい金子さんの次の一手が、2015年からブランディングを始めた“河越米”だ。川越とその周辺農家から買い取ったコシヒカリや五百川という早生(わせ)品種を、農産物検査員の資格を持つ金子さんが検査。そのなかで「粒が揃っていて、高温障害などの被害米がない一等米だけを、河越米として販売する」そう。
河越米を栽培する農家の江島守さんいわく「もちもちで甘みがあり、後味がさっぱり。この米を食べたら、ほかの米は食べられません!」
河越米を扱う飲食店が川越で徐々に増えるなか、コロナ禍という逆風が。卸先が減るなか、それでも金子さんは農家からお米を買い続けた。当然、倉庫には米が売れ残った。
「先代からの付き合いもあるし、農家さんと米屋は信頼関係が一番大事。買わない選択肢はなかったです」
コロナ禍真っ最中の2021年には、さらに攻め手に出た。お客さまへダイレクトに河越米の魅力を伝えようと、『カネヒロ』の敷地内でキッチンカーを開始。金子さんいわく「衝動買いしたアメリカのスクールバスを改造しました。河越米を使ったカレーやチャーシュー弁当など、絶品ですよ」
お米ヒーローの快進撃は止まらず、近年は自分たちで米作りもスタート。「水田の近くで農家レストランもやりたいし、河越米で日本酒を造り海外に進出したい!」と豪快に夢を語る。注いだエネルギーが実り、豊穣の時を迎える季節が、きっと来るはず。
小江戸市場カネヒロ(ライスセンター金子)
JR川越線南古谷駅から徒歩17分。7:00~20:00頃、無休(キッチンカーは12:00~14:00頃・17:00~19:00頃、土・日・祝休)。埼玉県川越市大中居467-1 ☎049-230-4153
取材・文・撮影=鈴木健太
『散歩の達人』2023年10月号より