新鮮でボリュームのある北海道の幸を提供
駅前のビルとビルの間の路地に“鮮魚特売”と書かれた赤いのぼりが目に入った。鮮魚店なのかと思いきや看板には『北のキッチン&バー らがん』と書いてある。店頭には冷蔵ケースや発泡スチロールが並んでいて、新鮮な魚介類が自慢の店だとわかる。
新鮮な海の幸が入っているのかな……と冷蔵ケースをのぞいたら写真だったので、店内に入り目と舌で鮮度を確かめてみたくなった。
店に入ると店主の笠井契さんが「いらっしゃいませー!」と元気にあいさつをしてくれた。
見渡すとアールがかった天井や、大きなおかめのお面、手書きのPOPにあるレアなメニューなど、いろいろ気になる! まずはこの店の歴史から聞いてみた。
「もともと私たちは北海道に住んでいて、親父が飲食店や学習塾と、幅広く事業をやっていたんですけど、バブルが弾けたのをきっかけに、家族みんなで東京に出てきたんです。でも、親父は人に使われるのはあまり好きではないタイプなので、小さくてもいいから自分のお店を開こうって、ここの斜向かいの場所で10坪ぐらいのお店を始めました」。
笠井さんの父・信一さんが、北海道のおいしいものが食べられる店を開いたのは1993年のこと。持ち前の商才で店の売上は急上昇。近隣に2店舗目を出し、2002年には今の場所に3店舗目をオープンした。
「ここは2階もあって十分広かったので2つの店を閉め、ここに集約しました。おそらく1970年代に建てられた物件で、天井の感じとか、トイレにシャワーヘッドがあったりして当時から不思議な物件でした。でもなるべく内装にお金をかけず、その分おいしい素材を提供してお客様に還元しようというコンセプトでやってきました」と笠井さん。店の前に出ていた看板は以前の店のものだそう。
ここでしか食べられない本物志向の北海道メニュー
ランチタイムは新鮮でボリュームのある北海道の幸を目指してサラリーマンたちがやってくるという。
テーブルにも大きく見やすいメニューがあるのだけど、立ち上がって壁にかかったメニューを美術館の絵画を見るかようにひとつずつ眺めたくなる。
カツゲンやハスカップのサワーや「物産展に行かないと食べられない」ものを季節に合わせて定期的に仕入れている。取材当日はタコの頭の刺し身がオススメになっていた。「日替わりのおすすめがあるんですけど、地元ではおなじみのハッカクっていう魚やホッケがお刺し身で食べられたり、美瑛から届いたアスパラがあったり。全部うまいっすよ」。
産直のものもあれば、直接漁師さんから仕入れたり、仲買さん、水産会社もあれば豊洲市場に仕入れに行くこともある。近年は北海道産のものがブランド化され、海外でも人気が高まっているほか、物価高騰に伴い良質な素材を安価で仕入れるのはかなり難しくなっているそうだが、「道産の食材にはこだわりたい」と笠井さん。
「正直、利益を出すのはかなり厳しいです。でも、僕らは北海道産のものの絶対的なおいしさを知っているし、上京している道民の方が懐かしがるような地元の家庭の味つけも意識してメニューを提供しています。道民はもちろんですけど、それ以外の方にも本物の北海道の味を楽しんでもらえたらいいですね」。
また、道外ではなかなかお目にかかれない一品もこの店では味わえる。「たとえば日本酒の『北の勝』。マタギが猟のときに飲んでたりする、辛口のいい酒なんです。地元で愛されてるんですけど、道内で十分ビジネスが成り立っているので外に出さないんですよ。『そこをなんとか!』と、口説き落としてやっと仕入れられるようになりました」。
そんな銘酒に合わせるのは、やっぱり地元の旬の幸。「冬になると登場するのは生たらこの煮付けとか、うますぎるゆえに鍋壊しという異名を持つカジカ汁。それから地元で山菜取りが好きな人に人気なのがアイヌネギ。別名ギョウジャニンニクって言うんです。ニラみたいに強烈な匂いがするんですけど、修験者が食べて精をつけていたらしいのでおすすめですよ」。
夏はウニやホタテ、アスパラガスが旬。この店で食事をしながら北海道の季節の移ろいを感じられる。
自分で選べる! 新鮮な魚介類がたっぷり乗った海鮮丼
ランチでもリアルな北海道の食体験ができるこの店。どれもボリューミーで、980円から食べられるのはお得かも。メニューは十勝豚丼、ざんぎ(唐揚げ)、具材が選べる海鮮丼や焼き魚定食、ジンギスカンとラムしゃぶもあり、どれを食べても当たりの予感がする。
せっかくだから鮮度が命の海鮮丼を食べてみることにした。丼なら短いランチタイムでもササっとたべられそうだし、選べる4色丼1280円をお願いしまーす! 好きな具材が選べるということで、マグロ、ホタテ、サーモン、カニを選んでみた。今日は祭りなの〜?というくらいの豪華さ。
この日は10種以上のネタがあったが、ネタはコロコロ変わるそうなのでそのとき何があるかが楽しみ。個人的にはご飯が酢飯だったのもちょっとうれしかった。ねっとりとしたマグロの赤身にマイルドな酸味の酢飯がよく合い、ネタの味を引き立ててくれる。
筆者はカニカマが大好物だが、やっぱり本家のカニが出てきたら敵わない。しっかりと太い繊維質、程よい塩気と旨味。だがいくらカニ好きでも、1パイはいらないのだ。このどんぶりに乗っている足1本分くらいがちょうどいい。
脂が乗ったサーモンや、噛むほどに旨味があるホタテのおいしさもいわずもがな。食べ進めていくうちに、ちいさくてカワイイホタテが出てきて「お前もいたのか〜!」とほっこりした。
「同じホタテでもいろいろな形があるので、そういうイレギュラーも楽しんでもらえたら。同じ形のものがないのでね。すごく差が出るわけじゃないですけど、サービス精神が旺盛なので、盛りが良くなったりとかしちゃう時もあるかもしれないです(笑)」と笠井さん。おいしくて盛りがいいのはサイコーじゃないですか。北海道の「なまらうまいっしょ」を体感しに、またココへ来るしかないっしょ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢