パンが苦手でも美味しいと思ったパン
「白山のベーカリー『BOULANGERIE AMONNIER』のパンに出会って驚きました」と話すのは、オーナーの村口満世さん。田端や千駄木でサンドイッチ店を営んでいるときに、たまたま知り合って食べたパンに衝撃を受けたのだという。
「実はパンはちょっと苦手だったんです。でも、『AMONNIER』のパンは繊細で香りもよく、小麦粉も酵母もひとつひとつこだわっていいものを使っているんだなということがわかります」
「これになにか挟む必要があるのか」と思うほどおいしいパンに出会った村口さん。それに見合う具材として見つけたのが短角牛だった。「ハンバーガーをやりたいと思ったのは、短角牛があったからですね」。
短角牛とは和牛のひとつで、国内流通は全体の1%もない希少な品種だ。脂分が少なくたんぱくな味わいが特徴で、「黒毛和牛ともまた少し違って、肉の味が深く、単体としておいしいんです。『AMONNIER』のパンと合わせても負けないし、この組み合わせならどこにもないハンバーガーが作れる、と思って」。
パンが苦手でもおいしいと思ったパン、そしてそれに負けない牛肉……これは、すばらしい競演を堪能できる予感がするぞ。
研究を重ねた、工夫が光るパテ
ドイツ版モッツァレラチーズを使ったアボカドステッペン1750円やダブルチーズダブルパティ2300円が人気だというが、今日は常連さんから好評だという日本の厳選食材を使ったメニューのなかから原木しいたけ1600円をいただくことに。
たっぷりのやわらかいベビーリーフに囲まれたハンバーガーは、まずそのこんがりと焼けたバンズが目を引く。端っこをかじってみると、香ばしいかおりが鼻腔を抜けていく。
いざ大きく口をあけてかぶりつくと、肉厚でジューシーなしいたけとやわらかな牛肉が押し寄せてきて、思わず目が白黒! しいたけと肉、相性がいいのは知っていたが、両者とも一歩も譲らない強さだ。試しに今度はパテだけを食べてみると、ゴロゴロと大きな塊が豪勢ながらも余計な脂っこさは一切なく、噛むほどにちゃんと旨みを味わえる上品さがあることがわかる。
「パテの味つけには白だしを使っています。塩コショウだとちょっと強すぎることがあるのですが、白だしは和牛と相性がよくて、素材を活かして肉の味をマイルドにしてくれるんです」
肉は、先述の岩手県産短角牛にA5黒毛和牛をブレンド。産地や品質はもちろんのこと、食感を重視して挽肉と塊肉のハンドチョップを混ぜているのだそう。
「はじめはなんでもいいからとにかくブロック肉を牧場から仕入れて、部位ごとに切り方や焼き方を変えて1年くらい色々と実験しました。同じ肉でも、鶏や豚と比べるとずっと扱いが難しかったです」
理想の食感を追求するため、減圧調理器などなかなかハンバーガー屋さんにはないような機材も使っている。数々の研究の成果と思えば、このおいしさも納得である。
大人の、上質な、日本のハンバーガー
ちなみに今回、セットのドリンクには、ちょっとした変わり種であるトマトと豆乳のヘルシーシェイク(単品で400円。11月ごろまで提供予定)をチョイス。一体どんな味なのか想像がつかなかったが、いただいてみるとトマトのさっぱり感と豆乳のなめらかさが絶妙にマッチしていて、甘さ控えめで飲みやすい。
「大人のための、上質な、日本のハンバーガーを作りたい」と語る村口さん。挑戦はまだまだ終わらない。
「挽肉ではない、パテじゃないパテを作ってみたいと思ってるんです。スライスした肉を重ねたものに、カキとブルーチーズを組み合わせるというのを、次のプレミアムラインとして試作中です。あとは、高野豆腐やこんにゃくなどを使ったビーガンパテも取り組みたいです」
素材の味を大切にしながら、それだけに頼らず調理方法も試行錯誤を重ねることで、絶品の一口を生み出す『MUSECA TIMES』。これからの進化も楽しみだ。
『MUSECA TIMES』店舗詳細
取材・文・撮影=中村こより