グッモー! 井上順です。

皆さんは『明治神宮』と聞いて何をイメージするだろう?
大勢の参拝客でにぎわう初詣?
パワースポット?
僕が毎年楽しみにしているのは明治神宮御苑の「花菖蒲」。6月の見頃の時期に必ず訪れている。

おなじみの『明治神宮』だけど、今回は改めてその成りたちや歴史などをきちんと知っておきたいと思い、『明治神宮』の方に案内していただき境内を散策&参拝してみた。

100年後を見すえてつくられた「永遠の森」

まずは、『明治神宮』の成り立ちや歴史を振り返ってみよう。

『明治神宮』は、明治天皇とその皇后である昭憲皇太后を御祭神として大正9年(1920)に創建された。
明治45年(1912)、明治天皇が崩御されると、御陵は京都の伏見桃山につくられることになった。それを知った東京市民の間から「せめて御霊を祀るための神社を東京に」という声がわき上がり、『明治神宮』が創建されたという。

『明治神宮』の境内は面積約70万平方メートル。東京ドーム約15個分もの広さだという。
その大部分は、渋谷にあるとは思えない鬱蒼とした森。実はこの森、人の手によってつくられた「人工の森」なのだ。

もともとこのあたりは荒地で、こんなに樹木が生い茂った土地ではなかった。
『明治神宮』創建にあたり、約10万本の樹木が全国から献木され、11万人のボランティアの方々の手で植林されたという。

神宮創建の請願運動を中心になって推し進めたのは、あの渋沢栄一。さすがの行動力だ。
そして、彼の情熱に動かされ、林苑造成計画を立てたのは日本林学の先駆者、本多静六、本郷高德、上原敬二の3人。
当時の内務大臣、大隈重信は伊勢神宮や日光東照宮のような荘厳な針葉樹の森を望んでいたそうだが、3人はこの土地の土壌や気候に合った常緑広葉樹にすべきと主張し説得したという。
彼らは、「木々が自然に淘汰や世代交代を繰り返し、人の手を加えなくても維持できる森をつくろう」と計画した。

令和2年(2020)で100年を迎えた神宮の森は、見事に「豊かな森」に成長を遂げている。
戦時中、東京大空襲で本殿などは焼失したものの、森にはほとんど延焼しなかったのは、油分の少ない広葉樹のおかげとも言われているそうだ。

100年前の方々の情熱と知恵のおかげで、僕たちはこうして神宮の森を訪れ、癒されているというわけだ。

原宿口から南参道を進み「菰樽」の前へ

今回は、初めての方にもおすすめの『明治神宮』散策&参拝ルートを紹介したいと思う。

『明治神宮』の入口は、原宿口、代々木口、参宮橋口の3か所ある。
一番ポピュラーなのは「原宿口」だろう。令和2年(2020)にJR山手線の原宿駅の新駅舎ができて、西口から『明治神宮』原宿口へ直接出られるようになり、さらに便利になった。

原宿口にある鳥居が第一鳥居。
鳥居は、神様がいらっしゃる神域と俗世との境界を示しているという。鳥居をくぐるときは一礼するのが礼儀だ。

第一鳥居をくぐった先は「南参道」。両側には鬱蒼とした森が広がり、たしかにちょっと空気が変わる気がする。
僕は、日本に遊びに来る海外の友人からおすすめスポットを聞かれたら、いつも『明治神宮』と答えている。訪れた人はみんな喜んでくれる。この澄んだ空気、神秘的な雰囲気。歩いているととにかく気持ちがいいんだよね。

木々に囲まれた南参道を、砂利を踏みしめながらしばらく歩いて行くと、右側にずらりと並んだ「菰樽(こもだる)」が見えてくる。
全国から奉納された清酒の菰樽(藁で織った菰を巻いた酒樽)だ。毎年11月3日の例祭(明治天皇ご生誕日の勅祭)のときに奉納されるもので、200丁以上が並んでいるという。

ずらりと並んだ清酒の菰樽。撮影スポットとして人気の場所だ。
ずらりと並んだ清酒の菰樽。撮影スポットとして人気の場所だ。

清酒の菰樽の向かい側には、なんと、ワイン樽が並んでいるところが対照的でおもしろい。
こちらはフランスのブルゴーニュ地方から奉納されたもの。
明治天皇は断髪、洋装をはじめ、さまざまな西欧文化を積極的に取り入れていらっしゃった。率先して洋食をお召し上がりになり、西洋酒としては特にワインを好まれていたとのこと。

菰樽の向かい側に並んだワイン樽。産地として名高いブルゴーニュ地方から毎年奉納されている。
菰樽の向かい側に並んだワイン樽。産地として名高いブルゴーニュ地方から毎年奉納されている。

『明治神宮』は、今回紹介する「内苑」と、イチョウ並木や神宮球場などがある「外苑」に分かれているが、内苑が森に囲まれた神社という日本的な風景なのと対照的に、外苑はイチョウ並木『聖徳記念絵画館』など西洋的なつくりになっている。

これも、日本の伝統文化を守りつつ、西洋文化の優れたところを取り入れて近代化をはかった明治という時代を象徴しているのかもしれないね。

「日本一の大鳥居」をくぐり、「正参道」から「手水舎」へ

菰樽を過ぎ、南参道から左に曲がると「正参道」に入る。
その入口に建つのが第二鳥居、「日本一の大鳥居」だ。高さ12メートル、柱の直径は1.2メートルで、木造の明神(みょうじん)鳥居としては日本一の大きさを誇る。
明神鳥居とは、2本の柱の上の横材(笠木)の両端が上に反った形が特徴の鳥居のこと。

ちなみに現在の大鳥居は二代目。初代の大鳥居は昭和41年(1966)に落雷で破損してしまったため、台湾から運ばれた樹齢1500年を超えるヒノキの巨木を使って昭和50年(1975)に建てられたという。

「日本一の大鳥居」の前で。
「日本一の大鳥居」の前で。

正参道を進み、御社殿エリアに入る手前にあるのが「手水舎(てみずしゃ)」。参拝の前に手や口を清める場所だ。
ところで、「手水舎」の読み方なのだが、「てみずしゃ」「てみずや」「ちょうずや」「ちょうずしゃ」と、いろいろ聞いたことがある。どれが正しいのだろう?と以前から疑問に思っていたのだが、読み方は神社によって違うのでどれも正しいとのこと。勉強になった。

参拝の前に手水舎で身を清める。以前は柄杓が使われていたが、コロナ禍以降はかけ流し式の手水となっている。
参拝の前に手水舎で身を清める。以前は柄杓が使われていたが、コロナ禍以降はかけ流し式の手水となっている。

「御社殿」で参拝のあとは「夫婦楠」と「長殿」へ

お清めを済ませたら、いよいよ神聖な御社殿エリアへ。
第三鳥居(南玉垣鳥居)をくぐり、南神門(みなみしんもん)を通り抜けて、御社殿前の広場に出る。

第三鳥居をくぐる前に一礼。
第三鳥居をくぐる前に一礼。

そういえば、参道から御社殿のほうを見たときの景色がとても印象的だった。御社殿のまわりだけ、まるでスポットライトが当たっているように輝いて見えたのだ。後光がさしているのだろうかと驚いたが、御社殿の両側にあるクスノキの新しい葉が出る時期で、薄緑色の鮮やかな若葉が神々しい風景を演出していたようだ。

御社殿への入口にある南神門。クスノキの新緑が美しい。
御社殿への入口にある南神門。クスノキの新緑が美しい。

いよいよ御本殿へ。
お賽銭箱が設置された「外拝殿前」で、奥の「御本殿」に向かってお参りする。
参拝の作法は、「二拝二拍手一拝」が基本だ。
お賽銭を入れたあと、まず2回お辞儀をする。
胸の前で両手を合わせて2回拍手を打ったら、両手を合わせてお祈り。
最後にもう一度お辞儀をする。

「外拝殿前」で、奥の御本殿に向かってお祈り。
「外拝殿前」で、奥の御本殿に向かってお祈り。

御社殿エリアで見逃せないパワースポットが、御本殿に向かって左手にある「夫婦楠(めおとくす)」だ。
寄り添って立つ2本のクスノキは、離れて見ると枝葉が一体となって1本の木のように見える。『明治神宮』創建時に植えられたこの「夫婦楠」は、縁結びのご神木として親しまれている。

注連縄で結ばれた「夫婦楠」。良縁を願って。
注連縄で結ばれた「夫婦楠」。良縁を願って。

さて、参拝の最後に、御本殿に向かって右手にある「長殿(ながでん)」に立ち寄ってみよう。ここは、おふだ、お守り、おみくじなどの授与所となっている。
『明治神宮』のおみくじは、「大御心(おおみごころ)」と呼ばれている。吉凶の占いがメインの一般的なおみくじとは違い、御祭神である明治天皇と昭憲皇太后の和歌が記されている。
おふたりとも和歌をたいそうお好みになり、明治天皇は約10万首、昭憲皇太后は約3万首の和歌を詠まれたそうだ。「大御心」には、その中から人生の教訓になりそうな歌が解説付きで記されているそうだ。

僕のひいた大御心。「軽々しい口をきいてはいけません」だって、気をつけなくちゃ!(笑)
僕のひいた大御心。「軽々しい口をきいてはいけません」だって、気をつけなくちゃ!(笑)

大切に守り育てられてきた「菖蒲田」とパワースポット「清正井」

参拝を済ませたあとは、正参道を少し戻って「明治神宮御苑」をゆっくり散策してみよう。御苑は明治天皇と昭憲皇太后ゆかりの美しい庭園だ。
入苑の際は、御苑北門で「御苑維持協力金」として500円を支払う。

このあたりは、江戸時代は熊本藩主加藤家、彦根藩主井伊家の下屋敷(別邸)があったのだが、明治維新後に皇室の御料地となった。
御苑は明治天皇が昭憲皇太后のための遊歩庭園として発案され、明治36年(1903)頃に整備されたという。

御苑の小径をゆっくり下って行くと、「南池(なんち)」と呼ばれる自然の古池が見えてくる。

武蔵野の面影を残す原生林に囲まれた「南池」。
武蔵野の面影を残す原生林に囲まれた「南池」。

「南池」に張り出した「お釣台」は、昭憲皇太后が釣りを楽しまれた場所。もちろん今は釣りをすることはできないが、上に立ってみると、池の中に鯉が寄ってくるのが見える。
もともとこの池に鯉はいなかったのだが、ある日、昭憲皇太后がイモリを釣ってしまい、それを聞いた明治天皇が優しいお心づかいで鯉を放すようにと指示されたそうだ。
「南池」は夏に見頃を迎える睡蓮の花も美しいので、ぜひ楽しんでほしい。

「南池」から小径をさらに進むと、花菖蒲で有名な「菖蒲田(しょうぶだ)」にたどり着く。

花菖蒲の苗が植えられたばかりの菖蒲田。6月頃に花が咲いて見頃を迎える。
花菖蒲の苗が植えられたばかりの菖蒲田。6月頃に花が咲いて見頃を迎える。

明治天皇の思し召しにより昭憲皇太后のためにつくられた「菖蒲田」。もともと水田だったところに花菖蒲を植えたのが始まりで、明治以来、現在まで大切に守り育てられてきた。
今では、毎年約150種1500株の花菖蒲が見事に咲き競い、大勢の方が鑑賞に訪れにぎわっている。
この日も林苑担当の職員の方が、植えたばかりの花菖蒲の手入れをされていた。こうした方々のおかげで毎年きれいな花が咲くんだよね。6月頃に満開の花を見るのが楽しみだ。

毎年楽しみにしている花菖蒲。6月の梅雨の時期が見頃だ。(写真提供=明治神宮)
毎年楽しみにしている花菖蒲。6月の梅雨の時期が見頃だ。(写真提供=明治神宮)

「菖蒲田」からさらに進み、御苑の一番奥にあるのが、パワースポットとして有名な「清正井(きよまさのいど)」だ。
戦国武将、加藤清正が掘ったという伝説の井戸で、今も毎分平均60リットルもの水が湧き出ているそうだ。
ここから湧き出る水が「菖蒲田」を潤し、「南池」の水源になり、さらには渋谷川にもつながっているという。まさにパワーの源だ。

澄んだ水が湧き出る「清正井」。
澄んだ水が湧き出る「清正井」。

とにかく広い『明治神宮』。歩き回ったあとは、南参道のそばにある「フォレストテラス明治神宮」のカフェで休憩しよう。おすすめは大人気の「炭焼だんご」。

「花よりだんご」とは言うけれど、「花(菖蒲)もだんごも」の二刀流はどうかな?(笑)

撮影=阿部 了 構成=丹治亮子