現代っ子にも楽しい令和の駄菓子屋
平日午後、こどもたちのにぎやかな声が響き渡る。歓声の先にあるのは駄菓子屋さんだ。
小学生たちが次々と来店し、駄菓子をなめるように物色。中でも当たりくじ付き菓子はヒット御礼。往年のゲーム機だって、現代っ子の心を鷲づかみ。お湯が常備され、遊びの前後にカップ麺を平らげていく子も多い。マナー違反をすれば店主が叱る情景も健在だ。
近年開店した駄菓子屋を巡ると、昭和との違いにも気づかされる。『駄菓子ミチクサ』にはふかふかソファに、秘密の小部屋もあって、ここは夢の国ですか?
また、雑貨店かと見まがう店も多い。
「親世代がまず入りたくなる店を」と話すのは、昭和の駄菓子屋を一新した『トミーショップ』の冨田憲政さんだ。見れば、こどもは喜々と、大人もウキウキと足を運んでいる。他でも、見やすい陳列、今風の空間で、「ここがあって良かった」とこぼす中学生や、「ママと駄菓子パーティーするの」とうっとりと買い込む少女もいて、現代っ子にも楽しい場所だと思い知る。
楽しいだけじゃない、おとなにとっても稀有(けう)な場
駄菓子屋という枠から飛び出す店もある。『ヤギサワベース』の店主・中村晋也さんは、震災を機に「面白いことをやろう」と考え、こども時代の駄菓子屋通いを思い出した。本業の傍ら事務所に併設した駄菓子屋が地元に支持され、「神社での駄菓子縁日、街のアンテナショップなど町に関わる仕事の依頼も舞い込むようになりました」。
地元住民と立ち上げた『駄菓子や なかよし・うおよし』は、駄菓子以外も人気だ。北澤店長の郷里・佐渡の棚田米を海洋深層水で炊いたおにぎりは、一つひとつ具を替え、予約も入る売り切れ御免の品。加えて、カフェメニューやレンタルスペースも備え、おとなでも気軽に息抜きできる工夫がうれしい。
現代ならではの現象も見逃せない。
「この店をきっかけにご近所付き合いが始まったんです」と話すのは、『だがし屋ボンボンズ』の中沢直美さん。狭小店特有のおこもり感があるからか、時にレジ横のイスはお悩み相談室に早変わり。「こどもが座ろうとしたら、“まだ早い。ここは大人の席”って断ってます」と笑みをこぼす。店を拠点に仲間もでき、「楽しくて。商売というより趣味ですね」と朗らかだ。
かつて駄菓子屋はこども専用の色が強かったが、現代はおとなや高齢者にとっても、仲間と出会い、人生を学び、心を癒やし、楽しみが広がる場になっている様子。駄菓子片手に、のんびり喋って和める、世代を超えた社交場だ。
【僕らの居場所、駄菓子屋めぐり】
BOWWOW316[北千住]
ポップ&キュートさに胸ズキュン
人形、写真などが散りばめられ、ピンクのドアを開ければ、思わぬキャラに遭遇。飼い犬の介護をきっかけに、店主の小倉勝実さんは家族とともに車庫を改装し、雑貨店のようなときめき空間を作り上げた。そして地域猫が招き猫よろしく千客万来に。
「この味が好きで」と、高知のメーカーに直談判して仕入れるおっぱいアイスやアイスクリン、マルタイのご当地ラーメンシリーズはおとなにも大好評だ。
『BOWWOW(バウワウ)316』店舗詳細
ヤギサワベース[西武柳沢]
ゲームもマンガもある商店街の基地
往年のゲーム機にファミコン、ボードゲーム、果てはけん玉も用意。近くの川で捕った小魚を水槽に入れ、本棚にはマンガがずらり。もはやここは遊び場だ。
店主の中村晋也さんは、かつて駄菓子屋通いで揉まれた経験を思い出し、自ら運営するデザイン事務所に併設。土に還る銀玉などのデッドストック品をはじめ、デザイナー目線の品揃えにも注目だ。ファミコンはおじさん世代を夢中にさせる。
『ヤギサワベース』店舗詳細
せんべいの駄菓子屋さん[三鷹]
紙芝居師による駄菓子+αも楽しみ
店主のせんべいさんは紙芝居師。
イベント出店時に移動販売の駄菓子屋さんと知り合ったのを機に、「昔の紙芝居屋は駄菓子売りが商売でしたから」と、店売りを開始した。「日銭稼ぎ」と笑うが、車庫を改装した店は和の情緒漂う粋な空間に。
移動図書館の巡回に合わせた朝のお話し会や、駄菓子をつまみにしたおとな向けの夜の会、紙芝居とのコラボライブなども催す。さまざまな世代が集う場だ。
『せんべいの駄菓子屋さん』店舗詳細
駄菓子ミチクサ[戸越]
改革を続ける住宅地のオアシス
店主の梶原克美さんが両親、兄が営んだ駄菓子卸の倉庫を改装。自販機前にソファを置き、床を張り替え、小さな子も見渡せるように陳列し、「手を加えるたび、おしゃれになったって言われるんですよ」と笑う。触感ぷにぷにのクマさんなどの玩具も仕入れ、リクエストに対応。
注目は奥の小部屋だ。「親御さんの憩いの場にと作ったら、こどもの居場所になっちゃった」。改革は今も進行中だ。
『駄菓子ミチクサ』店舗詳細
トミーショップ[葛西]
店のシンボルはピンクのスライムくん
ひときわ目を引くピンキーな店構え。
1974年創業だが、2代目冨田夫妻の「地域の人たちが集まる場所として残したい」との思いを受け、看板屋さんがノリノリで描いたその名は、駄菓子大好きスライムくん。ポップな姿が写真映えし、遠方客も呼び寄せる。
充実のカップ麺は腹ペコ派が喜び、ジュースやゼリーが冷えた冷蔵庫、お札(のお菓子)が詰まる金庫も設置。3世代で訪れる常連もいる。
『トミーショップ』店舗詳細
だがし屋ボンボンズ[下落合]
サロン化する川沿いの小さな小屋
妙正寺川沿いの住宅にアメリカンな小屋がスポッとはまる。「主人の手作り」と話すのは店主の中沢直美さんだ。ウッディな狭小店だが、中沢一家のお気に入りも飾られ、心和む空間だ。
開店直後は年配者タイムで「大福菓子とか、お茶請けにいいんですって」。店前にはスケボーを改造したベンチ、絵本、フラフープなどが置かれ、喋っていったり、遊んでいったり。ほのぼのサロンと化している。
遠州屋 横原商店[荏原中延]
三つ巴(どもえ)の三大名物を味わい倒せ
“豆”の一字を堂々と掲げるのは、昭和期から続く店。豆菓子店の記憶を残し、2代目の横原邦彦さんが2017年にリニューアルした。
八街産の落花生など「バランス食品」と豪語する豆菓子を厳選し、こどももおとなも楽しめるようにと駄菓子を拡充。乳業メーカー勤務時代の知識と経験を生かし、新たに加えた北海道産ソフトクリームも評判だ。
「中延は2代、3代で暮らす人もいて、一緒に顔を出してくれます」。
駄菓子屋 なかよし・うおよし
地元の大人たちが見守るホットステーション
「梅ミンツを手みやげに持っていくと喜ばれるんです」と笑顔を向けるのは、こどもから「店長」と親しまれる北澤尚文さん。長く地域ボランティアに参加し、退職後の夢は駄菓子屋と公言。地元の縁で物件が決まり、地元住民とすす払いやペンキ塗りをし、店舗設計を長男の諒さんが、壁の絵を次男で美術家の潤さんが手掛けた。日々店に立つのも地元の仲間たち。和やかで気さくな空気に満ちている。
取材・文=佐藤さゆり 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2023年5月号より