穏やかで幸せな“日曜の朝”のような空間

三角の屋根が、教会のように神聖な雰囲気を出している。階段の下には看板があるので見つけやすい。
三角の屋根が、教会のように神聖な雰囲気を出している。階段の下には看板があるので見つけやすい。

下北沢駅から3分ほど歩くと、古着屋などが立ち並ぶ路地に重厚感あふれる建物が堂々と姿を現す。2階へと続く階段を上がった先にあるのが、この地で30年以上愛されているカフェ『サンデーブランチ』だ。

店内に一歩入ると、背の高い窓からたっぷりと日差しが降りそそぐ、開放的で洗練された空間が広がっていた。都会の喧騒を一瞬にして忘れてしまうほど穏やかな時間が流れている。

日曜の朝のひとときをイメージした空間は、緑がふんだんに  深呼吸したくなるほど気持ちが良い。
日曜の朝のひとときをイメージした空間は、緑がふんだんに 深呼吸したくなるほど気持ちが良い。

『サンデーブランチ』は店名の通り、“いつもよりゆっくりと起きた日曜の朝”をコンセプトにしている。コンセプトのもとになったのが、オーナー・大岩悦子さんの幼少期の思い出だ。

大岩さんの父はハワイアンで、休日にはよくホットドッグやパンケーキを作ってくれた。そのため大岩さんにとって家庭の味=アメリカの家庭料理だった。『サンデーブランチ』という店名には、そんな父の作るアメリカの家庭料理と休日の幸せな思い出がそのまま込められている。

ここ下北沢店は、1987(昭和62)年に創業した新宿店(現在は閉店)に続く2号店で、1992(平成4)年にオープンした。1号店がオープンした当時は、日本でまだフレンチトーストやパンケーキといった料理が浸透していなかった頃。そのため海外のレシピを再現し研究を重ねて生み出されたフレンチトーストはお客を魅了した。シンプルながら唯一無二のフレンチトーストは、今でも根強い人気を誇っている。

料理だけではない、細やかな気配りがファンを作る

笑顔が素敵な店長の高橋唯さん。朗らかな人柄でスタッフたちから慕われている。
笑顔が素敵な店長の高橋唯さん。朗らかな人柄でスタッフたちから慕われている。

下北沢店で19年にわたり店長を務めるのが、高橋唯さんだ。もともとはお客として店に通っていた高橋さん。彼女も、この店のフレンチトーストに魅せられた一人だ。

「この店で働く前はサッカー選手で、忙しい日々を過ごしていました。そのため休日になると、仲間と一緒にゆったりと過ごせる居心地の良いカフェを探すのが好きだったんです。この店は、天井が高くて開放的で、窓から陽の光が差し込む素敵なカフェだと思っていました。フレンチトーストは、初めて食べたときから今でもずっと大好きです

好きが高じてアルバイトから社員、そして店長となった高橋さん。団体スポーツで培った仲間との助け合いの精神を活かしながら、スタッフとともにチームワークを築いて店を担っている。

店のレジ横には季節の花をモチーフにしたアートフラワーが飾られていて、テーブルで商品と一緒に撮影するなど自由に使うことができる。
店のレジ横には季節の花をモチーフにしたアートフラワーが飾られていて、テーブルで商品と一緒に撮影するなど自由に使うことができる。

30年以上続く下北沢店は、学生時代に通っていた客が子どもを連れて来店するなど、親子3世代で利用する人も多い。ここ最近では、SNSで見かけたスイーツを求めて来る若い世代のお客も多く、実に幅広い世代から愛されている。

「日中はもちろんのこと、たとえ午後でも夜でも、穏やかな時間を過ごしてもらえる空間づくりを目指しています。特に晴れた日は気持ちがいいのか、お会計のときに“いい時間を過ごさせてもらった”と言ってくださるお客様がいらっしゃいます」

高橋さんがお気に入りの高い天井。開放感は抜群だ。
高橋さんがお気に入りの高い天井。開放感は抜群だ。

高橋さんに、店長として店づくりで意識していることを尋ねてみると「おいしいものを食べられるカフェは世の中にたくさんあると思いますが、料理の味だけではなく、かゆいところに手が届くお店を目指しています。

この想いは、アルバイトのときから変わっていません。お客様が料理で洋服を汚してしまったときには洗剤をつけた布巾を差し出したり、他店で買われたケーキなどの手土産を持っている方がいたら、冷蔵庫にスペースがあるときは“入れておきますか?”と声をかけたり。お客様との距離感を大切にしながら、できることは全力でやりたいと思っています」

こうしたスタッフのほど良い距離感が印象深いのか、料理を食べたお客が紙ナプキンにさりげなく感謝のメッセージを書き残していくこともあるそう。小さな心配りの積み重ねが、世代を超えてファンを作り続ける理由なのかもしれない。

名物フレンチトーストと、SNSで話題のケーキを堪能

定番のプレーンメープルシロップ1480円。
定番のプレーンメープルシロップ1480円。

ここに来たら、フレンチトーストは外せないだろう。この日は、4種類あるフレンチトーストの中で最もおすすめだというプレーンのフレンチトーストを味わってみた。

一口食べた瞬間、見た目以上にしっかりとした甘さを感じられることに驚く。食感はまさに“外カリ、中ふわ”。丁寧にキャラメリゼされたトーストの表面が香ばしく、さらに中の生地はとろっとなめらかでジューシー。王道でシンプルなフレンチトーストだが、食べれば食べるほど夢中になるほど奥が深い。

メープルの上品な甘さで、口当たりは軽く決して重たくない。きっと、子どもから大人までみんながときめく味わいだろう。

「お客様のテーブルに運びながら、スタッフと一緒に“自分たちも食べたくなっちゃうね”なんて話していますよ」と高橋さんはニッコリ。

色合いが美しい、紫陽花ケーキと紫陽花ミニソーダのセット1760円。
色合いが美しい、紫陽花ケーキと紫陽花ミニソーダのセット1760円。

フレンチトーストのほかにも、アメリカの朝食のようなワンプレートメニューや大ぶりのケーキ、スイーツなど多彩なメニューを展開する同店だが、ここ数年、SNSで注目されているのが季節の花をモチーフにしたメニューだ。

取材時は紫陽花(あじさい)をモチーフにしたメニューだったため、ケーキとミニソーダのセットを注文した。

まるでアート作品のように美しい紫陽花ケーキは、白桃のコンポートがサンドされたショートケーキタルト。さっぱりとした生クリームと白桃の優しい甘さの組み合わせは、食後でもペロリと食べられてしまう。

紫陽花のほかにも春は桜、夏はひまわりなど季節ごとの花をモチーフにしたケーキは評判で、夢中になって写真を撮る人が多い。眺めているだけで幸せになってしまう魔法のスイーツだ。

ケーキとセットで味わえるのが紫陽花ミニソーダ。ライチソーダに紫陽花の花をイメージしたゼリーとレモンが入っていて、とても爽やか。暖かい日にはぴったりのドリンクだろう。

『サンデーブランチ』に訪れたら、居心地の良い空間で、下北沢で長く愛されてきたフレンチトースト、美しいスイーツとともに豊かなひとときを過ごせるだろう。

住所:東京都世田谷区北沢2-29-2/営業時間:11:00~19:00LO/定休日:不定/アクセス:小田急電鉄小田急線・京王電鉄井の頭線下北沢駅から徒歩3分

取材・文・撮影=稲垣恵美