下北沢の裏路地にある「ねぐら」のような穴場喫茶
ショッピングやグルメ、演劇鑑賞など、さまざまな目的を持った人たちが行き交う街、下北沢。
駅前の雑踏を抜けて人通りの少ない路地に足を踏み入れると、緑に埋もれた不思議な雰囲気の看板が目に飛び込んでくる。
看板をたどり、道の突き当りまで進むと現れるのが『喫茶ネグラ』。2017年から営業を続けるこの店は、下北沢の駅近くで落ち着ける場所を求める人たちが行きつく穴場の喫茶店だ。
店に入ると、どこか懐かしさを感じるこぢんまりとした空間に、仕切られたソファ席がゆったりと設けられていた。誰かの家に遊びに来たかのような温もりと、そこはかとなく“下北沢っぽさ”も感じられる。
店主の古谷愛実さんは、古道具を集めるのが好きで、よく下北沢の古道具店に足を運んでいたのだそう。下北沢に店を構えた理由は「いつも人がたくさんいる下北沢で、駅近くでも落ち着ける場所を提供したい」と思ったから。
「喫茶店を始めたのは、ここでしか味わえない素晴らしい料理を提供しようとか、そんな大層なことを思っていたわけではないんです。店のこだわりよりも、誰と一緒に過ごすか、一人での時間をどう過ごすかによって、時間の価値は変わってくると思います。この店にいる時間はお客さん自身が作っていくものなので、あくまで私はそのための場所を提供できたらないいなと思いました」
『ネグラ』という店名の由来については「この物件を見つけたときに、路地の奥で穴にすぽっと納まるような雰囲気が動物の“ねぐら”のようだと思ったんです。だから、この店にねぐらのように入り込んで、みなさんに落ち着いてもらえたらいいなと思いました」と語る古谷さん。
『喫茶ネグラ』は、賑やかで刺激に満ちた下北沢という街で、心安らげるオアシスのような場所なのだろう。
カクテルとしても楽しめる名物のクリームソーダ
『喫茶ネグラ』の名物メニューといえば、SNSで話題になっているクリームソーダ。乙女心をキュッと掴むパステルカラーのクリームソーダは、期間限定フレーバーを含めて約15種類がラインナップしている。
2段のアイスが重ねられたボリューミーさと、それぞれのフレーバーによって異なる繊細なトッピングはついつい写真におさめたくなってしまう。
さらに魅力的なのが、それぞれのクリームソーダに200円を追加すればジン、ホワイトラム、ダークラム、ウォッカといったアルコールを追加できること。アルコールの量は、香りがつく程度やしっかり目など希望を聞いて調整してくれる。
試しにラベンダークリームソーダをおすすめのジン入りで味わってみたが、ハーブティーのように爽やかで香り豊かなラベンダーと、ジンのすっきりとした風味を感じ、カクテルのように味わえた。ソーダ自体の甘さは控えめだが、アイスを少しずつ溶かしていけばデザートに早変わりする。
子どもから大人まで楽しめるドリンクの代表格であるクリームソーダだが、たまには“大人のクリームソーダ”も味ってみてはいかがだろう。
そんな自慢のクリームソーダと食事メニューを一緒に満喫できるのが「喫茶SET」。好きなクリームソーダに1200円を追加することで、ナポリタンやポークジンジャー、ガパオライス、トーストなど全6種類の料理から一品を選ぶことができる。もちろんクリームソーダのセットだけではなく、通常のソフトドリンクが付くランチセットもある。
真心詰まった料理とクリームソーダの欲張りなセットは、仕事の合間にしっかりとお腹を満たしたいビジネスマンから大好評なんだとか。
ほかにも、たまに登場するレアメニューのジビエ料理や、夏は爽やかなチョコミントのクリームソーダ、冬は熱々の(!)ホットクリームソーダなど、期間限定メニューが登場することもあるので、来店するたびにチェックしておきたい。
エピソードが詰まった懐かしい古道具
ドリンクや料理を堪能しながら見渡してみてほしいのが、店内に散りばめられた古道具の数々だ。店を始めるにあたって揃えたものだけではなく、もともと古谷さんがコレクションしていたもの、近所の店から譲ってもらったもの、実家にあったものなどを一挙に集めた。
古谷さんは「この店には、閉店してしまったスナックから譲ってもらったソファや、イギリスの教会で使われていたチャーチチェア、一時的に生産されていた電化製品や道具など、国内外の古道具やインテリアを一緒くたにして置いています。たまに知っているお客さんがいて、話が盛り上がるときは本当に楽しいです」とニッコリ。
この店に来たら、一つひとつのアイテムに秘められたエピソードに思いを馳せてみるのも充実した過ごし方のひとつだろう。
取材・文・撮影=稲垣恵美