人気YouTuberも来店! ロックを聴きながら、辛さと旨味にまみれる時間
蔵前橋通り(都道315号線)から路地に入って少し歩くと、白地の暖簾にかわいらしく浮かぶ『晴天家(ハレルヤ)』の文字が見えてくる。
しかしその暖簾をくぐると、勢いよく鳴り響くギター音と、誰もが知るあのロックスターを思わせるアートが待ち構える。一気にロックの世界へ入り込んでしまう。温かな木や白を基調とした店内とのギャップもおもしろい。内装のほとんどは、店主の松岡さんが手がけたというから驚きだ。
ここには、“毎日食べられるラーメン”がある。
店の看板メニューは、辛麺850円。辛さは中辛まで無料だ。今回は、さらに追加の辛味100円・ニラ増し100円・切り落としチャーシュー200円をトッピング。
この真っ赤なビジュアルだけでも、口に広がる辛いスープの味を想像してしまう。
鮮やかな赤を生み出しているのは、辛味のベースにもなっている一味。松岡さんが何十種類も試して見つけだした、キムチに使われる韓国産の粗挽き一味だ。
スープは、鶏ガラと魚の出汁のみ。“かえし”は、醤油3種類を独自に配合して作る。スッキリしたスープだが、旨味がぐんと凝縮されている。
それなのに、使っている油はなんと、ごま油だけ。それも小さじ1杯も入っていないという。「スープを作るときに出る脂も、とことん取り除いています」と松岡さん。かなりの徹底ぶりだ。安心して思わず、この旨いスープを最後まで飲んでしまう。
食べ応えバツグンの太麺は、かの有名な菅野製麺所から仕入れる。一般的に太麺はスープが絡みにくいが、溶き卵を入れることで絡みやすくしているという。辛麺の他にも、ざる麺850円や中華そば850円がある。「マー油や鶏油も使っていますが、一般的なお店と比べて、ウチのラーメンは油を約80%カットしています」舌にもお腹にも重く残らない、けれど「食った食った……」と思えるような満足感。辛い・旨い・ヘルシーの三拍子を兼ね備えた、毎日食べに来たい店だ。
辛さの限界に挑戦しようという人には、激辛メニューのヴァルハラ辛麺1200円がおすすめ。ちなみに、店のすぐそばに銭湯がある。激辛チャレンジの後にひとっ風呂浴びるもよし、風呂上がりに食べてまた汗をかくもよしだ。
辛麺・ざる麺・中華そばは、テイクアウトも可能。「家でも楽しみたい」「あの人にも食べてほしい」そんな人はぜひ活用しよう。
店主は元バンドマン。父を想って編み出した、毎日食べられる“辛くて旨いラーメン”
松岡さんは、なんと元バンドマン。店で流れるBGMにも、壁に飾られたアートにも、そしてビールの銘柄にも思い入れがあるのだ。瓶ビールはカールスバーグ。「昔レッチリ(Red Hot Chillpeppers)のライブで飲んだカールスバーグが、すごくおいしかったんですよ! あのライブやビールの味が忘れられなくて、ウチでも出そうって決めました」そう懐かしそうに、松岡さんは語る。
毎日食べられるヘルシーな辛麺は、父親のことを思って編み出したものだという。小さな頃よく一緒にラーメンを食べていたお父さんは、ある時から病気がちに。「父でも、安心しておいしく食べられるラーメンを作りたい」そんな思いから、油の量や味の研究を積み重ねてたどり着いたのが、“辛くて旨いラーメン”だった。
中華麺が生まれたのにも、理由がある。「もともと中華麺は考えていませんでした。けれどある日、通りすがりのおじいさんに『醤油ラーメンはあるのか?』って話しかけられて。街の人たちに楽しんでもらえるならと、オープン前に急遽追加したんです」
コロナ禍を経験し、いっそう“食べることの楽しみ”について考えるようになった松岡さん。
「今って、お金をかけないで家で食事を済ませる人が多いですよね。でも店で食べる楽しみは、やっぱり代えられない。誰かの顔を見て、楽しく会話して、旨いラーメン食べて、ちょっと1杯飲んで。街に人があふれて元気になれるのって、飲食店があるからだと思うんですよ」
誇れるものを持って、ふるさとに帰りたい。地元・高崎でついに2号店がオープン!
2023年2月、群馬県高崎市にも『晴天家』がオープンした。高崎は松岡さんの出身地だ。
実は、辛麺にはルーツがある。ラーメン屋を何千軒と食べ歩いてきた松岡さんが衝撃を受け、忘れられないというラーメンは、地元・高崎にあったのだ。その思い出の味をベースにし、辛味を加えてビジュアルも工夫するなど、『晴天家』風にアレンジしたのが辛麺なのだとか。
もともと墨田だけでなく、高崎への出店も決めていたと話す松岡さん。「いつか地元へ戻るとき、何か一つ自慢できるものを持って帰りたい」そんな思いから、『晴天家』はスタートしたのだ。
そして、高崎店オープンに向けてクラウドファンディングを実施。「開店資金を集めたいというよりも、高崎の人たちに店を知ってほしいという気持ちが大きかったですね」松岡さんが願った通り、常連客や地元の友人だけでなく、初めて知ってくれた人からも多くの協力があったという。
ちなみに、本店と高崎店のメニューは微妙に違う。本店は丸麺なのに対し、高崎店では複雑な味わいを楽しめる角麺を採用。“かえし”にも、はっきりした味の好きな人が多い群馬県民のために、高崎店ではエッジの利いた醤油を使っているのだとか。食べる楽しさを、街に元気を――。二つの街で、それを叶えた『晴天家』。本店と高崎店、ぜひ両方の個性を味わってみたい。
取材・文・撮影=aki