シアトル在住のオーナーが日本でカフェを始めた意外な理由とは?
『マキネスティコーヒー 緑本店』のオーナーである辻さんは、シアトル在住の日本人だ。約20年前に、現代エスプレッソカフェ発祥の地であるシアトルにて、コーヒーを本格的に学んだという。そして日本に渡り、東麻布でカフェをオープン。そして2013年に錦糸町に移転して現在に至る。
シアトルで学んでから20年近くたった今でもなお、当時の淹れ方を忠実に守ることで、近年の全自動エスプレッソマシンでは再現できないような繊細な味を表現する、とても稀有な店である。
そして、カフェを始めた理由も少し独特である。飲食店をやりたくてカフェを始めたのではなく、なんとエスプレッソマシンを広めるための手段として、カフェを始めたのだそうだ。辻さんはもともと、エスプレッソマシンを扱っている会社の社長と親交があり、そのマシンに魅了され日本で販売・啓蒙しようと思ったことが、カフェをオープンしたきっかけである。
マシンの販売にあたり「エスプレッソマシンを販売するのにはコーヒー豆が必要だ」という話になり、コーヒー豆を仕入れることにした。その時たまたま紹介してもらった米国のコーヒー農家というのが、なんと米国の中でも特定のロースターにしか卸さないようなハイクオリティな豆を栽培する農家だったのだ。そのような偶然が重なって、辻さんは日本で数少ないスペシャルティコーヒーを提供するカフェを営むことになった。
天候に合わせて毎日調整!マニュアルなエスプレッソマシンで淹れる本格カプチーノ
この店で一押しするのは、カプチーノ550円とバナナブレッドだ。どちらも一年を通して提供している定番メニューである。
もちろんこのカプチーノ550円は、自慢のエスプレッソマシンで丁寧に入れられた一杯である。『マキネスティコーヒー 緑本店』のエスプレッソマシンは、現在流通している最新型マシンよりもマニュアル操作の部分が多く残っている年代モノだ。
その日の天候に合わせて毎日マシンを調整し、エスプレッソを入れているという。絶対的な正解は無いため「今日はこれで良いかな?」という気持ちが残りつつも、オートマチックなマシンでは決して淹れられないような珠玉の一杯を淹れているので、自信を持って提供しているという。
これはオーナーだけでなく、この店で働くスタッフにも徹底しており、例えばコーヒーの量を測る際は、マシンで自動的に測るのではなく、本人の体の感覚で覚えて測るようにしているという。これら辻さんの話を聞いていると『マキネスティコーヒー 緑本店』では、20年間エスプレッソを淹れてきた経験をもとに、コーヒー豆とエスプレッソマシンのことをまるで生き物のように扱い、日々真剣に向き合っているのが伝わってきた。
そんな想いで淹れてもらったカプチーノ550円を一口飲んでみた。口当たりはとてもまろやかで甘さもあり、普段エスプレッソを飲み慣れていない人にも飲みやすいよう仕上げられている。
そして、一緒にいただいたバナナブレッド495円も絶品だ。「コーヒーに合うものを」という観点で開発されたメニューで、シアトルにいた頃に食べたバナナブレッド495円を思い出して考案された。
一つのバナナブレッド495円を作るのに8〜9本ものバナナを使っており、食べた瞬間、バナナの自然な甘みと香りが口いっぱいに広がる。中にはクルミも入っており、食感のアクセントになっている。
コーヒーに注ぐ情熱で、他では味わえない最高の一杯を提供
また、コーヒー豆の焙煎にもこだわりがあり、店のバックヤードで自ら焙煎を行なっているが、この焙煎機もインパクトがある。店のキッチンに置けるような小型のものではなく、なんとバックヤードが埋まってしまうくらいの大型の焙煎機を完備しているのだ。
建物が密集する都内において、ここまで大型の焙煎機を置ける環境というのはごく僅かであり、この焙煎機を置かせてもらえる物件を探すのに苦労したという。これも「仕入れから担っている大事なコーヒー豆の旨味を、最大限活かしたい」という情熱からきた行動力だろう。
週3回程度この焙煎機でコーヒー豆を焙煎し、その後はドリンクとして提供するだけでなく、他店に卸すこともある。もちろん『マキネスティコーヒー 緑本店』の店頭でもコーヒー豆を買うことはできるので、帰りに買って帰るのもオススメだ。
錦糸町の人々に愛されて10年目になる『マキネスティコーヒー 緑本店』だが、実は東麻布で店を開いていた時の客も、時々足を運んでくれるという。「あの味が忘れられなくて。と言って錦糸町まで来てくれたんです。嬉しいですね。」とオーナーの辻さんは笑顔で話す。
まさに「ここでしか味わえない一杯」と言っても過言では無いだろう。コーヒーに対するひたむきな思いが詰まった一杯を味わいに、ぜひ一度訪れてみてはいかがだろうか。
取材・文・撮影=須田仁美