老若男女で賑わう和気あいあいとした店内
早速店内に入ってみる。店主の山下椋司さん曰く「昔はタクシーの運転手や学生の方が多かった」そうだが、取材時にはスーツ姿の男性や若いカップル、常連と思しきご婦人など様々な顔ぶれの客人で席が埋め尽くされていた。
筆者がお店に到着したのは午後3時。おやつタイムとはいえ、これほどまでに幅広い世代の人々を惹きつける『喫茶マウンテン』の魅力ってなんなのだろう。気になって仕方がない。
わくわくしながらメニューを開いてみると、そこには某有名グルメタレントの言葉を借りるのではあれば”宝石箱”のような、何ともときめく料理の数々が揃っていた。どれも美味しそうで選ぶのに苦労したが、今回は3つのメニューに絞ってご紹介する。
ビジュアル完全優勝のいちごのフルーツサンド
まずご紹介するのはこちら。いちごのフルーツサンドだ。これはもう、見た目からして頼まずにはいられない。ビジュアルが完全優勝している。
ふんわりした歯触りのパンにはほどよい甘さのクリームがたっぷり挟まっており、頬張ると口の中にいちごの甘酸っぱさがじゅわじゅわ広がっていく。芳醇でさっぱりとした後味のコーヒーとの相性も抜群だ。食べるだけでふわっと優しい気持ちになる。
思わず童心に帰る昔ながらのカレーライス
お次はこちらのカレーライス。ステンレス製のカレー皿といい福神漬けといい、THE・昔ながらの日本のカレーライスと言った風体がたまらなく食欲をそそる。
辛さはピリッと辛口だがマイルドな味わいであっという間に食べ終えてしまい、思わず「おかわり!」と店主に呼びかけてしまいそうになった。
しみじみと美味しいあさりと貝柱のクラムチャウダー
お次はあさりと貝柱のクラムチャウダー 。トースト・コーヒー付だ。これがもう身体と心に染み渡る美味しさだった。
取材日はとても寒く風の強い日だったが、あさりのお出汁が利いたほかほかのチャウダーを口に運んだ瞬間、凍えた身体がじんわりほどけていくようだった。こんがり焼けたやや厚切りのトーストにスープを含ませて食べると、みるみるうちに元気がみなぎってきた。さらに食べ進めると、具沢山で、小さくカットされたズッキーニまで入っていることに気がつく。
いちごのフルーツサンドを食べた時点で「『喫茶マウンテン』の料理からは喫茶店の軽食以上の何かが感じられる……」と薄々勘づいていたのだが、クラムチャウダーを食べたところでそれは確信に変わった。『喫茶マウンテン』の料理には、意識して食べなければ気づかないほどのささやかなところでこだわりや丁寧さが加わっているのだ。
長年お店が愛されるワケとは
店主の山下さんにお話を伺ったところ、この魅力的なメニューの数々は主に娘さんの黒澤裕子さんご考案とのことだった。
そばで筆者と店主のやり取りを聞いていた裕子さんは「父と相談しながら私がちょっとずつ新メニューを追加していったんです。でもタピオカが流行った時にウチも流行りに乗ろうかと思って、メニューにタピオカを追加していいか聞いた時は『ウチはコーヒー屋だ!』って怒られましたけど(笑) 」と教えてくれた。
裕子さんのサービス精神と確固たるポリシーを持ちながらも周囲の人々の意見を柔軟に受け入れる店主のおおらかな人柄が『喫茶マウンテン』の魅力を形作り、それこそがたくさんの人々に愛されている所以なのだと悟った。
『喫茶マウンテン』は山奥で迷子になった時に偶然見つけた山小屋のように立ち寄る人々をほっとさせる温かいお店だった。
仕事で疲れた時、友達に嬉しい報告がしたい時、母親の手料理が恋しくなった時、『喫茶マウンテン』の美味しいごはんはあなたの心の隙間を満たしてくれることだろう。
取材・撮影・文=北口美愛