「カレーの街・神保町」でも珍しいスリランカカレーの専門店
ココナッツミルクをベースに、スパイスや野菜がたっぷり入るスリランカカレー。小麦粉や油を使わないのでヘルシーで、野菜や鶏肉、羊肉など日本でもポピュラーな具材のほか、魚やイカなど具材はなんでもOKなのも特徴だ。
どんなカレーの店でもありそうな神保町だが、スリランカカレーの専門店はなかったそう。「神保町に店を出すのは目標でした。他の店とかぶらないならやってみようと、思い切って福岡から来ました」と話すのは店長の大隈さんだ。この店は、福岡の本店『Rスリランカ』、福岡2号店の『Rスリランカ+』に続く3号店。初の県外出店となる。
看板メニューは豚肉たっぷりのステーキカレー
熱々の陶板で焼いた豚肩ロースののった豚肩ロースステーキカレーが看板メニューだ。作ってくれたのはスリランカ人の母と日本人の父をもつ料理人のミルカさん。手際よく塩コショウを振り、両面をしっかり焼く。豚肉の脂の焼けるいい香りに、激しく食欲を刺激される。
カレーの辛さは3段階。前日に仕込み、別々の鍋に用意されている。びっくりしたのは鍋を底から混ぜると、オレンジ色だったカレーが白っぽく変化したこと。ココナッツミルクは沈殿するので混ぜると本来の色になる。随分違いがあるんだな〜。
肉が焼けたら最終工程。もう少しで出来上がりだ。
あっつあつのスリランカカレーが到着!
うわ〜、お肉たっぷり♪こんがり焼かれた豚肉を前に、かなり気持ちがあがる。とその瞬間、ココナッツミルクの甘い香りがふわ〜っと広がった。
おお……。とにかくココナッツミルクが濃い。甘い。さわやか。びっくりするレベルだ。
「スリランカカレーはココナッツミルクとスパイスで味が決まるんです。だから一番グレードの高いココナッツミルクと現地から取り寄せた本場のスパイスをたっぷり使ってます」と大隈さん。
確かに鼻を抜けるココナッツの香りは濁りがなく清らかで、その甘い風味はコリアンダーやクミンなどパンチのあるスパイスを大いに引き立てている。中でもシナモンの繊細で華やかな香りが鮮烈だ。グリーンカレーを代表とするタイカレーもココナッツミルクを使っているが、こんなにコクと風味の強いカレーには出会ったことがない。
塩コショウをしただけだが、豚肉はしっかりとした噛みごたえがあり、旨味も十分。カレーといっしょでももちろんおいしいが、単体でもおいしい。ヒノヒカリという日本の米をターメリックで炊いたライスももっちりしていて◎。現地では長粒米だが、日本人の好みと本場の味を加味し、粒が小さくスープカレーに合うことから選んだ銘柄だ。
本場スリランカカレーのおいしさと、やさしい人の輪
そもそも福岡の『Rスリランカ』はスリランカ人店長が営業する店で、サラリーマン時代の大隈さんは、常連として通ううちに店長と仲良くなったそう。ところがある日、店長の滞在ビザが下りないという事件が起こる。
「このカレーが食べられなくなる……」そう思った大隈さん。なんと会社を辞め、店長から店や店の名前など、すべてを買い取る決心をする。そこからはものすごいスピードで物事が進み、店長が日本にいられるわずかな時間でカレーの作り方を伝授してもらい、どうにか店と店の味を引き継ぐことができたのだ。
店名の「R」は、スリランカ人店長の亡き父の名前の頭文字。「彼がお父さんといっしょに仕事をしているっていう気持ちで付けた名前なので、そのまま受け継ぎました」。ちなみに店を引き継いた当初のこと。日本人とスリランカ人では塩味の感じ方に違いがあるそうで、塩のバランスを見てくれた日本人の料理人がいたのだが、この人と店長の亡父が友だちだったという不思議な縁も。
大隈さんに店を任せ、スリランカに帰った店長は、現在、現地で日本食の料理人をしているという。「わからないことを聞いたり、現地のスパイスや食材をかなり安く送ってもらったり。こっちからも食材を送ったり、本当によくしてもらってます。スリランカ人はまじめな人が多いから、日本人と合うのかもしれないです」。聞けば聞くほどあったかい関係。なんだかほっこりした気持ちになる。
受け継いだことはもう一つ。お腹いっぱい食べてもらうこと
スリランカ人の店長にはもう一つのモットーが。それは、体にいいものを、きちんとお腹いっぱい食べてもらうこと。これは彼の母親からの教えでもある。そこから生まれたのがモアカレーとおかわりごはんのシステムだ。
しまった!カレーが足りなくなっちゃった……。とこんなときには「モアカレーお願いします」というと、
なんと無料で結構な量のカレーを入れてくれる。しかも、もともとの辛さからチェンジするのもOK。他の味を試すのにもぴったりだ。
いい気になって、ひと口サイズだというおかわりごはんもお願いしてみた。
「5口くらいありますよね」と大隈さん。味変できることを考えると、大盛無料よりもずっとお得だ。「もともとは何度でもOKにしてたんですが、いくらでも食べる学生さんたちが来てから『1回のみ』にさせてもらいました。喜んでもらってたんですが……スミマセン……」って大隈さん!それでもサービス良すぎですよ!
現在、福岡本店は大隈さんの姉と、もとのスリランカ人店長のシェフ友だちが、福岡の2号店は本店の常連だった人が切り盛りしている。また、この店の壁のゾウの絵は、本店でアルバイトをしているスリランカ人に来てもらって大隈さんと2人で描いたものだ。
「スタッフにもお客さまにも本当に恵まれてます」と話す大隈さん。なんとも不思議な縁は、ひとえに大隈さんの人柄によるもの。日本とスリランカ、東京と福岡をつなぐおいしさと友好の輪。これからもさらに広がっていくに違いない。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ