【国東エリア】
風光明媚な自然に囲まれたまち・国東市
最初に向かったのは大分県国東(くにさき)市。大分県北部の国東半島東部に位置する。瀬戸内海や緑豊かな自然に囲まれながらも空港や港はすぐ近くで、東京から日帰りも可能なほどアクセス抜群だ。
国東は神仏習合発祥の地でもある。国東半島一体にある寺院群の総称は六郷満山(ろくごうまんざん)と呼ばれ、神と仏を同一の存在とする神仏習合の文化が生まれた場所。霊場めぐり、御朱印めぐり、寺では座禅や写経体験など、パワースポット・国東で非日常を味わえる。
サイクリングでの観光スポットめぐりもおすすめだ。「道の駅くにさき」のターミナルではレンタサイクルはもちろん、サイクリングコースの相談にも乗ってくれる。また、大分空港にもサイクル・ハブがあり、更衣室やメンテナンススペースが完備。心地よい潮風を感じながら、気になった観光スポットに気軽に寄り道できる自転車旅をぜひ満喫してほしい。
漁協直営のお店『銀たちの郷』で、くにさき銀たちを味わう!
国東といえばブランド魚の「くにさき銀たち」。大分のタチウオ漁は全国トップクラスの漁獲量を誇る。銀色に輝く、引き締まった美しい身が特徴だ。
せっかく国東に来たのだから、くにさき銀たちを味わいたい! ということで、大分空港から車で約10分、道の駅くにさき内にある漁協直営のお店『銀たちの郷』へ向かった。
レストランで腹ごしらえ。こちらの名物は太刀重(1400円)とのことで、太刀重を注文。それ以外にも、塩焼き、刺し身、天ぷらが一度に味わえる太刀魚定食(1700円)、海鮮丼(1800円)、太刀カレー(850円)ほか、お子様ランチ(700円)もあり、家族連れにもうれしい。アルコール飲料、刺し身やタコぶつ切りなどの一品料理もあるので、ここで一献傾けるのもいいだろう。(ノンアルコールビール・ソフトドリンクもある)
わくわくしながら料理を待っていると、ほどなく太刀重が運ばれてきた。
くにさき銀たちの蒲焼き、海苔が中央に盛られている。箸でひと口大すくい取り、口の中に入れると……う~ん、おいしい! ふっくらした食感が心地いい。甘辛いタレとの相性が抜群で、ご飯が進む。国東自慢の絶品料理を堪能することができた。
『銀たちの郷』店内にはお土産の販売スペースもあり、活魚をはじめ、干物、国東わかめなどの乾物を購入できる。
【売店】9:00~17:00/定休日:第4水、12/31、1/1/アクセス:大分空港から車で約10分
未来に残したい伝統工芸の工房『七島藺工房ななつむぎ』
「七島藺(しちとうい)」をご存知だろうか? いぐさと同じく畳表の材料となる植物だが、いぐさはイグサ科、七島藺はカヤツリグサ科と異なる植物だ。
人気の琉球畳は、元はこの七島藺の畳表を使用した畳のことを指していた。また、柔道畳としても全国各地で使われ、1964年の東京オリンピックの柔道会場でも使用された。
主に家庭用に使用されているいぐさの畳表に対し、七島藺の畳表は使えば使うほどに艶が出て、青々とした緑色からあめ色に変化し、味わいが生まれる。また、畳の表替え・裏返しをする必要がなく、いぐさの畳表が7年程度持つ一方で、七島藺は20年ほども使えるそうだ。
2022年12月現在、七島藺が生産されているのは、大分県国東半島のみ。
栽培や製織の機械化が進んでいないことから数を減らしてきたが、文化的な価値や強度等の優れた特性を有する七島藺を未来に残したいという思いの下、現在、数軒の農家が生産し、畳表以外にもさまざまな工芸品の制作も行っている。
2013年5月にFAO(国際連合食糧農業機関)の世界農業遺産の認定を受けた、大分県国東半島宇佐地域の農林水産業システムを構成する要素の1つに、七島藺が含まれている。加えて、2016年12月、地理的表示保護制度(GI)に「くにさき七島藺表」として登録された(大分県で第1号)。
そんな七島藺に実際に手で触れ、携わっている方々のお話を聞くべく訪れたのは、大分空港から車で約30分ほどの『七島藺工房ななつむぎ』。
お話を伺ったのは……岩切千佳さん
七島藺工芸作家。宮崎県出身。円座やラグをはじめ、アクセサリーやバッグなどの製品作りにも取り組んでいる。大人から子どもまで参加できるワークショップを全国で開催。
360年の歴史がある七島藺、その過去から受け継がれた本物のよさに触れてもらう機会を作っている。
実は、2014年公開の映画『蜩ノ記』に縁あって出演されていた岩切さん。七島藺とともに銀幕デビューを果たした。
工房内に足を踏み入れると、心地よい新品の畳の匂いが鼻を通り抜けた。束にまとめられた七島藺、さまざまな形をした工芸品が至るところに見受けられ、どこか安心できるような雰囲気が漂っている。
先ほど七島藺は国東半島のみと述べたが、岩切さんに訊くと国東の安岐町のみで、生産農家も7軒だけだという(2022年12月時点)。
七島藺の畳表ができるまでの工程を伺う。根がごつごつしていて太く、機械で植えることができないため、いまだに手作業とその大変さが窺えた。収穫に関しても、密集して生えるため、こちらも機械化できずに、手刈り。手間暇かかるので、大量生産よりも質にこだわって作られている。
良質だからこその用いられ方についても伺えた。2022年8月開業の星野リゾート「界 由布院」では看板をはじめ、館内でも七島藺工芸が用いられているそうだ。また、JR九州の豪華クルーズトレイン「ななつ星 in 九州」では、工芸品の製作体験が実施されるなど、七島藺の魅力に触れられる機会となっている。
『七島藺工房ななつむぎ』のお隣「諸冨商店」で、畳表織り作業の現場を見させてもらった。「諸冨商店」では、生産者が作る100%国東産の「くにさき七島藺」の畳表と工芸品を取り扱い、制作している。
畳表織りは半自動織機と全自動織機に分かれ、見学させてもらったのは半自動織機の作業現場。この道8年ほどという諸冨康弘さんの手際よさに目を奪われていると、あっという間に畳らしい姿に変貌していった。
「七島藺の畳表は、使えば使うほど味が出てくる。耐久性も増してくる」と作業のかたわら、諸冨さんが魅力を教えてくれる。
諸冨さんは元サラリーマン。七島藺の畳表づくりに携わる人は年々減少し、後10年もしたらいなくなってしまうかもしれない、と聞き、この世界に飛び込んだ。入ってみて、当然苦労は絶えなかったと言うが、貴重な伝統工芸を未来に残す1人になっている。
近辺には民泊を営んでいるところもいくつかあり、コロナ以前は外国人が見学に訪れることもあったそうだ。
ミサンガ・正月飾りづくりに挑戦!
岩切さんに教えてもらいながら、七島藺を用いたミサンガ・お正月飾りづくりを体験させてもらった。「自分、不器用ですから」と、往年の名俳優の言葉をつい漏らしてしまう筆者も、次第にコツを掴んでいく。三つ編みを編んでいく要領で、綺麗なミサンガを完成させることができた。
何より、七島藺の手触りのよいこと。畳の一部になると思えないような、ツルツルとした手触りだ。
続いて正月飾りに取りかかり始める。
体験作業中、ふと誰かの視線を感じる……振り返ると、『七島藺工房ななつむぎ』の看板猫が、作業の様子を見守ってくれていた。「あの男、物覚えが悪いにゃ~」と呆れられていたかもしれない。
伝統工芸に携わる方々の話を実際に伺い、制作の現場を見て、工芸品づくりを体験することで、そこに確かに息づいているものを感じた。
日本国内でも国東半島でしか作られない伝統工芸を、未来に残すために広く伝えたいという思いが、胸の内に宿っていた。
『七島藺工房ななつむぎ』
・住所:大分県国東市安岐町明治522
・アクセス:大分空港から車で約30分
SDGs……漁業者支援・環境保全に取り組む“ウニノミクス”。「大分うにファーム」
SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)に取り組む「大分うにファーム」を紹介したい。
地球温暖化などが原因で増えすぎたウニによって、海の森である藻場が食い荒らされる磯焼け問題。大分県の海の厄介者となったムラサキウニを価値のある商品に変え、地域経済、漁業者支援、環境保護を一石三鳥でかなえる循環型ビジネスを展開しているのが「大分うにファーム」だ。
「大分うにファーム」は、駆除対象のウニを定期的に漁業者から買い取り、研究開発を重ね確立させた専用飼料と技術を駆使し、約2か月の飼育期間で、地元特産品となる畜養ムラサキウニを生産・販売している。
環境保護活動を行いながら、漁業者へ新たな収入源を創出し、旅館やレストランなどの観光業界など、関わるすべての人が恩恵を受けられるような取り組みを実践している。
世界で初めて磯焼けウニの畜養ビジネスに成功した「大分うにファーム」。地方で灯される小さな灯火は、地域を、そして未来を照らしている。
【別府エリア】
日本一の温泉地別府は、老若男女が楽しめる、懐の深い場所
別府市は大分県の東海岸の中央部に位置する市である。別府と聞いて「温泉」を思い浮かべる人は多いと思う。市内各地で温泉が湧出し、総源泉数は日本の約1割を占めるほどだ。湧出量も日本最多だ。
別府の温泉は、通称「別府八湯」と呼ばれる8箇所の温泉郷を中心に湧き出している。それぞれの温泉郷は特徴が異なっており、町中から自然の中にある温泉地まで、幅広い楽しみ方が可能だ。
別府に足を運び、「ととのう」体験をぜひしてもらいたい。
新たな定番スポットのひとつに。『地獄温泉ミュージアム』
2022年12月1日にオープンした『地獄温泉ミュージアム』は、「地獄」と呼ばれてきた温泉地の物語を次の時代へと語り継ぐ、アカデミック・エンターテインメント施設だ。
周囲は温泉の香りが漂い、湯煙がもくもくと四方から立ち上っている。地獄巡りと併せて、ぜひ訪れたいスポットだ。
ガラス張りで開放的な設え、室内にはショップや「50 CAFÉ(フィフティカフェ)」というカフェも併設されていて、居心地のいい空間が広がっている。
このミュージアムでは、50年の歳月をかけて温泉が生まれるまでの長い旅を、追体験することができる。まずはプロジェクションマッピング映像で、雨水が地上に降り注ぎ、地面に染み込んでいく様子を目の当たりにした。その壮大な物語の序章に、すっかり見入ってしまった。
続いて、入り組んだ迷路とアート性の高い演出で、温泉水になっていく様子を体感。視覚的に楽しめる仕掛けや、フォトスポットがあり、幅広いお客さんに楽しんでもらえそうだ。また、体感しながら、各所に設置されたスタンプ台で、各自に配られたポストカードに好きな形や色の湯煙スタンプを押すことができる。ぜひ、世界で1つだけのオリジナルポストカードを作ってみよう。
体感できる楽しさだけではない。ビジュアル付きの解説は、温泉ができるまでの仕組み、温泉の種類など、温泉にまつわるあれこれがとてもわかりやすく掲載されている。
ミュージアムの2階では、別府鉄輪温泉の歴史をアニメーション映像でたどることができる。厄介者だった「地獄」が観光名所に……と目で追っていくと、最後にはハッと驚くような仕掛けが! ご自身の目で確かめてみてもらいたい。
宿泊は『別府温泉 杉乃井ホテル』で寛ぎのひとときを
せっかく別府へ足を運んだのなら、『別府温泉 杉乃井ホテル』で充実の時間を過ごしたい。
2021年7月開業の「虹館」に、「中館」、エンターテインメント施設などを含め、まるで小さな街を形成しているようだ。家族、恋人、友人と思い思いのシチュエーションに合った過ごし方で満喫できる。
敷地は広いが、ホテル内を行き交うシャトルバスを利用できる(時間外でもフロントへ声かけすれば送迎してもらえる)。
『別府温泉 杉乃井ホテル』の魅力として第一にあげたいのが、温泉。
5段からなる湯船を棚田状に広げた大展望露天風呂「棚湯」は、別府湾や街の夜景、そして晴れた日には四国佐田岬の方までその景色を望める。樽湯や寝湯、サウナも抜群の眺望。圧倒的な開放感と眺望を楽しんでもらいたい。(※リニューアルに伴い、2023年6月30日〈予定〉まで営業休止中)
店内中央の巨大水槽がシンボルのワールドダイニング「シーダパレス」も、外せない非日常体験だ。洋食・中華がメインのバイキング形式のレストランで、イタリア・ナポリの街並みを感じさせる店内は海外旅行気分も楽しめる。
素敵空間の雰囲気にあてられて、あれもこれもと欲張りたくなってしまうこと請け合いだ。
『別府温泉 杉乃井ホテル』の今後の展望
『別府温泉 杉乃井ホテル』の今後の展望も注目だ。
2023年1月26日より、フラッグシップ棟となる「宙館」が開業予定。「杉乃井ホテル」の敷地内で最も高い場所に位置し、天空の絶景が見渡せることから、“大空の上に広がる果てしない宙(そら)”をイメージして命名された。
最上階には海抜約250mから望む大パノラマの展望露天風呂「宙湯(そらゆ)」、さらには、多種多様な料理が並ぶビュッフェレストラン「TERRACE & DINING SORA」……など、別府の魅力を壮観な景色と上質な空間とともに堪能できる。
加えて、こちらも1月26日より、工事中だった「スギノイボウル」が全面リニューアルされ、エンターテイメント施設「SUGINOI BOWL & PARK」としてオープン。
また、屋外型温泉施設アクアガーデンの「噴水ショー」や、敷地内で実施されている「プロジェクションマッピング」も新プログラムに刷新される。
今後の展望も楽しみな『別府温泉 杉乃井ホテル』。何度も泊まりたいと思わせてくれる場所だ。
取材・文・撮影=阿部修作(編集部)