レトロな駅近ビルの最上階に広がる和洋折衷の異空間
JR恵比寿駅の1階改札口から西口ロータリーに出て徒歩2分ほど。あたりの建物を見上げながらビルの4階にある『アナログ カフェ ラウンジ トーキョー』を探していると、ライムグリーンの看板が目に留まった。最上階にポツポツと明かりが灯っている。「こんなところに……」と思うような場所にあるけれど、なんだか雰囲気はよさそう。
ビルの4階まで階段を上り店の前にたどり着くと、「全席喫煙可能」と書いてあった。掲示物に目をやると、開店当初から今なお喫煙できる店であることが丁寧に説明されている。
全面禁煙の風潮が広まるなかで社会からの要請に理解を示しつつ、「そのままであり続けたい」という強い思いを持っている、とっても素敵な店だ。
いざ扉を開けると、なんともレトロ感あふれるムーディーな空間が広がっていた。
おお~、この雰囲気こそ、まさに“隠れ家”と呼ぶにふさわしい! あまりにおしゃれでかっこいいので筆者にはハードルが高いと思いきや、一歩足を踏み入れると、不思議と気後れすることなくなじんでしまった。インテリア選びのセンスのよさをはじめ、店内の色調といい照明の明るさといい、空間づくりがうまいのだろう。
ふと客席を見ると、んん? ソファの上にわんこがいるぞ! 店員さんにたずねてみると、「うちはワンちゃん連れでご入店いただけます。ドッグカフェを謳っているわけではありませんが、全席ご利用になれますよ。大きなワンちゃんもOKです」とのことで、オーナーをはじめ店員さんも犬好きが多いのだそう。犬専用の特別メニューもあるので、店員さんに声をかけてみるといいだろう。
おしゃれカフェにして意外なガッツリ系ランチメニュー
さて、今回のランチは何をいただこうか。メニューはどこかと探していると、「こちらのQRコードをスマホやタブレットで読み込んで、メニューをご覧ください」と店員さん。ふむふむ、イマドキですな。
早速タブレットでメニューをチェックすると、ステーキにハンバーグ、ローストビーフ丼といったボリューミーな肉料理がラインナップされている。パスタ、オムライス、サラダプレートなど、どれを見てもカジュアルなカフェランチというよりは、わりとお腹いっぱいいただけそうなボリューム感だ。
今回は10年来の人気メニューのひとつだという、フレッシュトマトとモッツアレラのハンバーグをいただきます!
分厚いハンバーグに厚切りトマト&焦がしモッツァレラがのっていて、バジルの葉が添えられている。サラダとフライドポテトもどっさり盛られているので、なかなか食べ応えがありそう。
こ、これは旨い! 本格的なハンバーグの味におどろいた。店員さんいわく、「網脂をかぶせて焼いているので、一層ジューシー感を味わっていただけると思います」とのこと。それはまた手が込んでいる。濃厚なお肉の旨みとみずみずしいトマトの酸味が相まっておいし~い。モッツアレラのもっちり感もいいアクセント。
「人気の定番メニューだけでなく週替わりランチもお出ししているので、新しい料理もお楽しみいただけます。毎日のようにお越しいただいてもお客様に喜んでいただけるよう、おいしいお食事とくつろげる空間をご用意しています」。
この店では、17時までランチをいただけるのがありがたい。コーヒーを飲んでいる横でワインを飲む人がいたりして、遅めのランチや昼飲み、夜スイーツを楽しむといった、さまざまな客が同じ空間に混在している。それぞれが自由な感覚で利用できるのだ。
「いつまでも、何も変わらずそのままで、そこにあり続ける……」
アトレ恵比寿の開業を機に恵比寿の街が様変わりするなか、『アナログ カフェ ラウンジ トーキョー』は2008年にオープンした。「開店当初はまだ西口側には飲食店が少なく、人通りもそう多くはありませんでした。はじめのうちはスタッフみんなで、ビラ配りをしていたことを思い出します」と、店員さんの1人が当時をふり返る。次第に店は恵比寿の街に溶け込み、大人たちが集う“隠れ家”となっていった。
内装をはじめ店づくりはスタッフさんの手で行っており、DIYが得意な“匠”チームのメンバーが活躍している。「扉を開けた瞬間の光景が一番印象に残ると思っていて、ワクワク感が生まれるように工夫しています」。スタッフさんたちは遊びながら空間づくりを楽しんでいるそうで、その遊び心が感じられるからこそ「とっておきの隠れ家を見つけちゃった♪」と、こちらもうれしくなってしまうのだろう。
アンティークなテーブル、チェアやソファはすべてリペアしたもので、照明などもリメイクしており、店内のインテリアは絶えず入れ替わっている。デザインや座り心地の異なるチェアやソファがたくさんあるので、「お気に入りを見つけてください」と笑顔を見せる店員さん。混雑状況にもよるが、席指定での予約もできるそうだ。
隣り合うお客同士がいつの間にか仲良くなっていることもあるんだとか。思わず入りびたりたくなる居心地のよさだけでなく、この店にどことなく温もりが感じられるのは、そんな雰囲気にあるのかもしれない。
街が変貌を遂げるなかにあって、店は「そのままであり続けたい」と思い、客たちもまた「いつも変わらない」空間を求めている。「いつまでも、何も変わらずそのままで、そこにあり続ける……」というスタンスを貫く『アナログ カフェ ラウンジ トーキョー』は、この先も多くの客たちの“憩いの場”であり続けるだろう。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=コバヤシヒロミ