彼こそは「江ノ電自転車二キ」ディランさん
2021年8月の深夜。江ノ電のレアな旧車両と並走したために、撮り鉄とのトラブルに見舞われたディランさん。事情を知らないまま、カメラに向かって陽気に手を上げる姿はSNSでバズり、「江ノ電自転車二キ」として一躍時の人となった。
しかし、そんなエピソードも彼にとっては昔話。
「ウチの店がある腰越は最高。素敵な街を案内させてよ!」。
ディランさんはニューヨーク出身。サーフィンが大好きで世界のサーフスポットを求めて転々とし、やがて日本へ。2019年にこの地でタコス屋『HOME taco bar』を始めた。
「サンディエゴに住んでいた時、この辺に住んでいるサーファーと仲よくなって、『日本においでよ』と誘われたんだよ」
エキサイティングな出会いだらけの街
絶品のタコスを堪能したら、いざ出発。コーラを入れたタンブラー片手に軽快に歩き出すディランさん。
まず向かったのは、ブルガリア人・ラザロさんが2019年に開業した『SHONANPHOTO CAFÉ』。店の売りは常時100種類ほど揃えるワイン。うち3分の1は、なかなかお目にかかれないブルガリアワインだ。
「人気フードのバルカンバーガーもブルガリア産の食材にこだわっています。日本のハンバーガーとは、味わいがだいぶ違いますね」と、ラザロさん。
うーん、腰越、侮れませんぞ。ロケーションも抜群で、江ノ電が店の目の前を走る。腰越駅も近いので、カンカンカンという踏切の音も情緒を添える。
ここで、ディランさんはタンブラーにラムを足してもらってラムコークに。彼の足取りがより軽やかになっていく。
次に向かったのは、3年前にオープンした『BAR 羽亜人(ハート)』。ディランさんいわく、「ママが優しくて面白い」。腰越では数少ない貴重なバーだ。
「ウチは飲ん兵衛の溜まり場なのよ。テキーラなんて、みんな一晩で平気で1本から1本半空けるから。ディランは大体いつもギターを弾きながら飲んでるよね」と、めぐみママ。
すると、ディランさんがしみじみと語り出す。
「みんな江ノ島か鎌倉高校前で降りるけど、いま一番熱いのは腰越。今日の3軒も含めて、ここ2〜3年で新しいお店がどんどんオープンしてる。ここは進化し続ける『シン・腰越』なんだよ」。
街を歩いて気付くのは、コンビニやチェーン店がまったくないこと。これまでも、これからも地元を愛する人々で形成されている街なのだ。渋くもエキサイティングな出会いがある腰越。途中下車してでも立ち寄りたい街だ。
国際色も豊かながら、地元密着スタイル。今回の「シン・腰越スポット」
1. 『HOME taco bar』
大人気のタコスはソースも生地も手作り!
看板メニューはすべてが手作りのタコス。オリジナルのサルサソースのこだわりは日本人の舌に合わせないこと。「生地も毎朝粉から作って、注文を受けてから火を入れるんだよ。こんなお店なかなかないでしょ?」と、ディランさん。皮はコーンの濃厚なテイストが衝撃的。手で食べるのが本場スタイルなのだ。
●12:00~15:00・17:30~20:00、火休。☎080-1387-9292
2. 『SHONANPHOTO CAFÉ』
江ノ電ビューに大興奮! 開放感抜群のダイニングカフェ
圧巻のワインセラーと店のすぐ目の前を江ノ電が走るというロケーションに大興奮。メニューは、東欧をテーマにしたドリンクとフードが中心だ。名物のバルカンバーガーはパティ、スパイス、ローストの赤ピーマン、ヨーグルトソースのすべてがブルガリア産。これが東欧の味か、と深く感動した。
●11:00~21:00(土・日は 22:00まで)、不定休。☎0467-40-4774
3. 『BAR 羽亜人』
全国の酒好きさん、いらっしゃい~!
チャーミングなめぐみママは、銀座や六本木でお店をしていたという接客のプロだ。「2019年のオープン当時、この街にはバーがなくて、私が大好きなテキーラ飲めなかったの。だったら、自分で始めちゃおうと思ったわけ」。営業スタイルは地元密着型。完全予約制なので、ママのトークを聞きたかったら事前に電話を。
●17:00~24:00、火・水休。☎090-5556-5744
取材・文=石原たきび 撮影=鈴木愛子
『散歩の達人』2022年6月号