“常識にとらわれない”にこだわる絶品創作イタリアン
新宿御苑前駅を出て新宿御苑とは反対の方向へ5分ほど歩く。このあたりは、オフィスビルやマンション、店舗も多いが、新宿駅周辺や歌舞伎町と違って、同じ新宿とは思えない静かさがある。そんな街並みに溶け込んでいる『イタリアンダイニング ばさら』。派手さこそないが気取らずに誰でも気軽に入れるイタリア料理店だ。
さっそく店に入ると、スタッフがあたたかい笑顔で迎えてくれる。左側に厨房、右側にはテーブル席が並ぶ。店内は派手な装飾もなく、落ち着いた雰囲気だ。店の奥には半個室タイプの4人用ボックス席がある。ゆっくりとディナーを楽しみたいときには特等席になりそうだ。
「常識にとらわれず、自由な発想で作った料理を提供したいという思いから『ばさら』とつけました」と店名の由来を教えてくれたのはオーナーシェフの木瀬史郎さん。『ばさら』は漢字で書くと“婆娑羅”なんだそう。
27歳の時に、たまたま行ったお店で食べたイタリア料理のおいしさに感動、自分のお店を持っておいしい料理を多くの人に味わってほしい、という思いで料理の修行を始めた木瀬さん。料理人としては遅いスタートだったが、自分の店を持つという明確な目標を達成するため、石窯のあるピッツァ店や居酒屋、割烹料理などさまざまなジャンルの店で修行し、2007年に念願のお店を開業する。
イタリア料理店だが、イタリアンの常識にとらわれず、木瀬さん独自の発想と解釈で、和食の要素を取り入れた日本人の味覚に合うイタリアンを提供している。まさに「婆娑羅」なイタリアンだ。
シェフの「こだわり」がつまったランチメニュー
ランチはパスタが3種類、ご飯もののシェフランチが2種類。パスタランチには自家製パンとサラダが付く。メニューは月曜と木曜に変わるので、毎日通っても飽きることはない。
「料理は食材選びが一番大切」と語る木瀬さん自ら豊洲市場へ足を運び、旬の食材を見て選んでメニューを決める。今回はそんなシェフこだわりのパスタランチの中から、ベーコン・丸茄子・新玉葱のトマトソースをいただくことにする。
ランチで味わえるシェフこだわりの1つめが毎朝店で焼いているという自家製パン。オリーブオイルをつけて一口いただくと、いままで経験したことのない、しっとりふわふわ食感に驚く。しっとり感とコクのある味わいが絶妙のバランスだ。
こだわりの2つめはサラダ。ランチセットにつくサラダは小鉢程度というお店も多いが、「野菜を食べたなー」と実感できるほどボリュームたっぷりだ。鮮度抜群のレタスにかかっているフレンチドレッシングもこだわりの自家製。酸味がとがっていないので食べやすい。まろやかな味にするための隠し味は砂糖だそう。シャキシャキ感のある野菜とよく合い、とてもおいしくいただいた。
シェフが豊洲市場で旬の食材を厳選
ではメインのベーコン・丸茄子・新玉葱のトマトソースをいただこう。厚切りベーコンと丸茄子が、ごろごろと入っている。この値段でこんなに具材が充実していて大丈夫なの? と心配になってしまうが、これはシェフが市場で直接食材を確認して買い付けるからこそできる技。
例えばこのベーコンは、市場でふぞろい品として売られていたものを通常品より格安で仕入れてきたもの。厚切りベーコンの食感を楽しむためにはボリュームが大切だが、安く仕入れた分、より多くの量をメニューに使うことができる。丸茄子も新玉葱も同じようにシェフが自分の目で見て選んできた食材だ。
ベーコンの食感を楽しみながら、しっとりした丸茄子と新玉葱を味わう。ベーコンの油も、油を含んだ茄子も、しつこさを感じない。酸味が控えめなトマトソースには鴨のブイヨンを使っているそう。パスタの茹で具合も固すぎず、具材の食感とちょうどいいバランスとなっている。全体にまろやかな味わいでまとまった一品だと感じた。
この価格で、これだけのこだわりが詰まったパスタランチをいただけるのは幸せといっていいだろう。ディナータイムもランチタイムと同様に豊洲市場から仕入れた食材をふんだんに使ったメニューと料理に合ったワインが用意されている。次の機会には、ぜひディナータイムに訪れたいと心から思った。
木瀬シェフは自分のことを「職人気質で、なんでも自分でやりたいんです。料理を作るのも、食べるのも、接客も、なんでも好きで、ソムリエの資格も取得しました」と笑って話す。さらにテイクアウト専門店も開店準備中とのこと。来店できない人にも『ばさら』の味を届けたいという思いから、新しい業態にチャレンジするという。
婆娑羅なシェフが、イタリアンの常識にとらわれず、自由な発想で挑戦する創作イタリアン。これからも期待したい。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=羽牟克郎