誠実な手仕事から生まれる料理
『yuzuki』は、下北沢駅東口から徒歩3分ほどにあるビルの2階で営業を行っている。店内に入ると、目の前にはカウンター、右手にはテーブル席が並ぶ。壁の一部は黒板化しており、そこにびっしりと書かれた定食やつまみのメニューに興味をそそられてしまう。
この店は、昼・夜の部でメニューの入れ替えがないのが魅力。昼からお酒と一緒に本格的なつまみを楽しめたり、反対に夜でもしっかりと定食をいただけたりと、まさに近所に1軒あるとうれしい店だ。シェフの山口拓也さんは、20年以上フレンチを専門としてきた実力者。2019年のオープン以来、『yuzuki』の顔として腕をふるい続けている。
そんな山口さんがメニューを考えるうえで意識しているのが、季節感を取り入れること。特に、つまみ料理の多くは季節ごとに内容が入れ替わるため、その都度旬のものを積極的に扱うようこだわっているのだとか。取材時は4月だったため、フキやホタルイカ、タケノコなど春らしい食材を使用した品が並んでいた。お酒のラインナップも、季節ごとに変わるものがあるというので、ぜひ注目してみてほしい。
また、魚は毎日市場から仕入れ、一匹ずつ丁寧に下処理を行う手間も惜しまない。人気のアジフライ定食で使用するアジは、毎日山口さんがさばいているという。
そういった背景には、山口さんのこんな想いがある。「お客さんに喜んでもらうことを一番大切にしています。そのためにも、低価格で最大限よいものを提供したいので、できることはしっかりとやっていきたいと思います」。
目移りしてしまいそうなほど豊富な定食メニューの中から、今回いただいたのは鶏唐揚げ・刺身盛合わせ定食。唐揚げのソースは、おろしポン酢かネギダレ、マヨネーズから選べるシステムになっている。
刺し身は日替わりで、この日はマグロとコチだった。ちなみに、コチは鳴門から直送されたものだという。さらに、小鉢もついて栄養面でも申し分なし。
新鮮な刺し身と、カリッと揚がった唐揚げという最強の組み合わせは、ごはんがどんどん進むはずだ。
下北沢に普段使いができる食堂を
この店には、近隣で営む姉妹店が2軒ある。2014年、イタリア料理店「オステリア月市(つきいち)」の跡地に、その常連客だった阿武亮介(あんのりょうすけ)さんがオープンしたワインバー&ビストロ『lumielune(ルミエルネ)』からキャリアがスタート。
2019年に2号店となる、ここ『yuzuki』がオープンしたのは、5年もの間店を育ててくれた下北沢への地域貢献も込めて、気軽に普段使いできる食堂をつくりたいというオーナーの想いからだった。
『yuzuki』の山口シェフは、『lumielune』でシェフを務める木原良尚(きはらよしなお)さんと20年来の仲だったことから、新店舗のシェフに抜擢。フレンチから日本食へと畑が変わっても、培ってきた料理人としての腕を活かしながら、人気店へと成長させてきた。
2022年4月には『yuzuki』で山口さんとともに調理を担当してきた1人・佐藤シェフが料理長を務める『和食とワイン つぐみ』がオープン。和食の道で長らく経験を積んできた佐藤シェフの技術を見込んで挑戦した新業態だった。
職人のスキルを活かして、それぞれに合った場を提供する勝負心とその潔さ。これから下北沢の飲食シーンを盛り上げ、支える中心的役割を担っていくような気がして、今後の活躍から目が離せない。
『yuzuki』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英