バラエティ豊富過ぎのランチメニューに呆然!
ランチタイムが落ち着いた午後2時。それでもお店の中には、遅いランチを食べる数組のお客さんがぽつぽつ。奥行きがあり、思いのほか広い店内の大きな丸テーブルを贅沢に独り占めして、テーブルの上にあるランチメニューを見て驚いた。
「本日のランチ」「選べる定食」の2枚のメニューがあるのだが、そこには思わず2度見してしまうほどメニューがびっしり。
「本日のランチ」をみると、日替わりランチだけでもA~Dまで4種類の定食、日替わり麵セットが2種類、7種の麺から選べる麺セット、焼き餃子定食にシウマイ定食、百番人気のオリジナル料理5種類が並ぶ。
「選べる定食」に至っては、16種の主菜と半ラーメンの組み合わせが選べるAとBの定食2種類、AまたはB定食の主菜から好きなハーフサイズ2品が選べるC定食、7種の麺から選べる麺セット、そのハーフサイズのレディースセットまである。
定食・セットの値段は、下は餃子定食の700円、上は主菜2品が選べるC定食の1350円。その上なら、百番オリジナル料理の極上蟹餡かけ炒飯1700円だ。
百番一押し、人気の特製酸辣湯麵を注文
この驚愕のランチメニューに圧倒され、しばし混乱したがともかくも注文だ。実は評判の酸辣湯麺が食べたいと思ってきたのだが、正直、このメニューを見てちょっと気持ちが揺らいだ。だが、初志貫徹。百番オリジナルの特製酸辣湯麺を注文した。
鼻を衝く酸味のある独特な香りに、空っぽになった胃袋から催促する音がした。では、まずはスープから。
口いっぱいに広がるやさしい酸味。舌を刺すような酸っぱさはない。細かいダイス状のフレッシュトマトが口の中ではじけて、濃厚なスープのアクセントになっている。豚肉、干しシイタケ、タケノコのうま味も効いている。
トロトロのスープの中から引き揚げた麺は、少しやわらかめ。もちもちとした食感がすっぱ辛いスープと絶妙にマッチして、箸が止まらなくなった。
ここの酸辣湯麵は、熱々の食べ始めから少し冷めた最後に至るまでむせるような酸味や辛みではなく、ずっとやさしい味がした。これまでもいくつかのお店で酸辣湯麵を食べてきているが、もう少し“カド”があったように思う。
メニューには「当店オリジナル」とあり、名前には「特製」がつく。その秘密をオーナーの白井誠さんに聞いた。
元イベント屋がプロデュースするエンタテイメントな町中華
戸越銀座『中国料理 百番』は昭和26(1951)年、もともと芝愛宕下で営んでいた店を戸越銀座商店街に移転したのが始まり。創業者の祖父から父が店を継ぎ、現オーナーの白井さんで3代目となる。
実は、そもそも店を継ぐ気はなかったという白井さんだったが、イベント関係のサラリーマンとして20年間勤めたあと、42歳でこの店を継いだ。
「ちょうど転職を考えていたときに、たまたま父に相談を持ち掛けられたんです」と白井さん。「店を継ぐ気はなかったんだけど、タイミングが合ったんですね、恐ろしいほど。ピンポイントです、ほんと、不思議なことに」とも。
かくして、まったくの異業種にポンと飛び込んだ白井さん。しかし、店の実情は順調とはいい難い状況だったのだそう。そんな状態で、だいぶ苦労をしたのでは?
「まあ前職が活きたといえば、活きたんですよね。イベントもお店も、人を集めるとか、来て喜んでもらうっていう仕事という点では共通する部分がある。それが、エンタテイメントから食べ物に変わったというだけ。これは(前職が)活かせるなと思った」と、そう苦労はしなかったと白井さん。
前職で培ったイベントプロデューサーとしての手腕で『中国料理 百番』をプロデュースし、お客さんが絶えない人気店に盛り上げた。人気の特製酸辣湯麵も、白井さんがオーナーとなってからのオリジナル商品だ。
百番オリジナル特製酸辣湯麵の誕生秘話を聞く
白井さんが「ウチの酸辣湯麵は、僕が作ったんです」という百番オリジナルの一番人気、特製酸辣湯麵。その誕生にはどんなストーリーがあるのか?
「昔、酸辣湯麵がちょっとブームになったことがあるんだけど、当時ウチのメニューにはなかった。そこでサラリーマン時代に日本橋の中華屋で食べた旨い酸辣湯麵をパクろうと思って、水筒持って食べに行ったんです」と白井さん。しかし、何年かぶりに食べに行った酸辣湯麵は、どこにでもあるような普通の味に変わっていた。
だったら自分で作ろうと、白井さんは舌の記憶を頼りに店のコックとともにあの旨かった酸辣湯麵を再現することに。しかし何回作り直しても、思うような味にならない。そんな中でも100回近く作り直すうち、100%ではないが「おいしい!」と思えるものができた。
「そこでよしとして、それをウチの酸辣湯麵としたんです。その後、コックがいろいろな野菜を加えて改良を重ねて今の形になったんです」と白井さん。かくして、白井さん曰く「ひと口目で身体がフワッと温かくなる」という、滋味あふれるやさしい味わいの酸辣湯麵が誕生した。1日に2回食べに来る人もいるそうだ。
最後に、白井さんに『中国料理 百番』の今後のプロデュースについて伺った。すると、こんな答えが返ってきた。
「地元のインフラとして、みなさんのQOL(クオリティ オブ ライフ)に貢献できたらいいですね」。冠婚葬祭のすべてで利用してもらえるような、とも。食はまさしく、生きて行くために欠かせない“インフラ”だ。『中国料理 百番』は今も、そしてこれからも、この商店街になくてはならない存在であることは間違いない。
取材・文・撮影=京澤洋子(アート・サプライ)