A3判の紙には縦横に引かれた線と手描き文字と絵がびっちり。「あっおやまっぷ」は実に読みごたえのある地図だ。喫茶店の副店長の青山正博さんは、来客に名所や飲食店のおすすめを聞かれるたびにメモ紙に道案内を描いて渡していた。7年前、地元小学校からも街のことを教えてほしいと依頼を受けたのを機に街について調べるように。その延長線上にまっぷは生まれた。

地図作成に使う資料。旧浦和市の地図や航空写真、浦和に住んだ水上勉の『フライパンの歌』も。
地図作成に使う資料。旧浦和市の地図や航空写真、浦和に住んだ水上勉の『フライパンの歌』も。

紙面にはうなぎ店の位置や神社の話、古本市の日程、さらには、縄文時代にアイヌ人が住んでいたとか、牧場があったとか、駅舎の駅名は駅長が書いていた、などと豆知識の目白押し。でもスマホを持たない青山さんはインターネットを一切使わない。では情報源は?

「店に来る地元の方と話したり、お店仲間のところに顔を出せば何かしら話してくれるんです。だから噓か実(まこと)かわからないことも書いてあります。でも歴史は妄想でもいいと思う。考えるだけで楽しいでしょ。とりあえず、自分が見聞きして書物で調べたことが形になった感じでしょうか」。

「あっおやまっぷ」を手にする青山さん。『楽風』の塀は街やアートに関する情報もずらりと貼られ圧巻。カードやチラシははがして持ち帰れる。
「あっおやまっぷ」を手にする青山さん。『楽風』の塀は街やアートに関する情報もずらりと貼られ圧巻。カードやチラシははがして持ち帰れる。

発行開始から8年の間には大型マンションの建設や道路拡張工事があり、老舗も多く閉店。浦和が変わる姿に迷いを感じてペンが進まないこともあった。だが、2020年3月までの累計発行部数は6万部だったところ、コロナ禍になり地元に目を向ける人が増えたのか、その後1年間で異例の約2万部も「取ってもらえた」という。

イラストボードに0.05~0.5㎜のサインペンで描いた元原稿。よく見ると紙を貼った部分も。
イラストボードに0.05~0.5㎜のサインペンで描いた元原稿。よく見ると紙を貼った部分も。

「私は変化を描いていくだけ。詰め込めるだけ詰め込んでやれ」との思いで、21年3月、6年ぶりの全面描き換え、22年3月には早くも最新版を発行する。22年春以降の再開発工事で店々が姿を消す西口駅前一帯がどう描かれるかが今回の見どころだ。「ただ、この地図は自分の行動範囲だけ。東口は描かないのかとよく聞かれますが、東口のことはサッパリで……」と、苦笑いしつつも、「東口には190以上のお店があります。お気に入りを見つけて下さい」なんてコソッと書くところに青山さんの浦和愛を感じた。

illust_13.svg

青山さんのお店『楽風(らふ)』

築130年の空間で楽しむお茶とアート

明治時代から茶販売を行う『青山茶舗』併設の日本茶喫茶ギャラリー。趣ある建物は明治24年(1891)築の納屋で、茶づくりの作業場だった。絵画、写真など多彩な展覧会を開催。お茶495円~。

住所:埼玉県さいたま市浦和区岸町4-25-12/営業時間:10:00~19:00/定休日:水/アクセス:JR浦和駅から徒歩9分

取材・文=下里康子 撮影=加藤昌人
『散歩の達人』2022年3月号より