『モナリザ』の起源は御徒町。ママは喫茶店での接客歴50年
船橋駅南口からまっすぐ。本町通りを渡ると急に道が細くなるが、さらにまっすぐ。道を抜けると突き当りに『珈琲モナリザ』が現れる。レンガ造りのモダンな建物だ。
出迎えてくれたのは『珈琲モナリザ』のママ、立光信栄さん。創業から40年以上店に立ち続ける信栄さんに、お店のことや街のこと、お客さんへの思いなどを伺った。
信栄さんの生まれはアメ横のある東京・御徒町。信栄さんが大学生の頃、父親が御徒町に喫茶店をオープンした。そのお店の名前が「モナリザ」。店名は、そのご実家のお店の名前をいただいたんだそう。
ご実家の「モナリザ」で8年ほど働き、結婚して船橋で暮らし始めた信栄さん。お子さんも生まれ、しばらくは専業主婦だったという。「やっぱりなにか商売がしたくて。お店を開くとしたら、やっぱりずっとやってきた喫茶店だなと思って」。昭和55年(1980年)、『珈琲モナリザ』を開店した。
「御徒町のお店をすごく気に入っていたので、同じ設計士さんに設計をお願いしました」と信栄さん。照明などは設計士さんと一緒に秋葉原まで探しに行ったそう。調度品もすべて注文でつくってもらった。
「だからここにしかないんです。すごくお金を掛けました。でもそれがそのまま40年ですから、安いもんです」と信栄さんは笑う。オープン以来、まったく改装はしていないそう。イスやテーブルも、手入れをしながら大切に使っている。
これぞ純喫茶な王道メニューとこだわりの食事メニュー
お食事メニューもドリンクも甘味も、品数豊富。メニューを見てるだけでも楽しくなってくる。では、チョコバナナホットケーキをいただきます。
おぉ、懐かしさを感じるこのビジュアル! 最近のふわふわのパンケーキもそれはそれで魅力的だけど、この硬めの生地のホットケーキ。これぞホットケーキ。王道ですよね。
ホットケーキに完熟バナナ、そこに生クリームとチョコレートシロップがたっぷり。これは昭和のごちそうですね。ふわふわも美味しいけど、適度な弾力のホットケーキの食感がたまらない。ん~、なんとも懐かしい気持ちにさせてくれます。
コーヒーにはコーヒーシュガーとグラニュー糖の2種類の砂糖。これも純喫茶の王道ですね。そして、丁寧に折られた紙ナプキン。これも王道。懐かしさに気分がほっこりします。
お食事メニューもたくさんあって、これは迷ってしまいますね。毎日来れる人がうらやましい。
「最初は食事はピラフとナポリタンだけ、みたいなところから始まってるんですよ。喫茶店だから。あってもせいぜいトーストやサンドイッチ。でもお客さんからスパゲッティもっと種類ないかな、とか、あれ作ってくれない? なんて言われるとこっちもがんばっちゃって。そしたらこんなにたくさんになっちゃった(笑)」。
こだわりは冷凍食品を一切使わないこと。すべて素材から仕込んでいる。だから「できないものはやらない」と決めているそう。大事なこだわりですね。
厨房をあずかるチーフは開店当時からのスタッフ。ほかも長く勤めているスタッフばかり。「家族ではないですけど、家族以上です」と信栄さん。「お客さんには、ここでは何を食べてもハズレはないからって喜んでいただいています。腕の確かなスタッフがいますから」。固い絆で結ばれていることがうかがえる。
昭和を知らない若者世代の来店も大歓迎
お客さんはほとんどが地元の常連さん。ママさんとのおしゃべりが楽しみで来るお客さんも多い。「すぐ隣が病院なので、おじいちゃんやおばあちゃんたちが病院へ来るのが何よりの楽しみだって。病院の帰りにここへ寄ってご飯が食べられるからって。一人暮らしのお年寄りも多いので」と信栄さん。
「小さい頃に親に連れられて来ていた子がお父さんになって3世代で来てくれたり。いたずらばかりしてた子がいいお父さんになってたりして。うれしいですよ。あー、まだあったんだーって喜んでくれて」
最近は昭和レトロブームもあって、純喫茶めぐりをする若者も増えている。「若い人は、わー! って言いながら入ってくる(笑)。“懐かしい”じゃなくて、“新しいものを発見した”って感じね」と話す信栄さん。若い人たちの来店は大歓迎だそう。
2021年10月に発売された“街ガチャ in 船橋”。船橋の有名スポット10カ所がキーホルダーになった。その1つが『珈琲モナリザ』。船橋市の10大名物に入ったってことですね。
「10カ所の中に選ばれたのは大したもんだと思ってます(笑)。お客さんが来てくれる限り、長く続けられるようにがんばります」と素敵な笑顔で答えてくれた信栄さん。
周りがどんどん変わってしまってもここがあれば昔の町の面影が思い出せる。ずっと変わらないお店があるって素敵なこと。いつまでも残してもらいたいお店である。
取材・文・撮影=丸山美紀(アート・サプライ)