岩手県盛岡市生まれ。公私ともに18年以上、日本酒を呑みつづけ、全国の酒蔵や酒場を取材し、数々の週刊誌や月刊誌「dancyu」「散歩の達人」などで執筆。日本酒セミナーの講師としても活動中。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』(イースト・プレス)
生酒が苦手でもおいしく飲める新酒が増加しています
新年あけましておめでとうございます。
2021年の12月。日本酒を飲んで原稿を書く、をくり返していたらいつの間にか年の瀬になり、息も絶え絶えこの原稿を納めたのが末日近く。この記事が公開される2022年1月1日も、きっと寝正月は叶わず、仕事をしているはずです。トホホ。
さて、今年はどんな日本酒と出会えるのかなあと期待に胸をふくらませていますが、それにしても日本酒はどんどんおいしくなっていますよね。この、どんどんおいしくなっています、という言葉は長い間くり返し書いているので、自分でもめちゃくちゃ書き飽きているのですが、嘘ではないので、日本酒ってすごいなと改めて思うわけです。
まず、今期の新酒のできが、そうでしょう。新酒は、昨年の11月くらいから出はじめるので、息つく間もないほど飲み続けていますが、言葉を考えるまでもなく「旨い!」と即答する日本酒が多いこと。少なくとも数年前には感じられなかった現象です。
新酒は加熱処理をしていない生酒がほとんどですし、酒を落ち着かせる間も無く出荷する季節商品なので、全体的に酒質がちょっと荒く、アルコール感が強くてツンツンしているのが特徴です。なので、個人的には新酒は味のおいしさを楽しむというよりも、生誕祭に参加する感覚でお祝い的に飲むものです。新酒は生まれたての赤ん坊みたいなものなので、酒の素質を見極める絶好の機会でもありますが、そもそも私は生酒が苦手なので新酒とは、趣味より仕事寄りで、相手を立てて譲歩するように飲む日本酒でした。
ところが、今期は素直においしいと思える新酒が増えています。生酒が苦手な私でも好意的に感じる酒質が多くなってきているのです。
以前に比べると、口開けはシュワっとするようなガス感がある新酒(ガス感が残る製法がありスパークリング日本酒とは異なる)が増えている気がしていますが、まだ落ち着かない荒さはありつつ、それがプラスに働いて酒の中に生き生きした躍動があります。新酒らしいフレッシュ感もありながら、ちゃんと味を整え仕上げてきているな、と感じる酒が多いんです。若さを売りにただ荒削りの酒質にするのでもなく、フレッシュ感を抑えつけて落ち着いた酒質にするのでもなく(たまに新酒なのに老成している酒がある)、絶妙なバランスを持っている新酒には、感嘆するしかありません。前期はコロナ禍でみなさん苦労したぶん、いつにも増して造り手の気合が垣間見えるようで胸が熱くなります。
つまるところ、今期はいい歳の重ね方ができる素質ありの日本酒が多数。もしかしたら2022年は、過去最高にいい日本酒豊作の一年になるかもしれませんね。
素質ありの新酒にバタポン風味のつまみを合わせる
福島県の「廣戸川 純米にごり生酒」も、私が感嘆した新酒です。口開けはシュワシュワしていて発泡感があり、フレッシュでドライな口当たり。端正な米の旨みと爽快な苦味のバランスもいいですね。味の中心にしっかりした糸のような芯があるので、時間が経っても味崩れがなく、体幹がブレない若者のようです。
この新酒に合わせるつまみとしてイメージしたのは、まったりしたバターと瑞々しい風味のポン酢。旬の牡蠣と甘いちぢみホウレン草を加えたつまみをつくりますね。
牡蠣1パック、ちぢみホウレン草1~2株、サラダ油小さじ1、バター8g、塩ひとつまみくらい、市販のポン酢、柚子の皮を適宜。
フライパンにサラダ油を入れ、水切りして洗った牡蠣を中火でサッと炒めます。少し火が通ったら一度、取り出します。
続いて、適当に刻んだホウレン草を、牡蠣を入れた同じフライパンで炒めます。塩はひとつまみくらい入れてください。
ホウレン草がしんなりしてきたら牡蠣を入れ、中火で一緒に炒めます。
バターを入れてよく混ぜ合わせます。
ポン酢をじゅわ〜っとかけ、さらに混ぜ合わせて火を止めます。
皿に盛りつけて柚子をあしらったら完成です。
ではでは、飲みましょう。「廣戸川 純米にごり生酒」を合わせると、牡蠣のミネラル感がぐわ〜っと口の中に広がります。ちぢみホウレン草の甘みは、酒の旨味にとても合いますね。バターの風味が強いまったりしたつまみですが、ポン酢と柚子の柑橘系の風味が効いているので、後口はさっぱり。この酒のドライな甘みと爽やかな苦味に、気持ちよく同調しますね。飲み出したら特快電車みたいにどこまでも止まらない組み合わせ。の、飲みすぎちゃいます〜。
「廣戸川 純米にごり酒」をグラスに注いで少したっても、このように細かい泡が立っています。酒が生きているなあと実感する瞬間。新酒を飲むとは、酒の生命をいただくことなのですよね。飲むほどに体に力がみなぎってくるようです。造り手のみなさんに感謝しながら、改めて襟を正して乾杯。2022年もいつもと変わらず、日本酒を楽しみながらたくさん飲みたいと思います。
文・写真=山内聖子