Profile:山内聖子
呑む文筆家・唎酒師
岩手県盛岡市生まれ。公私ともに18年以上、日本酒を呑みつづけ、全国の酒蔵や酒場を取材し、数々の週刊誌や月刊誌「dancyu」「散歩の達人」などで執筆。日本酒セミナーの講師としても活動中。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』(イースト・プレス)
私の記憶が確かならば、かつての日本酒の世界では、日本酒蔵の蔵元が堂々と他の酒を飲めないような雰囲気がありました。しかし、今は自由に好きな酒を飲む蔵元たち。他ジャンルの酒を楽しむ蔵元たちは、日本酒造りの可能性をさらに広げています。
実は、いつもより日本酒を飲む量が減ってしまうのが暑い夏。後ろめたいようなさびしい思いを抱えながらも、自分の体に従って他の酒に浮気してしまう私ですが、これからやって来る秋冬は、自分にとって本妻ならぬ本夫である日本酒が主役になる季節。その季節が本格的に到来することを、今か今かと待ちわびている最近です。

突然やってきた高級な日本酒を心して飲む

そんなときに突然、知人から届いた到来物。いかにも絶対割っちゃダメというシールが貼られ、厳重にプチプチで包装されたこの酒は、多くの日本酒の中で妙なオーラを醸し出していました。

開けてみると、「リンク8888」とまるで暗号のような言葉が書かれたシックな箱とボトルが出てきました。ボトルに小さく書かれていた銘柄は「満寿泉」。そうか、「満寿泉」さんか。富山にあるこの酒蔵は、昔から高級酒に力を入れているイメージが強かったので、これもラベルを一新した普通の大吟醸か何かだろうと想像していましたが、同封されていた小さい冊子に書かれている詳細を読んで思わず「???」。

「リンク8888」とは、スコッチウイスキーで世界的に有名なシーバスリーガルとコラボレーションした商品。「満寿泉」のいろんな純米大吟醸をそれぞれ、シーバースリーガルの原酒を12年以上寝かせていたアメリカンオーク樽に入れて熟成させ、さらにそれらをブレンドして仕上げたという高級酒でした(説明書には「参考小売価格は6050円・税別」)。

スコットランドのシーバスリーガルの蒸留所は、「満寿泉」の酒蔵と8,888km離れているところから、この名前がついたそうですが、しかしながら、シーバスリーガルの樽で寝かせた純米大吟醸をブレンドした酒とは? 未知の日本酒に疑問符が何個も浮かびましたが、何はともあれ興味津々、さっそく飲んでみることにします。

せっかくいただいた高級酒なので、ふだんは登場の機会があまりないバカラのグラスに注いでちびり。ほのかに鼻をくすぐる樽の香りの合間から、やわらかいコンパクトな米の甘みや、ドライフルーツのような凝縮した果実味が広がります。そして、再び樽の香りの余韻が続きます。なめらかで繊細な味。アメリカンオーク樽の風味は控えめで、日本酒の酒質を凌駕せず、ほどよく調和しています。ふだん飲み慣れない日本酒の味ですが、飲んでいると口になじみ、だんだんうまくなってくるのがふしぎ。これはとんでもない日本酒をいただいた。そう慌てた私は、合わせたいつまみを直感で決め、行きつけのスーパーへ走ります。

黒毛和牛を満寿泉「リンク8888」で蒸し焼きに。

迷わず肉売り場へ直行し、(ほんとはスライスしたものを買うつもりが)年末のスーパーの活気に押され、勢い余って国産の黒毛和牛をブロックで購入。し、霜降りですよ。思わず肉を持つ手が震えてしまいました。今回は(誰かに怒られそうだけど)贅沢にも、この肉に「リンク8888」を振りかけちゃいます。

黒毛和牛ブロック190gくらい、菜の花、ブラウンマッシュルーム、ミニトマト(野菜は火の通りやすいものだったらなんでもOK)、「リンク8888」、黒胡椒、醤油、塩を適宜。

まず、肉の両面に黒胡椒をたっぷりと振ります。そして、もみ込むように黒胡椒を全体になじませます。

テフロンのフライパンに油を引かずに肉を載せ、中火でじっくり両面や側面を焼いていきます。

肉に焼き目がついてきたら、半分に切ったマッシュルームやざく切りした菜の花、トマトなどの野菜を肉の周りに敷き詰めます。さらに冷蔵庫にある茹でた芽キャベツの存在を思い出し、追加で加えてみました。(なので野菜は本当に何でもよい)

野菜に少し火を入れたら、いよいよ「リンク8888」を投入しますよ。心の準備はいいですか。

今回ばかりは手が震えてしまい、ああっ、ちょっとドボドボ注ぎすぎたかも。(右手に酒。左手にスマホ。つまり酒を注ぐのと撮影は同時なのです)本来は、ひと回しくらいかけたら蓋をして、アルコールを飛ばしながら2〜3分くらい蒸し焼きにしたら完成です。

肉はスライスし、野菜とともに盛りつけます。

フライパンに残った汁は醤油を入れ、煮詰めてタレをつくります。

先ほど煮詰めたタレは別添えに。塩もつけていただきましょう。

塩でシンプルに味わうのもおいしいですが、こうやってタレにどっぷりけてもいいですよ。

う、うまい!

すぐに追いかけて酒もぐびり。上質な肉の脂とまったり溶け合い、黒胡椒がピリッと全体を引き締めます。特に「リンク8888」が入ったタレとの相性は言わずもがな。なんて口がとろけるメロウな組み合わせなんでしょうか。なんだかバチが当たりそうなほど贅沢な酒とつまみですが、年末だし、まあいいか。今年も悔いのないよう、末日の最後までたくさんの日本酒をとことんおいしく飲むぞ、と開き直る酔った私。ひとまず、この酒をカラにしなきゃね。

文・写真=山内聖子

日本酒は、どんな料理にもなんとなく合ってしまう柔軟性が魅力です。中華にイタリアン、フレンチなどでも、合わせたときに対立する料理がほぼないということです。しかし、私は特に自宅だと、日本酒を合わせてみよう、と考察させられる料理よりも、無意識に日本酒を飲みたくなるつまみを好みます。今回は、そんなつまみをつくるちょっとしたコツについて書きます。
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