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Profile:山内聖子
呑む文筆家・唎酒師
岩手県盛岡市生まれ。公私ともに18年以上、日本酒を呑みつづけ、全国の酒蔵や酒場を取材し、数々の週刊誌や月刊誌「dancyu」「散歩の達人」などで執筆。日本酒セミナーの講師としても活動中。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』(イースト・プレス)
こんばんは、山内聖子です。私は、趣味が日本酒、仕事も日本酒の物書きです。長い間、日本酒のことばかりを考えて毎日を過ごしているのですが、このコラムは、そんな私が偏愛するあらゆる日本酒の話と、日本酒を飲みたくなるつまみの簡単なレシピを、毎回ひとりごとのように紹介する記事です。今回は、今の季節に日本酒の主役となる新酒について改めて考えみました。しばし、ひとりごとにおつきあいいただけたらうれしいです。

6年前に比べて一皮むけた日本酒はレンチンでも旨くなる

実は『散歩の達人』2月号(2022年1月21日発売)の日本酒特集をいくつか担当したのですが、今の日本酒の底力をつくづく実感しています。

担当編集者によると、大々的に日本酒を特集するのはなんと2016年以来。当時も私は様々な記事を執筆しましたが、ふり返ってみても、この6年の間に日本酒はまた一皮むけた気がしています。6年前は、生酛(きもと)という伝統的な酒母の造り方に挑戦する蔵元が増えてきたり、アルコール度数を下げた日本酒や、焼酎用の白麹を使い爽快な酸味を出した酒など、多様な製法を用いた日本酒に注目が集まっているときでした。

しかし、昨今(私の中でも)目立ってきているのは、新しい製法にあれこれ飛びつくのではなく、いかに酒質の精度を上げていくのかを優先して考える酒蔵。常に全ての工程を見直し、実直に酒の質を上げていく造り手なのです。

そんな酒蔵の日本酒は、おいしくいただける飲み頃の期間が長く、開封しても格段に劣化が少ない。むしろちょっと寝かせたほうが、角が取れて味がよくなる酒も少なくありません。

そして、このたびの日本酒特集で私が担当した燗酒企画で実感したのは、6年前よりも電子レンジでチンしてもいい酒が増えている、ということでした。私がおすすめした日本酒だけではなく、これを機に紹介しない日本酒も色々とレンチンしてみたのですが、いや、びっくり。少なからず私が自宅に保存している日本酒(生酒以外)は、だめ、という酒がなかったのです。わざわざ温めるよりも、冷やして飲んだほうがおいしい酒もありましたが、少し飲むだけならレンチン燗もアリな日本酒ばかりでした。

酒を徳利に入れてレンチンすると、温度ムラがあったり、熱くなりすぎたり、湯煎で温めるよりも欠点はおおいにあります。同じ酒をレンチンと湯煎でつけ比べてみると、もちろん手間をかけて湯煎で温めたほうがおいしいのは事実です。

しかし、レンチンで温める欠点をカバーし、ふつうにおいしいと思わせるのが、今の酒質が高い日本酒の特徴なのではないでしょうか。造り手は決して、レンチンしてもらうために酒を造っているはずもありませんが、彼ら彼女らの酒質向上の努力は、こういうところにもあらわれているのです。

ですから、思い切ったことを書いてしまうと、燗酒用として売っているのに、レンチンで味が崩れておいしくなくなる酒があると、「酒質よわっっっ!」と、私は悪態ついてしまいたくなります。

先ほども書きましたが、月刊誌の燗酒特集で私がおすすめする一本に「鶴齢 純米吟醸」があります。たぶんこの酒は、純米吟醸と書かれているので冷やして飲む人が多いかもしれませんが、温めてもおいしいですし、レンチンでもイケます(実はここだけの話。他におすすめした酒も全てレンチンOKでした。詳しい銘柄は発売後に本誌をご覧ください)。

温めると、酒がつやつやになり、なめらかな口当たりになります。新潟(鶴齢の地元)の雪景色が似合う、美しい味わいです。

寒さにしみる汁物つまみを合わせます

さて、寒さが厳しい日が続いているので、つまみは汁物です。包丁も出汁もいらないので簡単ですよ。

鶏モモ肉のひき肉207g、青海苔を大さじ3強、木綿豆腐75g(写真の半分)、水を約500ml、鶴齢を猪口2杯、塩、片栗粉、豆板醤を適宜。

まず、ボウルにひき肉、木綿豆腐、片栗粉小さじ1強、塩小さじひとつまみを入れます。

全体に粘りが出るまでよく混ぜ合わせます。

鍋に水と「鶴齢 純米吟醸」を入れて火をつけます。

少し沸騰してきたらスプーンで丸めたひき肉を入れます。

ひき肉からの旨味を引き出すため、3分ほど中火弱で煮ます。この時に少し塩を入れて味を整えてください(この後、加える青海苔から塩気が出るため控えめに入れてください)。

灰汁を取りつつ、スープの表面が少し白濁してきたら、青海苔をたっぷり入れます。

よく混ぜ合わせたら味見をし、塩が足りなければお好みで追加してください(仕上げに豆板醤を入れるのでしょっぱくなりすぎないようご注意を)。最後に片栗粉でとろみをつけたら完成です。

深めの器に盛りつけたら豆板醤を添えましょう。「鶴齢 純米吟醸」の地元の名産・かんずり(唐辛子に麹や柚子を入れて発酵させたもの)があればもっといいですね。

「鶴齢 純米吟醸」を冷酒で飲んだ後は徳利に入れ、1分強くらいレンチンします。徳利には酒をやや少なめに入れると、盃に注いだ時に酒が対流しやすくなるので、多少は温度ムラを防ぐことができますよ。

さあ、飲みましょう。

まずはつまみをいただきます。ふわふわの鶏団子と、とろりとした青海苔の出汁がよく絡んで、まったり旨い!豆板醤を入れると、辛みが出汁を引き締めます。

ここで「鶴齢 純米吟醸」の燗酒をグビリ。いい味〜穏やか〜優しい〜。この酒を燗にすると、まるでまろやかな米の出汁みたいになりますね。シンプルな鶏団子と青海苔の出汁にもさりげなく寄り添います。

ぜひとも出汁もつまみにしましょう。大きめの片口につまみを盛ったのは、このように出汁を飲むためでした。出汁をすすり酒をすする。そのうち、どっちをすすっているんだかわからなくなるほど、酒とつまみが一体になりました。

文・写真=山内聖子

日本酒は、どんな料理にもなんとなく合ってしまう柔軟性が魅力です。中華にイタリアン、フレンチなどでも、合わせたときに対立する料理がほぼないということです。しかし、私は特に自宅だと、日本酒を合わせてみよう、と考察させられる料理よりも、無意識に日本酒を飲みたくなるつまみを好みます。今回は、そんなつまみをつくるちょっとしたコツについて書きます。
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