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Profile:山内聖子
呑む文筆家・唎酒師
岩手県盛岡市生まれ。公私ともに18年以上、日本酒を呑みつづけ、全国の酒蔵や酒場を取材し、数々の週刊誌や月刊誌「dancyu」「散歩の達人」などで執筆。日本酒セミナーの講師としても活動中。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』(イースト・プレス)
私の記憶が確かならば、かつての日本酒の世界では、日本酒蔵の蔵元が堂々と他の酒を飲めないような雰囲気がありました。しかし、今は自由に好きな酒を飲む蔵元たち。他ジャンルの酒を楽しむ蔵元たちは、日本酒造りの可能性をさらに広げています。
実は、いつもより日本酒を飲む量が減ってしまうのが暑い夏。後ろめたいようなさびしい思いを抱えながらも、自分の体に従って他の酒に浮気してしまう私ですが、これからやって来る秋冬は、自分にとって本妻ならぬ本夫である日本酒が主役になる季節。その季節が本格的に到来することを、今か今かと待ちわびている最近です。

酒が翌日に残りにくい飲み方とは

ある晴れた朝。私はとある病院の診察室にいました。今日は、数年ぶりに受けた健康診断(特定健診・大腸ガン・胃がんハイリスク・肝炎ウィルス)の結果を告げられる日。自由業の私は、なんだかんだと言い訳して健康診断をずっとサボっていたので、どんな結果が出ているのかまったく見当もつかず、おろおろしながら担当医の表情をうかがっていると、予想に反してO先生はにっこり。

「単刀直入に言いますと優秀な結果です。若干、血圧が高めですが、それ以外は問題ありません」

おおっ、と私は前のめりになりながらO先生に、いちばん気になっていたγ-GTPの数値を聞いてみると、え、とびっくり拍子抜け。

「38です」

け、血糖値は………。

「基準値以下です。よかったですね。体重も標準以下なのでダイエットの必要もありません。これからも引き続き、体調管理しながらお酒のお仕事がんばってくださいね」

と、またまたにっこりするO先生が、あぁ、神様に見えてくる。もはや心の中は狂喜乱舞。さすがに健康診断の前日は禁酒したものの、その前の日は記憶がなくなるほど呑んだというのに、そもそもこんなに日本酒を飲み続けているというのに、我が肝臓よ体よ、丈夫でいてくれてありがとう。

なんて、自分の体をさすりながら帰り道にふと。数年前に健康診断をした時に比べて、もろもろの数値がよくなっているのは、お酒の飲み方を少し変えたからかなあ、とひとりごちる私。

いちばん効果があったのは……

思い返すと、40歳を過ぎてから、加齢のせいもあると思いますが、めっきり酒が弱くなったなあと感じることが多く、コロナ禍で外飲みがほとんどできなくなってからは、ますます肝臓力が低下し、酒が弱くなっていく気がしていました。しかも、二日酔いにはなりませんが、日本酒に限らず何を飲んでも翌日に酒が残ることも増加。今まで“夜ごはんは米の酒”とかなんとか言って毎晩、米は液体(日本酒)で取っていても翌日はすっきり目覚めていたのに、どうしちゃったんだろう。これは、酒の魅力を伝える人間としてはかなりまずい。

そう焦った私は、意を決して飲みすぎた翌日は禁酒することを自分に課しました。また、肝臓を鍛えるべく、ほぼ毎日、昼食にシジミの味噌汁を飲み、肝臓を助けるタンパク質(肉・魚・大豆・卵など)やビタミン類(野菜)、ミネラル(海藻類)などの食材を欠かさず多めに摂取するよう心がけました。

さらに、日本酒を飲むときは体を冷やさないよう(体が冷えるとアルコールの代謝が低下)お湯をがぶがぶチェイサーにし、家酒のときは湯たんぽを肝臓に当てながら酒をすするなどの処方を1年くらい続けたところ、気がつけば翌日に酒が残ることが減少。そして、日頃、運動不足だったからかもしれませんが、意外にもいちばん効果があったのは、散歩でした。

とにかく飲む前はよく歩くこと。そうすることで、代謝が上がって血の巡りがよくなるからか、アルコールの抜けが早くなりました。(あくまでも個人の感想です)歩くといい運動になって体は引き締まるし、何より、喉が渇いておいしく酒が飲めるといういいことづくめです。

健康に気を遣いながら飲むのはカッコ悪いと思っていた過去の自分に、寄る年波には逆らえないと教えてあげたい。これからも、我が肝臓と叱咤激励し合いながら、ずっとおいしく日本酒(他の酒も)飲めるように努力し続けたいです。

肝臓を助けるしみじみ旨いつまみです

さて、今回つくるのは、タンパク質をたっぷり取れるモツ煮です。モツや豚肉はタンパク質の宝庫ですからね。ポイントは高野豆腐(これもタンパク質多め)を入れること。実はこれ、野球チームの千葉ロッテマリーンズが本拠地、千葉マリンスタジアムで食べた、高野豆腐入りのモツ煮を真似たもの。はじめて食べたとき、いろんな素材の旨みが染みた高野豆腐のおいしさに感動し、以来、自宅でモツ煮をつくるときは必ず入れるようになりました。

国産豚白モツ180g、豚バラ肉50g、高野豆腐3〜4枚、ゴボウ1本、ニンジン1本、大根1/3本、シイタケ1パック、刻みネギ、コンニャク1パック、水、日本酒「秩父路の銘酒 武甲」、醤油2回しくらい、味噌(白がおすすめ)をお好みで。ストックしておくと味がさらに染みておいしくなるので(うどんを入れて煮込んでも旨い)、多めにつくりましょう。野菜もたっぷり体に優しいつまみなので、毎日食べてもいいかも。

先ほど材料に書きましたが、合わせる日本酒は「秩父路の銘酒 武甲」です。奇をてらわない地味に旨い酒質で、ひなびた甘みに思わずホッ。ひとくちでゆるゆるになれる味わいです。

ダイコンとニンジンはいちょう切りにし、シイタケとコンニャクは手でちぎります。ゴボウはよく洗って斜め切り。豚バラ肉は適宜、刻んで全部を鍋に入れます。

「秩父路の銘酒 武甲」を一合くらい注ぎ、具が少し浸るくらいまで水を加えて火をつけます。中火でじっくり煮ていきましょう。

様子を見て水を足しながら一時間くらい煮てください。

モツが柔らかくなったら醤油をじゃ〜(×2)っとかけます。

よく混ぜたら、味噌をお好みで入れてください。

味を整えたら完成です。

最後に刻みネギをたっぷり乗せます。七味をかけてもいいのですが、豆板醤もおすすめ。少しずつ味変しながら食べましょう。

このモツ煮は高野豆腐がほんとうにおいしい! 出汁がいい感じに染みてます。

この日本酒は小ぶりの酒器ではなく、できればおっきい湯のみで飲みたいですね。ぐびぐび豪快にどうぞ。ひなびた甘みは、野菜の滋味に寄り添います。湯のみのままレンチンで燗酒しても旨いですよ。チェイサーでお湯も飲みつつ、湯たんぽを片手に飲めば、体の芯から温まります。

文・写真=山内聖子

日本酒は、どんな料理にもなんとなく合ってしまう柔軟性が魅力です。中華にイタリアン、フレンチなどでも、合わせたときに対立する料理がほぼないということです。しかし、私は特に自宅だと、日本酒を合わせてみよう、と考察させられる料理よりも、無意識に日本酒を飲みたくなるつまみを好みます。今回は、そんなつまみをつくるちょっとしたコツについて書きます。
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